ソフトバンクが設置する全国40万カ所のWi-Fiアクセスポイントのデータ活用が本格始動。「ソーシャル・ビッグデータ」はどこまで使えるのか。
「東京マラソンをコース付近で観戦した外国人旅行者は、その夜をどこで過ごしたか」。そんな情報がすぐに把握できる解析手法が開発された。発表したのは大学共同利用法人情報・システム研究機構(NII)の曽根原 登教授らのチームだ。従来、政策や意思決定のための調査、分析は年単位や月単位で行われてきたが、この新手法ではそれが週単位、日単位、時間単位でできるようになり、政策や意思決定までの時間を劇的に短縮できる可能性があるという。
「ビッグデータの中でも特に公共性があり、社会的課題の解決や新たなサービスの創出などに貢献できるものがソーシャル・ビッグデータである」曽根原教授の研究チームは中でもWi-Fiのログと各種Webサービスから抽出できる情報に注目し、観光客の宿泊状況の把握や、移動状況を「群流」として高速に把握・追跡できるシステムを構築した。
同チームの小出哲彰特任研究員は「きめ細かい意思、政策決定には科学的根拠=エビデンスとなるデータが必要。しかしそのデータを収集、分析、活用する基盤がこれまでなかった。また集団の動き(群流)を把握することも難しかった」という。
それらの課題をクリアし、従来は1年あるいは月単位でまとめられる政策決定のための統計、調査を、週、日、時間単位にまで期間短縮し、リアルな現状に即した意思、政策決定を支援するのがこの研究の目的だ。特に観光客に着目しているのは、「産学官連携による地方創生・地域活性化政策を支援する」ことを1つの目標にしているからだ。
現在、研究の材料にしているのは、ホテル予約やチケット販売などのWebサービスからのデータと、外国人向け無料Wi-Fiサービス(FREE Wi-Fi PASSPORTサービス)のWi-Fiアクセスポイントのログデータである。アクセスポイントのログは共同研究パートナーであるソフトバンクの外国人向け無料Wi-Fiサービス(FREE Wi-Fi PASSPORTサービス)から収集する。
それらのビッグデータを収集して統合データベースに蓄積、分析、可視化を行う。同時に、自治体や大学、企業のシステムとの連携基盤を構築し、研究開発支援、政策立案支援、アプリ・サービス開発支援、データ活用人材育成支援に活用できるオープンプラットフォームに育てていく(図1)。
同チームは2013年に、Web上に公開されているデータを利用した「観光予報システム」を開発、実証実験を行っている。インターネットで公開されている膨大な宿泊施設のデータを横断的に収集・蓄積・分析し、観光地域の宿泊状況や料金を予測した。
例えば複数のホテル予約サイトから同一ホテルの予約状況のデータを定期的に収集・蓄積しデータを統合すると、そのホテルの空室状況などが精度高く分析できる。その結果を可視化したのが図2だ。ホテルごとの日次での予約状況のリスト表示や、地図上にプロットされた各ホテルの稼働状況の表示(ピンの色などで区別)、県全体の平均稼働率の移動平均グラフなどが示された(図2)。
ただし、ホテル予約には電話予約など他の予約方法もある。予約サイトからのデータだけによる推定が、宿泊の実態を反映したものになるかどうかは疑問だ。それに対し小出氏は、「京都市の178宿泊施設の稼働率推定値を、観光庁による1カ月単位の宿泊旅行統計調査報告と比較したところ、誤差は7%。ほぼ一致している」という。
誤差はあるにしろ、1カ月間待たなければならない正確な情報よりも、今すぐ手に入り大筋で実態を把握できる推定情報の方が有用なケースは多いだろう。特に、災害などの緊急時の避難や帰宅難民への対応などでは、空室情報の迅速な把握が特に求められる。このようなシステムなら、平常時には予約状況確認などのために常用しながら、いざというときにはそのまま緊急対応に役立てることもできる。
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