今回の罹災証明書発行のために作ったシステムは、既存のクラウドサービスをうまく融合したことが最大のポイントだった。熊本地震に関する報道が多かった時期も、ダッシュボードの情報を基に現時点での正確な情報を伝えることができた。「当時は村長もiPadを持ち歩き、いろいろなところを回っていた。罹災証明書発行に手間取る市町村が多いという報道もあったが、西原村は熊本県の中でも迅速に出せた村だ」(吉井氏)
吉井氏は今回のシステム構築、利用を通じ、クラウドの可能性を感じたという。「職員もこのような便利なサービスがあることを知り、他の部分でも使えないかといった意見も増えてきた。これがあれば、住民が何かを知りたくて村役場に来たときに、どの職員でも迅速に情報を提供できる」(吉井氏)。
熊本地震においては、被災後に全国から職員が集結し、仕事を手伝ったという。しかしその仕事の中には、罹災証明書発行などの事務的な作業があり、現地に来ることなく「クラウド経由で」仕事が可能なものも多かった。吉井氏は「罹災証明、検算、発行業務などはクラウドを使えばどこでもできる。今後の災害に備えるという意味で、このようなサービスが新たな災害支援の形として有効なのではないだろうか」と述べた。
2つ目の事例は茨城県守谷市だ。つくばエクスプレスが開通した効果もあって現在も人口が増加しており、若い世代の居住者も多い。また、守谷市長のアイデアによりさまざまなIT施策が実施されている。
市長が作成、実行する守谷市のマニフェストには、「市民暮らし満足度ナンバーワンを目指す」という一文がある。市民提言型の仕組みを取り入れる同市では、市民への情報提供を行うスマートフォンアプリ「Morinfo(もりんふぉ)」のサービス開始を2017年12月に予定している。このプラットフォームを支えるのが、SalesforceとAppExchangeのシステムだ。
Morinfoは、自治体へのサービス提供を得意とする両備システムズのSalesforceアプリを活用したサービス。バスの情報や市民コミュニティー情報、ごみ出しの情報など、さまざまな情報を1つのアプリで提供する仕組みで、今後の拡張なども踏まえて選定が行われた。
守谷市役所 秘書課秘書・広報グループ係長の田中 豪氏によると、「i-Blendはカメラ、地図、ニュースのプッシュ配信など、あらかじめ必要な機能が用意されている。この中で守谷市が必要なものを選択することで、市民向けサービスを提案可能だった」と述べる。特に今後のICT進化や国の施策におけるニーズに合わせ拡張の余地があり、それが市による追加投資の必要がないという点がポイントだったようだ。CRM、レポート部分はSalesforceの機能を使い、情報を連携して活用ができることもポイントだ。
2017年12月の本格稼働に向け、10月からは職員に限定したβ版のテストが行われる。例えば市内の信号や標識、電灯が故障しているのを見つけたら写真を撮って状況を投稿できる。これはSalesforceの「レポート機能」によるもの。
「スマートフォンのカメラで撮影して、その位置情報を基に場所を特定、報告が可能」(田中氏)
当初はそのような“ネガティブ”な情報が中心になるかもしれないが、「今後はいい景色が見えたなどのような街中での心温まるエピソードなどへも広げていきたい」と述べる。
その他にも、市民の日常生活に密接した情報を提供する大きなプラットフォームとしてMorinfoを活用したいと田中氏は言う。
「茨城県で発行している“キッズクラブカード”も、他の市では物理的なカードだが、Morinfoのアプリ内で表示するカードレスの仕組みを提供する。ごみ捨て、子育て、教育、防災など、さまざまな情報の提供をi-Blendで実現できた」(田中氏)
この背景には、市長のマニフェスト実現への後押しも大きかったという。Morinfoのリリースで、市長マニフェストの幾つかがまとめて実現できることになる。今後も住民サービスの向上として、災害時にMorinfoを通じて防災ラジオ的な利用や、マイナンバー(マイキープラットフォーム)との連携を模索するとともに、職員向けのレポートプラットフォームを使い、災害時の情報連携基盤としても活用を検討している。「若い世代が増えている場所。その方たちとつながるツールとして、Salesforceおよび両備システムと手を取りつつ、新しいことができれば」と田中氏は述べた。
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