MMCFTPはTCPを利用しながらも転送速度の指定が指定でき、その速度を超えずにテラバイトクラスの大容量ファイルでも安定して転送できる特徴を持ち、ネットワークの遅延が大きい海外とのファイルのやりとりが従来よりもはるかに高速にできる利点がある。
上述の実験環境はユーザー数が少ない学術情報用のネットワークが主に使われているが、これは多数のユーザーが共用するネットワークでも十分利用可能と思われる。従来の長距離通信ではWAN高速化装置(TCPアクセラレータ)で高速化するしかなかったが、専用装置を使わずとも高速化できる可能性も見えてきた。
クラウドへのバックアップやDR(ディザスタリカバリ)対策のための大量データ転送にも向いている。そもそもMMCFTPは遠隔拠点へのDR目的で開発されたものだ。海外クラウドへのデータ転送は既に検証されており、ダブリン(アイルランド)のAWSを受信先、東京のNIIを送信元として、遅延275ミリ秒のネットワークで指定速度約2Gbpsで転送実験したところ、ほぼ指定速度通りのスループットでの高速転送が実証されている。
MMCFTPの課題としては、ユーザー数が増えると、速度指定によっては共用回線を占有してしまう可能性があることが挙げられる。過剰な速度指定を検知し、回避する方法はこれからだ。
MMCFTPの要素技術はNTTデータが特許を取得(特許5379892 : ファイル転送方法,そのシステムおよびプログラム)しており、現在のところNIIが学術用途に対する実施許諾を得て、SINET利用者に限り無償で利用可能にしているが、山中氏はゆくゆくはISPがサービスに組み込むことにも期待している。
DR目的、あるいはIoTやマーケティング用のビッグデータ解析などの用途に、大量ファイル転送へのニーズはこれからますます大きくなることだろう。海外クラウドの利用にも伴い、WANの高速化はこれからの必須技術になる。光ファイバー増速研究が進む中で、各種通信プロトコルの見直しや新規開発につながる研究も多い。ビジネスにも当然無関係ではない。特別な装置購入などの必要のない増速技術に期待したい。
NIIが構築・運用する日本の学術情報ネットワーク(Science Information NETwork)。国内の大学や研究所など約850の機関が利用している。1992年に運用を開始、2016年4月には新バージョンのSINET5に移行した。現在は全都道府県を100Gbps回線で結び、米国とも100Gbpsで接続している。欧州とは20Gbpsの回線が新設された。
「MMCFTP」との関連は?
MMCFTPはSINETを始め学術研究に利用できる高速ネットワークが続々と整備されている現状に対応し、その帯域を有効に活用して研究用データの国際間共有や利用を広く推進する意図がある。
NICTが構築・運用する研究開発テストベッドネットワーク。1999年に運用開始、JGN2、JGN2plus、JGN-Xと移行し、現在はJGNとして稼働中。全国20か所にアクセスポイント、コネクティングポイントを設置、各拠点を結ぶ幹線区間は、最大100Gbpsのバックボーンを有する。各種のネットワーク技術や利活用技術の研究開発の検証に利用できる。
「MMCFTP」との関連は?
MMCFTPの実証実験にJGNが利用されている。SC16ではJGNのテストベッド環境を米国に延伸した形になっている。
TCPには輻輳制御のためにネットワークの輻輳状態に応じてウィンドウサイズを制限して転送速度を調整する機能がある。これにより輻輳回避ができるが、ネットワーク状態によって転送速度が変わるのは一面では弱点でもある。
「MMCFTP」との関連は?
多数のTCPコネクションを利用することで通信のスループットをあげるのがMMCFTPの基本的な方法なので、各コネクションが回線の帯域の取り合いをすると通信が不安定になり、速度が上がらない。そこで帯域探索をせず、あらかじめ利用者が決めた指定帯域での通信を行う。
帯域探索はLAN帯域よりもWAN帯域が小さかった時代には有効だったが、現在のWANはLANよりも高速になっていて、転送速度は端末のディスク速度が決めるほどになってきた。過剰すぎる目標速度でなければ、指定速度で十分に通信できる可能性が高い。
ちなみにSATA SSD搭載PCでは4Gbps程度、PCIeフラッシュドライブ搭載PCでは8Gbps程度の転送速度になるという。本文は、高性能ワークステーションと上述の高速ネットワーク環境を利用した最高速度に関する話。現実の利用シーンでは1ユーザーがこれほどの目標速度を指定することは、それほど多くないと考えてよさそうだ。
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