メディア

日本が“RPA大国”となれば再びNo.1になれる――5つのステージで進化を遂げる次世代型デジタルレイバー(前編)

» 2018年04月24日 10時00分 公開
[相馬大輔RPA BANK]

2021年9月13日、RPA BANK はキーマンズネットに移管いたしました。
移管に関する FAQ やお問い合わせは RPA BANKをご利用いただいていた方へのお知らせ をご覧ください。

RPA BANK

「RPAに取り組む、取り組まないで、デジタル企業とアナログ企業の間で格差が顕著になる」――。アビームコンサルティングの安部慶喜 戦略ビジネスユニット 執行役員 プリンシパルは、同社が3月12日にメディア向けに開催したRPA市場調査に関する説明会でこう語った。

今年に入って成長がますます加速すると同時に激しく変化するRPA市場。本説明会で安部氏が語った「格差」が生じるとはどういったことなのか。今回、RPAの先駆者でもある安部氏への独占取材を通じて、現在のRPA市場の最新動向を解説してもらいながら、今後のRPAの進化の在り方、そして組織におけるRPAの将来像まで横断的に聞いた。

目立つ大手製造業でのRPA導入。中堅・中小企業からの引き合いも増加

──今回RPA BANKも協力させて頂いたRPA市場動向レポートについて、市場の成長と変化について解説をお願いします。

安部: 市場自体は順調に拡大してきていますが、導入企業の業種に大きな変化が見られます。まず、2016年までは金融機関での導入がほとんどで、最初に大手銀行や保険会社など先行する企業が何社か出てきて、その後、同業他社が追うかたちで普及していきました。そして2017年上期にはサービス業でのRPA導入が目立つようになり、導入実績はまたたく間に金融業を抜きました。サービス業というのは時間単価でサービスを提供するビジネスなので、時間の効率を上げることは常に経営課題であり、利益に直結します。そのため、金融業での導入事例を見てすぐに動いたのでしょう。また、人間が手がけていた仕事をロボットが取って代われるのだとわかり、それはサービス業にとって脅威であると同時に、先行すればビジネスチャンスにもなると捉えたとも考えられます。

そして、2017年下期から導入実績が一番多いのが製造業です。ただし、特に製造業が増えたと言うよりも、全産業で同じように成長しており、その結果、国内で最も企業の数が多い製造業が最大になったと言うのが正しいでしょうね。

この傾向は2018年以降も続いていき、すべての産業にRPAが入っていくと思われます。

──大企業と比べて新たなIT投資が難しいと言われる中堅・中小企業での動向はいかがでしょうか。

安部: 現時点でのRPA導入企業の数は、PoC(Proof of Concept:概念実証)も含めると既に1000社を超えていると思われますが、実際に導入まで至っている企業の6割は、従業員数が1000人以上、売上規模500億以上の企業が占めているのが現状です。ただし、昨年末辺りから、中堅企業からの問い合わせ急増しており、おそらく大企業の取り組みが昨年下期にメディア等で一斉に取り上げられたのを見ての動きでしょう。最近では従業員規模10人前後の中小企業も目立ってきており、200人から300人規模の企業では、既に導入がスタートした段階に入っています。

こうした中規模や小規模の企業の場合、費用対効果を心配する声が多いのですが、実は規模の小さな企業のほうがRPA導入の効果が圧倒的に大きくなると言えるのです。こうした企業では、IT投資のボリュームメリットが得にくいことから、最低限のIT化しか進んでおらず、とは言えやるべき業務は大企業と変わらないため、これまで人海戦術に頼っていたケースが多いのです。むしろそうした組織の方が、RPAが適用できる業務が多かったりします。例えば100人の企業であれば、RPAで数名分の仕事の効果を出すのはかなり容易です。たった5人分の業務をRPAで代替するだけで5%もの業務効率化が図られるわけですから、投資効果は十分だと言えるでしょう。

RPA先駆者ABeamが提唱する「次世代型デジタルレイバー」の進化とは

──日本企業での導入が拡大するなか、RPAの活用レベルはどのように変わってきていますか。

安部:我々はRPAの活用レベル──すなわち「デジタルレイバー」の進化の過程を今回新しく5つのステージに分類しました。この5つのステージの中で現在多いのは、RPA単体が利用される最初の「Stage 1(Basic)」の途中にある企業です。ただし、先進企業では、RPAと認識技術を連携し、非構造化データの認識を行うことで、紙や画像などの処理を含めた定型業務の自動化を実現する「Stage 2(Cognitive)」へと歩を進めています。ちなみに次のStage 3は「Intelligence」で、完全に業務がデジタル化された環境のなか、RPAと弱いAIを組み合わせることで意思決定の精度向上や合理化を実現します。そこまでの間に“Cognitive”のステージが存在するのは、現状ではアナログな業務が数多く存在するからなのです。

その象徴的なのがこの一年でOCR(Optical Character Recognition/Reader、オーシーアール、光学的文字認識)市場が再加熱していることでしょう。ご存知の通りOCRというのは1970年代に登場して以来広く普及していき、市場も技術もとうに成熟期を過ぎた状況にありました。にもかかわらず昨年からOCRビジネスが一気に伸びているのは明らかにRPAの影響だと言えるのです。

なぜそうなったのかというのは、業務プロセスを横断して見ると自ずと答えが見えてくるはずです。紙の書類をOCRを使ってデータ化し、基幹システム等に入力するという作業というのは、これまで多くの企業で行われきたはずです。そこでは、紙からPDFへの変換、サーバーへの保存、そしてサーバーからの読み込み、読み込んだPDFからOCRソフトでのデータ化、そのデータを基幹システムへ一行ずつコピー&ペースト……と様々な細かく煩雑な作業が人手により行われていたはずです。それがRPAを使えば、最初の紙から基幹システムへの登録までのプロセスをいっきにつないで自動化できてしまえるわけです。その相乗効果は非常に大きく、これこそが「Cognitive」の真価なのです。

人とITを繋ぐRPAが組織の中で「デジタルレイバー・プラットフォーム」となる日

──日本企業におけるRPA活用のこれからの展望についてお聞かせください。

安部: これから来るのが、先ほども少しお話した「Stage 3(Intelligence)」の、完全に業務がデジタル化された環境でのRPA活用です。そこではAIをはじめ、各種クラウドサービス、多様なAPIなど、ありとあらゆるテクノロジーがコネクトされてくることでしょう。そのつながりの輪の中心にあるのがRPAであり、またこのようなつながりの考え方をアビームコンサルティングでは「デジタルレイバー・プラットフォーム」と呼んでいます。わかりやすく言えば、まずこれまで「人」と「(IT)システム」で行ってきた仕事の間に、新たにRPAが担う「デジタルレイバー」という存在が入ってきます。そしてそれが一つの業務ではなくすべての業務に及ぶため、デジタルレイバーはプラットフォームとなるわけです。

従来、人とシステムの間には大きな隔たりがあったわけですが、そこを双方がかなり無理して合わせて来なければなりませんでした。システムに仕事のやり方を合わせたり、逆に仕事のやり方に合わせてシステム変更をしたりなどですね。それが間にデジタルレイバー・プラットフォームが入ることで、システムから渡されたデータを人間が作業しやすいかたちにアウトプットする、もしくは人間の手順が変わってもシステムに合わせてデータをわたすといったことが可能になります。

つまり、デジタルレイバー・プラットフォーム=RPAが最も柔軟な労働層となって、人とシステムの間のギャップを解消してしまうわけです。多くのテクノロジーをデジタルレイバー・プラットフォームに接続すればするほど、より多くの恩恵を人間が受けられるようになることでしょう。一見すると少し前に流行った「SOA(サービス指向アーキテクチャ)」の考え方に似ていますが、SOAはシステム間での範囲でしかありません。デジタルレイバー・プラットフォームはシステムとシステムだけでなく、システムと人との関係性まで含有した考え方なので、SOAを圧倒的に拡大したものと言えるかもしれませんね。

日本は“RPA大国”への道を歩むことで、再びNo.1になれる

──デジタルレイバー・プラットフォームが実現すると、人や企業はどのようなメリットを受けられるのでしょうか。

デジタルレイバー・プラットフォームが存在する世界では、人は人のことだけに集中すればよく、システムはシステムだけという、仕事における“理想郷”が実現するかもしれません。そしてそれこそが、デジタル化を積極的に推進することのメリットにつながっていくのです。現在のRPA導入は業務効率化のためであり、それだけでも多大な恩恵を受けられるわけですが、この後に待っているデジタルレイバー・プラットフォームがもたらすインパクトは圧倒的なものとなるでしょう。

テクノロジーが進化すれば、自然とデジタルレイバー自体が進化していくのがデジタルレイバー・プラットフォームの大きな特徴です。まず近い将来、クラウドで提供されるAIサービスのニーズが急激に高まることでしょう。その理由はAIとつながるからであり、そのつなぎ役こそがデジタルレイバー・プラットフォームとなるのです。

既に日本企業でのRPA導入はホワイトカラーが担う業務全般に広がっています。既にそこから新規事業の創造にも踏み出しているケースもあります。デジタルレイバー・プラットフォームがもたらす変革を考えれば、日本こそがRPA大国となる可能性を最も秘めた国であり、その事実がこれから日本が形勢を一気に逆転するチャンスとなると見ています。

──ありがとうございました。次回には日本がRPA大国となるための、人や組織のあり方についてお聞きしたいと思います。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

会員登録(無料)

製品カタログや技術資料、導入事例など、IT導入の課題解決に役立つ資料を簡単に入手できます。