プライバシーを侵害しない形でプライベート情報を利活用するためには、技術面と社会制度および通念の面での課題克服が必要だ。日本でこの5月末から本格施行される改正個人情報保護法はその部分を法的に解決するための一歩となるが、EUの一般データ保護規則をはじめ世界的にプライバシーの厳格な保護へのニーズは高まっている状況にあり、この法的整備だけでは十分とはいえない。
経産省の産業構造審議会をはじめ、さまざまな場で「データは誰のものか」「利活用とプライバシー保護のバランス」「大手企業によるデータ寡占化が適正競争を阻害しないか」といった議論が続いている一方、ユーザーが欲しいサービスを簡単に選んで使えるカスタマイズドサービス、プライベートデータなどを業者から独立した機関で預かり流通を制御する「情報銀行」などのプラットフォーム、それに関連するPDSや分散PDSなどの研究開発も並行して進んでいる。
PPMはこうした社会的・技術的背景から発案されたもので、HEMSなどのIoT活用サービスや電子レシートをはじめ、多様なサービスに応用可能なプライバシー保護技術となっている。
ユーザー側から見ると、自分のデータを自分の判断で納得して提供でき、それが適正に取り扱われているかどうかのチェックができるという安心感があり、受け入れやすいデータ保護方法になることだろう。
またサービス提供側でもユーザーのデータ提供に関する合意内容が明確になり、プライバシー問題を起こさずにデータ利活用が可能になるメリットがある。
PPM搭載電子レシートシステムは、サービス普及時の大量データ処理、大量アクセス管理、時に超大規模なデータになる各種ログをどの粒度で保管・活用するかなど、技術的な課題はあるものの、ユーザーが不安を感じないで新しいサービスを利用でき、またサービス提供側もプライバシー侵害リスクに萎縮せずにサービス開発ができる環境の創出に、大きな一石を投ずるものとなりそうだ。
政府(IT総合戦略本部)が構想するパーソナルデータの保護と利活用のためのプラットフォーム。民間サービス業者などとは独立した第三者機関で、個人との契約でパーソナルデータを預かり、あらかじめ同意が取れている条件に従い、データを求めるサービス業者などへの提供を行う仕組み。
「PPM搭載電子レシート」との関連は?
PPMは情報銀行やPDSの仕組みにも対応するプライバシー保護技術。パーソナルデータの提供に際しての同意形成を助け、同意内容に基づいたデータだけの提供を行うことができる。最初に適切なデータ提供条件を設定しておけば、あとは同意に関わる作業を省略できる。電子レシートにPPMが搭載されることで購買情報の提供と業者側での利活用が双方のリスクを避けながら行えることになる。
「Online to Offline Marketing」。Webなどのオンラインメディアで集めた顧客・見込み客を、実店舗(オフライン)に来てもらうようにするマーケティング手法のこと。これには顧客・見込み客個人の属性や行動・嗜好傾向などを理解し、それを反映したきめ細かいアプローチが有効とされる。
「PPM搭載電子レシート」との関連は?
モバイルデバイスは個人にひも付いているため、スマホを利用したサービスからの情報収集は、高精度の個人属性を反映したものになる。スマホアプリの電子レシートアプリからの購買情報は貴重な情報源であるとともに、頻繁にアプリを利用することから高頻度に情報発信することができ、クーポンなどを利用して来店を促進する効果がある。情報提供に抵抗感がある場合に、PPM搭載であることが不安緩和要因になるだろう。
個人がデータ管理者(サービス業者などに)預けたデータを、自分自身の判断で他のデータ管理者に移管できる仕組みのこと。例えば現状ではあるSNSに書き込んだプロフィールやコンテンツは他のSNSでそのまま使うことはできないが、そのようなことを実現するのがデータポータビリティだ。EUの一般データ保護規則では、預けたデータを自分の元に取り戻すこと、それを他のデータ管理者に移転すること、さらに技術的に可能なら、現在のデータ管理者に依頼して直接他のデータ管理者にデータを移転してもらえる権利が規定されている。
「PPM搭載電子レシート」との関連は?
直接関連するわけではないが、PPM機能を利用する業者が保管しているパーソナルデータを、他の業者がPPMに設定されている条件に従って利用可能にすることは技術的には難しくないだろう。データ移転は業者のビジネスに直接影響するため、データポータビリティの国内普及は前途多難と考えられるが、PPMはその前進の一助になるかもしれない。
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