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ロボットと協働する新しい金融像――あおぞら銀行の挑戦

» 2018年04月16日 10時00分 公開
[相馬大輔RPA BANK]

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RPA BANK

2017年11月10日(金)、金融庁は「平成29事務年度 金融行政方針」を公表した。これは金融行政が目指すものを明確にし、次の1年間に取り組む重点施策の方向性や柱を示すものだ。今回の金融行政方針の柱については、『地銀のビジネスモデルの転換』、『資産形成』、『フィンテック』の 3 つがあげられた。急速に進む人口減少、世界に類を見ない高齢社会、そして金融とITを融合したフィンテックの台頭など銀行を取り巻く環境は激変している。

こうした環境の変化に伴い、金融機関では経営改革に乗り出し、その一環として生産性向上を目的とした「働き方改革」にRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)の活用が相次いでいる。

社名の通りさわやかな空色のコーポレートカラーが印象的な株式会社あおぞら銀行(東京都千代田区)。同行でも、2017年にRPAの導入がはじまった。同行は、企業系列に属することなく店舗網を全国展開し、資産運用相談などの高い専門性と、国内銀行有数の収益力で独自の地位を築いている。従業員およそ1,700人というコンパクトな組織で、基幹システムの更改や本店の移転、グループで今夏予定するネット専業銀行の開業準備といった諸施策を着実に進めてきた同行は、定型的な事務作業を効率化するRPAもいち早く導入。自行の事情に合わせた運用体制を確立しつつある。ロボット化の現況と展望を取材した。

ロボットが7,000時間を削減、新たな作業も担う

ソフトウエアのロボットでホワイトカラー労働者の定型業務を代替するRPAが国内で注目されだしたのは、ここ3年ほどの流れだ。あおぞら銀行でRPAの導入検討が始まったのは、その初期にあたる2016年11月。現在では行内向けの申請書作成など17つの業務にロボットを投入し、年間7,000時間相当の業務時間削減を達成している。

同行は16年5月、業務の核となる勘定系を含む基幹業務システムを更改し、拡張性・柔軟性の高いクラウドへの移行を実現。さらに17年5月には上智大学四谷キャンパス内に新築された「ソフィアタワー」へ本店を移した。

RPA導入プロジェクトの中心としてロボット化の対象業務選定や運用管理などを担うテクノロジーグループ アプリケーションマネジメント部の中島充担当部長は「勘定系の更改を経て、年間を通して業務が滞りなく進められてきました。そこから、18年度にスタートする中期経営計画も視野に入れた業務改善として、RPAへの取り組みを推進しているところです」と語る。

同行では、ロボットが既存の業務を代替するだけでなく、これまで手が回りきらなかった業務をカバーする例も既に出始めている。その一端を中島氏は「働き方改革の一環で強化している行員の労働時間管理にRPAを活用し、出退勤の自己申告とオフィスの入退館記録との全件突き合わせが可能になりました」と明かす。従来は勤怠の自己申告書に記入漏れなどの不明点が見つかったときに照合していたが、仮想的な労働者(デジタルレイバー)の登場で増大した事務処理能力を、さっそく新たなフィールドへ振り向けられた形だ。

技術以上に重要な「運用ルールの確立」

他業種に先がけてRPAの導入が進んだ金融業界では、ロボット化の対象業務選定やロボットの設計・実装などに外部のコンサルティング会社の協力を得て、一気に全社へ導入を拡大する企業も現れている。そうした中、あおぞら銀行が選んだのは、既にノウハウを備えた外部の力に頼らず、自社の事情に合わせたRPAの運用体制を、自前で確立していくアプローチだった。これはRPAの「全社展開までのスピード」と「確実に持続可能な運用」というトレードオフにおいて、後者に重きを置いたことを意味する。

中島氏によると、新たなツールであるRPAの検討開始にあたっては、技術的な有用性を判断する観点から、同行のIT部門として周辺システムの構築などを担当しているアプリケーションマネジメント部が中心となって進めることが決定。併せて経営陣からは、検討の指針として「小規模な試行を通じて着実に実績を重ねること」「導入後も円滑に運用可能かどうかも十分検証して進めること」との指示があったという。

システム開発経験を持つアプリケーションマネジメント部のメンバーによる、RPAツールへの評価はどのようなものだったのか。そう尋ねたところ中島氏は「システムエンジニアがRPAを技術的視点でみたときに古くて新しい技術であることから説明用のプロトタイプなら時間をかけずに作ることも可能です」と回答。「だからこそ、ロボットの実装そのものだけでなく、実装の前段階にあたる要件の整理や、設計のルールといった仕組みづくりにも時間を割くようにしました」と説明する。

こうした判断からアプリケーションマネジメント部は、ロボット化対象業務の行内からのヒアリングや、ロボット設計のガイドライン策定、さらにこれらを踏まえたロボット化の設計・開発を担当。RPAツール「BizRobo!」を用いたロボットの実装は、同行基幹システムの更改プロジェクトにも加わった協力会社を含めた体制で、RPA専任・兼任を合わせて常時5人程度がアサインされたチームを構成している。

RPA活用のメリットとしては通常、既存の業務手順を変えることなく現場主導で効率化を図れる点が挙げられる。これに関連して中島氏は「RPAの場合、プロトタイプを作るような感覚のまま導入に入ることもできる。しかし、それではIT部門が主導して生産性向上を狙う効果が薄れてしまう」と指摘。「業務規定に反したロボットを作らない」といった統制面に限らず「開発済みのロボットを流用した開発効率の向上」「エラー発生からの素早い原因特定や復旧」といった活用推進の観点からも、ルールに基づいてロボットの開発・運用をコントロールしていく重要性を強調する。

改善を待つ200業務。地銀とのノウハウ共有も視野に

ここまではIT部門が多くを担って進められてきた同行のRPA化。対象業務のピックアップは本店業務部門を対象に個別に行ってきたが、その範囲でさえ「多くの業務にロボット化の要望が寄せられていた」(中島氏)という。これに加え、新たな中期経営計画が始まる2018年4月からはいよいよ事務企画部との本格的な連携もスタート。支店業務を含む全事務を対象に寄せられた200件近い業務を選定しロボット化の検討が進められていく。

事務企画部サイドでRPA推進を担うオペレーションズグループ 事務企画部の小林孝寿調査役は「当行の従業員数は全国展開する銀行としては少ないほうで、Excelの得意な行員がマクロを作って作業を効率化するなど、各所で独自の努力がみられます。そのため業務が個人に紐づいている面もあり、現担当者が異動する際に引き継ぎが滞るリスクは否めません」と現場の状況を分析。「PC上での定型作業を自動実行でき、その作業内容が担当者以外にも理解できるRPAツールの活用を通じて、効率化のノウハウを全社的に共有していけるのでは」と期待をのぞかせる。

「RPAツールでの自動実行と同じことはプログラムを組んでも実現でき、多くの場合はその方が処理速度も速くなります。だからRPAがダメというわけではありません。業務改善による生産性向上を図る上で、業務部門とIT部門が対話するための“共通言語”を与えてくれる点に、RPAの真の意義があるように思います」。ITプロフェッショナルの立場から、そう見解を述べた中島氏は「当行には、前身である日本債券信用銀行の時代から全国の地方銀行と深く連携してきた歴史があります。今後は地銀各行とも、RPA活用を通じた生産性向上のノウハウを共有していく機会をつくれれば」と語っていた。

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