「せっかくクラウドを活用するなら、最新の環境を構築したい。もちろんセキュリティやリスク対策も重要だ」として、プロジェクトに向け、図のような細かい要件も設けた。
例えば、グループウェアには「Office365」を使用すること、新しいクライアント環境は「Windows10」や「Office2016」を前提とすること、またBCPに対処できるよう、緊急の代替拠点として使用するDR(ディザスタリカバリー)サイトを設けることなどが主な要件だ。こうした要件を基に各社のソリューションを比較し、コストの妥当性やアウトソースを担う範囲の広さなどを評価し、IIJをパートナーにオフィスITの基盤を構築することを決定した。
久保氏は新たに構築したIT基盤を以下のように説明する。基盤の構築には、Iaasの「IIJ GIO」を採用した。具体的には、「IIJ GIOコンポーネントサービス 仮想化プラットフォームVWシリーズ」上に既存のVDI、クライアント管理、モバイルアクセス、ネットワークなどのシステムを構築している。また、閉域網で直接Office365に接続できるマイクロソフトの「ExpressRoute」を活用し、低遅延を図った。
冗長性を確保するためにIIJの東日本リージョンをメインサイト、西日本リージョンをDRサイトとしている。セキュリティ対策のための各種ソリューションも採用した。
さて、オフィス業務を支えるIT基盤を新たに構築した同社には、しかし移行のフェーズでも数々の困難が待ち受けていた。
「既存のインフラから離脱する関係で、メールなどのアカウントも再度調達しなければならず、また、データの移行にも時間がかかる。既存のグローバルインフラの状態もブラックボックス化しており、日本で柔軟に環境変更ができないことも多くの問題を生んだ」(久保氏)
以下では、久保氏が語った移行に際する課題と解決方法を紹介する。
最初につまずいたのは、メールアカウントの切り替えだ。メールはOffice365を利用するため、当初の予定では日本の新テナントへとアカウントを順次切り替えていくはずだった。しかし、日本新テナントでのメールドメインが登録できないのである。これは、既存のグローバルインフラ管理側でOffice365のアカウントを既に登録しており、二重登録ができなかったためだ。グローバルインフラ側には同社離脱の情報が行き届いておらず、このような事態が発生した。
グローバルインフラに既に登録されていたOffice365のメールアカウントは塩漬けにすることにしたが、これでは当初予定していた、日本の新テナントへアカウントを順次切り替えていくという方法が使えない。仮想化の環境が整うまではクライアントに付属しているメーラーも使用できないため、過渡期におけるメール業務は、グローバルインフラからメール転送をするか、あるいはWebメールサービスである「OWA(Outlook Web Access)」を利用して行うように取り計らった。
「従業員からは、OWAは使いにくいという声が上がったが、そこは謝り続けて我慢してもらった」(久保氏)
Windows10やOffice2016への移行を並走させ、最新の環境を構築することにした同社であるが、その際にも従業員が新たなバージョンに対応できないといった問題が生じた。そこで、せめて最低限の操作や、移行作業を従業員ができるようにとユーザー教育を行ったと久保氏は話す。
「プロジェクトチームに、ユーザー教育のためのチームを設け、全社員を対象に研修を行った」(久保氏)
最終的に、予算内のコストでプロジェクトを遂行し、途中でビジネスが止まるほどの問題も起こらず、何より当初予定していた通り「6カ月」という短期間でシステムの再構築と移行を完了したと話す久保氏。プロジェクトが成功した勝因は何だったのか。
前述したように、クラウド活用してサーバの調達や管理をアウトソースしたことが奏功したと久保氏は話す。また、よほどクリティカルな問題が起こった際は別として、プロジェクトを止めることなく、とにかく先に進めることが大切だとも打ち明けた。
「例えば、プロジェクトの途中では従業員から『使いにくい』といった不満の声が多く上がる。しかし、利用者は2カ月もすれば新しい環境に慣れるため、それまで辛抱すればよい」(久保氏)
今後は、新しい環境のうま味を生かすべく、「コミュニケーションツールをグループ全体で利用して生産性の向上などを実現していきたい」と締め括った。
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