メディア

日本が“RPA大国”となれば再びNo.1になれる__新たに求められる人材と組織とは(後編)

» 2018年05月17日 10時00分 公開
[相馬大輔RPA BANK]

2021年9月13日、RPA BANK はキーマンズネットに移管いたしました。
移管に関する FAQ やお問い合わせは RPA BANKをご利用いただいていた方へのお知らせ をご覧ください。

RPA BANK

RPAは今後どのように進化を遂げるのか。日本が“RPA大国”となれば再びNo.1になれる__5つのステージで進化を遂げる次世代型デジタルレイバー(前編)では、RPAは今後、5つのステージで進化を遂げていくと、アビームコンサルティング 戦略ビジネスユニット 執行役員 プリンシパル 安部慶喜氏に解説してもらった。

それでは、これから日本企業の間でRPA活用がますます本格化していくとき、その中心となる人材や組織というのはどのようなもので、また何が求められてくるのだろうか。後編では、RPA活用に求められる人材像や、RPA活用を担う組織像について話を聞いた。

企業が育てるべき“RPA人材”「プロセス・イノベーター」

──これから日本企業が業務にRPAを取り入れて自動化を推し進めるに当たって、どのような人材を育てることが求められますか。

安部: 我々は、既存の業務にRPAを導入するプロセス改革について、従来のシステム化とは異なり「デジタル・プロセス・トランスフォーメーション」と呼んでいます。昨今のデジタルテクノロジーの進展を背景に、「デジタル・トランスフォーメーション」という言葉が叫ばれていますが、これはITの浸透が、人々の生活をあらゆる面でより良い方向に変化させる概念として使われています。デジタル・プロセス・トランスフォーメーションは、“業務”をデジタル・トランスフォーメーションするイメージで、我々はこれを「デジタル業務改革」と名付けています。平たく言えば日進月歩の様々なデジタルテクノロジーを使って今までの業務をどう良くしていくのかという取り組みなのですが、これはもはや改善ではなく改革であり、業務のあり方がガラッと音を立てるかのごとく変わるわけです。

業務改革のアプローチそのものが変われば、当然求められる人材スキルも変わります。つまり、RPA活用で求められるは、テクノロジーを駆使してこれまでとは違うやり方をデザインすることができる人材になります。このような人々を我々は「プロセス・イノベーター」と呼んでいますが、今のところこのようなスキルを持つ人材は日本企業にはなかなかいないタイプと言えるでしょう。

そのためこれから企業が重視すべきは、プロセス・イノベーターとなれるような人材を育てつつ、RPAを軸に結合可能な様々なテクノロジーを使って業務を高度化そして変革し、さらには新しいビジネスを創出していくことなのです。

ポイントは、これを社外のコンサルティングファーム等に任せ続けるのではなく、いずれは自社で行えるようにすることです。そのために、立ち上げ当初は外部のノウハウを短期間で利用して、社内に伝承するというのが理想的なアプローチで、これができる企業が生き残ると言えるのです。

──プロセス・イノベーターは社内のどの部門に所属するべきだと考えますか。

理想を言えば、すべての業務ごとにプロセス・イノベーターを配置することですが、当面はまず不可能なので、近く「デジタル部」という全く新しい部門が多くの企業にできると予想しています。考えてみてください。IT部門もかつてはほとんどの企業に存在していませんでした。それがITを用いて業務を効率化することが当たり前となり、今日ではIT部門を持たない大企業など存在しません。業務のデジタル化においても、デジタルテクノロジーを駆使して業務を変革していく部門の必要性は必ず出てくるはずです。私は今後2、3年の間にほとんどの日本企業にデジタル部が存在するようになると見ています。このデジタル部が、RPA導入をきっかけとして、様々なデジタルテクノロジーを取り入れて業務を変革していくことでしょう。

企業の心臓にもなりえる「デジタル部」が担う役割とは

──既に「デジタル推進部」といった名称の組織が存在する企業は多いですが、違いはあるのでしょうか。

現状デジタル推進部と呼ばれるような部門は確かにありますが、デジタル部との最大の違いは、通常、デジタル推進部が担うのはIoTやビッグデータなど最先端のデジタルテクノロジーの活用領域の選定と試験的な導入までであり、実際に運用していく部門ではないということです。しかし、RPAについては安価でハードルが低く、そして導入効果の即効性があるため既に多くの企業へ浸透しており、運用が前提となりつつあります。そうした時に、当然ですが運用機能を備えた部隊が必要となります、またRPA導入・運用を契機に他のデジタルテクノロジーとの連携・活用も急速に進み、推進させていく機能も求められていくはずです。これら、新テクノロジーの調査、分析、自社を変革させるイノベーション推進、機能を継続させる運用管理を担うのがデジタル部になるのです。

プロセス・イノベーターは、おそらく当面はデジタル部に所属することになるでしょう。その中には自社内のプロセスを革新する役割もあれば、デジタル・テクノロジーを使い新規事業を構築する役割もあるはずです。いずれにせよ、自社がこれまでに培ってきた強みがどこにあるのか、例えば取引先とのチャネル、圧倒的な技術力、ニッチなプラットフォーム等の目に見えない資産も含めた自社の強みを活かして、デジタル・テクノロジーによって新たな価値を創造できるような人材がデジタル部には求められてきます。さらに、ロボットをつくる人や、システムに繋ぐ人、クラウドに詳しい人など、様々なスキルを有する人材の混合チームでデジタル部を構成していくことになるでしょう。ただし注意していただきたいのは、デジタル部は「部」として存在すべきだというわけではなく、そうした使命を担う専門組織が存在することが重要だという点です。

今後あらゆる産業でデジタル・ディスラプションが起こる

──プロセス・イノベーターを含め、デジタル部に相応しいのはどのような人材でしょうか。

まず、現状を前提とした発想の方だと難しいかもしれません。新しいものを柔軟に取り入れるには、今あるものを捨てなければならないケースもあります。よって今あることではなく、企業のビジョンをしっかり見据えて、それを実現するためには何を取り入れ、何を捨てなければいけないのか、視野を広く持って将来像を描ける人がデジタル部には求められます。あと、日進月歩のテクノロジーに敏感であることも大事でしょうね。そうした人材は、自社のビジネスを取り巻く環境や変化を把握するのは当然で、その他にある全く別の市場の動向にも敏感でなければいけません。今の自社が属する業界の競合他社や、既存顧客の動向ばかりを追うのでは、まったく十分ではないのです。なぜなら、現在は既に業界の括りを超えたテクノロジーが次々と出てきており、広くアンテナを張って、自社の将来像にどう活かせるかを創造できる人が必要なのですから。

おそらくこれから、デジタルテクノロジーにより既存の業界の枠が壊れていくデジタル・ディスラプションが次々と進んでいくはずです。これは、今の市場がいつまで続くかわからないということを意味します。他の企業に新たな市場を持っていかれるぐらいならば、自社のデジタル部が自分の会社の事業を自分で壊すぐらいの心構えが必要なのです。自分で壊し、より良いサービスを創出できる人がプロセス・イノベーターであり、そうした人々が集まる部門、それがデジタル部になるわけです。

中堅・中小企業が大企業に打ち勝つチャンスにも

──RPA導入で既に出遅れている企業にはチャンスは薄いですか。

全くそんな事はありません。これからRPAを導入してもそこまで行くことは十分に可能です。そもそもすべての業務にデジタルレイバーを取り入れた企業はまだ存在しないのですから、後進であっても一気に加速して、すぐに追い抜くことだってできるでしょう。

あと、これまでRPA活用は大企業が先行していましたが、むしろ中堅・中小企業のほうが意思決定のスピードも、全社展開のスピードも速いので活用の勢いが増していくと見ています。今までは企業で働く人の数=ボリュームがビジネスでの強みとなっていましたが、RPAのデジタルレイバーは人の何倍もの労働力を発揮することができます。人とロボットを組合せたほうが強くなることも多いので、従業員数では大企業と大きな差があったとしても、デジタルレイバーを増やし活用することで、中堅・中小企業であっても大企業にも勝てるチャンスが十分に生まれるのです。そこでの強みは、規模ではなく「スピード」でしょう。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

会員登録(無料)

製品カタログや技術資料、導入事例など、IT導入の課題解決に役立つ資料を簡単に入手できます。