個人データの開示範囲が制御できる「PPM」を活用した電子レシートが登場した。レシートで財布がパンパンにならなくなるかも。
今回のテーマは「PPM搭載電子レシート」だ。PPM(Privacy Policy Manager)は、個人がパーソナルデータを外部のサービス提供者などにどこまで開示するかを制御できる仕組み。買い物の際にレシートをスマホで受け取る電子レシートシステムと組み合わせる実証実験が行われた。利便性とプライバシー保護の問題解決に向けた、技術面からのチャレンジだ。「情報銀行」といったプライベートデータ利活用構想にも関連するこの実験はどんな意義を持つのか?
PPM搭載電子レシートは、パーソナルデータを自己管理・制御できる仕組み(PPM)を備えた電子レシートシステムだ。経済産業省(経産省)が推し進めるデータ流通構造のオープン化に関連した事業の1つで、東芝テックが受託しKDDI総合研究所がPPMを提供する。福岡市の株式会社トライアルカンパニー協力のもと、スーパーマーケット店舗でこの3月1日から12日にかけて実証実験が行われた。個人情報保護機能を搭載した電子レシートシステムの実証実験は世界初のことだ。
電子レシートは、文字通り電子化されたレシート(領収証)のこと。東芝テックが提供している「スマートレシート」の場合は、消費者がスマホに対応アプリを導入、小売店での支払いの際にアプリが表示するバーコードを提示、店員がPOS端末で読み取ると、スマホに電子レシートが送信される仕組みになっている。
消費者にとってレシートは必要なものではあるが紙で財布が膨らむのを嫌う向きがあり、スマートレシート利用経験者の9割以上が継続利用を望む(東芝テックによる)という。レシートを紛失することがなく、アプリ機能により購入履歴参照や費目の自動振分なども可能で、しかもアプリに表示される広告や情報から簡単にキャンペーンやクーポンなどにアクセスできるという利便性が評価されているようだ。
一方、電子レシートをサービスとして提供するのは小売店本部などの企業である。企業の狙いは、消費者が持つモバイルデバイスに自社アプリを入れてもらい、常に自社との接点を身近に持ってもらうことだ。サービス契約時に居住地域・年齢・職業・性別その他の情報を企業側に提供してもらい、その情報をOne to Oneの広告や情報提供やCRMに役立てる。それがうまくできれば売上につながり、顧客満足度向上、固定客化やファン化につながるのだ。特に実店舗への集客を図るO2Oマーケティングでは、店頭で使われる電子レシートシステムは有効な手段と考えられる。
このような、ユーザーのプライベートデータを集める代わりに便利なサービスを提供するのはよくある手法。しかしこれには「どこまでのプライベートデータが渡るのか」「いったん企業側に渡したデータはどのように流通し、何に使われるのか」「そこにプライバシー侵害のリスクはないのか」という疑問や不安がつきまとう。実際にはアプリやサービスの利用契約時に、どのような情報を収集し、何に使うのかが「利用規約」の形でサービスなどの利用開始前に確認できるようにはなっている。
しかし、現実的には細かくて長い文章を読まなければならず、大抵は飛ばし読みか、全く読まずに契約している場合が多いだろう。つまり業者が欲しがるプライベートデータを全部渡すか、渡さずにアプリやサービスを使わないかの選択しかない。またいったん渡したデータがどのように使われているかを自分で確認・検証する機会は、事実上ないと言っていい。利用停止時のデータ削除についても同様だ。
そこでプライベートデータの提供範囲をユーザー自身が決め、その範囲に応じたサービスが利用できるようになるだけでなく、データへのアクセス履歴も確認できるようにしたのが「PPM」の発想だ。
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