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資生堂とユナイテッドアローズが明かすメールマーケティング手法KeyConductors

デジタルマーケティングに取り組む上で直面した課題と、それをどのように解決したのか。担当者が本音で語る。

» 2016年12月28日 10時00分 公開
[丸山隆平キーマンズネット]

 2016年12月13日と14日の2日間、セールスフォース・ドットコムは年に一度のイベント「Salesforce World Tour Tokyo2016」を開催した。今回は小売業のマーケティングセッションとして、資生堂とユナイテッドアローズがデジタルマーケティングに取り組む上で直面した課題と、それをどのように解決したのかについて、それぞれの担当者が語った内容を紹介しよう。

メールは本当に役立っているのか? 資生堂の答え

吉本健二氏 吉本健二氏

 まず、1つ目のテーマは「デジタルマーケティングに取り組む上で直面した課題と、それをどのように解決したのか」について。資生堂ジャパンの吉本健二氏(ダイレクトマーケティング部Web推進室サイト運営グループ)は、「CRMの文脈で考えると大きく3つ変わった」と資生堂の取り組みについて述べた。

 「まず、店頭とWebの顧客データ統合によって顧客の全ての行動が把握できるようになった。2つ目にメールでコミュニケーションを取れる会員数が爆発的に多くなった。3つ目が分析用のデータウェアハウスを整備することで効果測定が可能になり、メールからの売り上げが以前より簡単に分かるようになった」

 ただし、効果測定が可能になったことにより、近視眼的なマーケティングに走ってしまう危険性も出てきたと吉本氏は指摘した。その理由について、「会員数が増えたこともあり、メールを送ると各コンテンツのPVが増えるようになった。

 その時点ではメールを送った効果で会員数が増えたかどうかの因果関係は明らかになっていない状態だったにもかかわらず、その短期的な結果を見て、上層部からは『もっとメールを出せ』というプレッシャーが来るようになった。その後メールを多発したことで、1人当たりのメール受信数は増え、それと同時にメール会員の退会者が急増した」と述べた。

 その対策として、資生堂ではメール戦略を「(1)ECの売上拡大」「(2)店頭への送客」「(3)エンゲージメントの強化」に分け、それ以外の目的が不明確なメールを整理した。また、基本的にスケジュールされたもの以外のメール配信も廃止した。さらに、顧客の嗜好や過去の購買履歴に合わせ、セグメント配信も変えた。吉本氏はその結果、1人当たりのメール配信数は大幅に減少したが、退会数も大幅に減少したと明かした。

 同社ではその後、顧客の動向に合わせたシナリオ型のメール配信を開始することにした。「2014年の終わりごろ、当初は手動でシナリオを走らせるという「荒技」により、半年間の効果を見た結果、効率がかなり良いことが判明したため、セールスフォースの『マーケティングクラウド』を導入して本格的に開始することにした」と吉本氏は語った。

テクノロジーとデータがそろいキャンペーンマネジメント環境が整った

高田賢二氏 高田賢二氏

 ユナイテッドアローズの執行役員事業支援本部本部長兼デジタルマーケティング部部長の高田賢二氏は、同社のデジタルマーケティングのベースとしてEC、Web、CRMの3つが三位一体となって動いているとまず紹介した。その中でも、ロイヤリティーの高い顧客を増やすための戦略の中心が、顔と名前が分かるCRMの活用だと続けた。

 ユナイテッドアローズでは、「2つあったハウスカードのプログラムを2016年8月に統合した。展開するブランドも多く、10年目を迎えたこともあり、ハウスカードプログラムを整理するためにマーケティングプラットフォームを構築した。従来の店舗中心の画一的なダイレクトマーケティングから大きく変化している現在の顧客行動に対応し、よりカスタマイズしたパーソナルなアプローチを取り、マーケティングオートメーションの基盤を構築した。テクノロジーとデータがそろったことで、キャンペーンマネジメントの環境が整った」(高田氏)とした。

シナリオマーケティングをどう展開するか?

 では顧客を理解するためのシナリオマーケティングをどうすればよいのか。ユナイテッドアローズの高田氏は、マーケティング環境を導入するだけでは課題が解決するわけはなく、しっかりとしたシナリオを作成することの重要性を指摘した。

 「今回マーケティングオートメーションを導入するに当たり、顧客と当社との関係性に着目した。関係性を把握した上で、ステップごとに必要なシナリオを設定。より深みのあるシナリオを構築した。顧客のライフスタイルと感情、意識などを把握し行動を予測した上で、当社との関係性を考慮しながら設計した」(高田氏)とし、既にリリース済みの案件として6つのシナリオ――(1)初回購入後のフォロー、(2)店舗購入後の会員登録フォロー、(3)会員ランクのアップ、(4)お気に入り登録商品の在庫減少の連絡、(5)ギフト向けメール、(6)メールメンバーの会員化、を紹介した。

 そして高田氏は「タイミングよく、最適なメッセージを出し分けることがキャンペーンマネジメントを成功させる要因だ」と述べた。

 一方、資生堂ジャパンの吉本氏は2016年から展開している「モーメント」を中心としたCRMシナリオの作成について解説した。モーメントとは顧客が今、この瞬間に考えていること。吉本氏は「モーメントを蓄積・分析することでシナリオを作成している。現在の行動ログと過去の行動の蓄積を掛け合わせてモーメントをつかもうとしている。モーメントの分類はブランド、美容に関する好み、チャネル(どこで購入しているのか、どんなデバイスを使っているのか)、プライベート属性、の4つの軸で行っている」と説明した。

 最後に今後の展開について、吉本氏は「LINEの活用を考えている。メールでは一方通行になりがちだが、LINEは双方向でコミュニケーションする傾向があるため、LINEならではの体験を顧客に提供していきたい。また、LINEはメッセージを発信したら返信が1時間以内に3通は来る。その特性を生かし、リアルタイム配信を行いたい。独自アプリは、まずインストールしてもらうハードルが高いので、既に多くの方が利用しているLINEを活用したい」と語った。

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