記憶も新しい熊本地震……被害も大きかった西原村では、住宅の被害状況をり災証明を用いて申請する手続きに追われていた。そこにまさかのSalesforceが活用された。西原村の挑戦をレポートする。
民間企業では今や当たり前となったクラウドサービスの利用が地方自治体でも広がりつつある。「必要なときに」「必要なだけ」利用できるメリットを生かし、緊急を要する災害時や、満足度向上のための住民サービスなどに採用されているのだ。
熊本地震の被害を受けた熊本県阿蘇郡の「西原村」と、茨城県の玄関口である「守谷市」では、それぞれの事情から迅速を求めて「Salesforce」のクラウドサービス導入に踏み切った。本稿では各自治体の課題とSalesforceがどのように結び付いたのか、2017年9月26〜27日に開催された「Salesforce World Tour Tokyo2017」での講演を基に紹介しよう。
2016年4月14日、16日に発生した熊本地震は、熊本空港(阿蘇くまもと空港)に一番近い熊本県阿蘇郡西原村にも大きな被害をもたらした。
西原村役場 震災復興推進課係長の吉井誠氏によると、西原村では特に16日に発生した地震による被害が大きく、村内では512棟が全壊。ピーク時には避難所に1809人が集まり、車中泊や野宿を含めると村民のほぼ全員が避難せざるを得ない状況にあった。震災から1年以上たった現在も174世帯が仮設住宅で暮らしているという。
住民は元の生活に戻るために、全壊、半壊した家屋に対する「罹災証明書」を自身で取得し、保険の申請や固定資産税の減免を行う必要がある。ところが、西原村役場も当然被災しており、この書類発行の処理手続きが難しい状況にあった。罹災証明書を作成するに当たり必要となる現場の地図や情報が入手しづらい状況になっていたため、多くのボランティアが西原村をはじめとする被災地にやってきて被災家屋の調査を手伝おうとするものの、なかなかスムーズに手続きできない状況になっていた。役場職員ですら被災家屋の特定ができないこともあった。
「固定資産データや住基の情報など、迅速に情報を取り出せないと、申請、発行に時間がかかってしまう。何らかのシステムがないと難しいことが分かったとき、セールスフォース・ドットコムとシステムフォレストから提案があった」(吉井氏)。
熊本を中心に活動するシステムフォレストは、村の世帯情報と固定資産調査情報を統合、SalesforceやBoxなどのクラウドサービスを連携させ、罹災証明書を発行するためのシステムを提案した。
西原村の災害対応の職員数が十分でない状況でも対応できるように吉井氏はシステムフォレストとセールスフォース・ドットコムによる提案を基にシステムを作っていった。
「打ち合わせて決めたものが翌日に出来上がっていたのは驚きだった」と吉井氏は振り返る。
クラウド上に作られたシステムの画面には、土地勘のないボランティアの調査員でも現地までたどり着けるように、分かりやすい地図を表示。現地ではタブレットとデジタルカメラを使い、写真やテキスト、PDFをそのままクラウドファイル共有サービスの「Box」に登録する。世帯情報を中心にさまざまな情報をひも付けて記録することで、処理の手間を省く工夫がされている。
「例えば隣の家などの被害状況と比較しながら査定が行えるため、判定の差がないかどうかも確認できる。打ち合わせをする際も、多くの情報を基に意見を共有できたことは、大変助かったポイント。近隣の町村でも罹災証明書発行に関しては苦労していたようだが、西原村は比較的早いタイミングで罹災証明書を発行できた。これは本当に良かった」(吉井氏)
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