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RPAで300万時間分の業務を自動化し1500人分の余力捻出を目指す──後編

» 2018年05月25日 10時00分 公開
[相馬大輔RPA BANK]

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RPA BANK

現場で自ら業務を自動化することを重視し、全社的にRPA研修を展開

業務改革による生産性向上を目指し、それを継続的に実践する有効なツールの1つとしてRPAを導入しているSMBCグループ。同グループではどのように“RPA人材”を育成し、具体的にどういった業務にロボットを活用しているのだろうか。業務改革およびその中でのRPA活用の旗振り役を担う、三井住友フィナンシャルグループ 企画部 業務改革室 副室長の山本慶氏に話を聞いた。

RPAをスキルの1つとし「使えない人」をつくらない

現在、SMBCグループでは約800台のロボットが稼働し、700業務110万時間(550人)分の余力捻出を実現している。RPA導入は、本部全部署・約7000人から開始し、例外を設けなかった。またRPA導入に際してはトップダウンとボトムアップの両方のアプローチを組合せることで最大限の効果が得られるよう工夫をこらした。

三井住友フィナンシャルグループ 企画部 業務改革室 副室長の山本慶氏は言う。「生産性向上のためにRPAをここまで大規模に導入した事例は国内でも海外でもなかったので、自力では限界があるだろうと、グローバルベースで知見を有するコンサルファームに一堂に会してもらい外部の経験・ノウハウを自らがまず吸収し、ベストプラクティスの早期確立を目指しました」

トップダウン・アプローチについては、経営トップのコミットメントを得ながら、外部の先進的な事例、ノウハウ・知見を活用し、高いガバナンスコントロールとセキュリティ管理体制を整備、24時間、365日、複数のRPAを並行稼働できるようになっている。一方のボトムアップ・アプローチでは、従業員1人1人が自ら働き方を変えるという意識を持って取り組んでもらえるよう、RPA研修等の環境整備を進めている。

「いくらツールを活用して質の高い仕事をしようと謳ったところで、現場の1人1人の意識が変わり、働き方が変わらなければ、なかなか効果は表れません。そこで、『ロボットはあなたの仕事を奪う存在でも競争相手でもなく忠実なアシスタントであり、あなたの使い方次第でいくらでも仕事のやり方を改善できるのだ』と理解できるよう、ポスター掲示などの周知活動を通じて意識改革を促しているのです」(山本氏)

これまでに250名を超える従業員がRPA研修を受講し、研修の後半では、その従業員が所属部署で活用できるロボットを作り、必ず実装している。研修後、自分の業務を効率化するために、自発的にロボットをつくっている従業員もいるという。

「現在、研修を終えた従業員の2割程度は、自力でゼロからロボットがつくれる開発能力を獲得できていますが、多くの従業員は、ロボットの開発プロセスを理解し、軽微な改修ができるレベルです。我々はRPAの開発・保守専門部隊を設けるのではなく、RPAを従業員のスキルの1つにしたいと考え、『自分は使えないよ』という人を出来るだけつくらないよう工夫しながら、従業員へのRPA展開を進めています。目指すのは、誰もがExcelやPowerPoint等と同じようにロボットを利用し、各部1人か2人ぐらいは、ExcelマクロやVBA等に該当する高等技能を有するRPAを得意とする人がいるという感じですね。だからこそ、RPAツールに求める要素の1つとしてユーザビリティの高さは譲れなかったのです」と話す。

RPAには人間以上に能力を発揮できる分野がある

若手従業員の業務実態とRPAに求めることついて山本氏はこう話す。「現場の若手に話を聞くと、外部環境の変化やお客さまのニーズの多様化などから仕事の細分化が進み、自らの業務を通じて得られる成長機会が狭くなってきていると感じているようです。今後、益々、限られた時間の中で高い生産性を求められる時代になっていくので、若手には、誰でも出来るような業務や事務は、安価なリソース(RPA部下)へ委譲し、自ら働き方や成長プランをデザインして欲しいと考えています。元々、ITリテラシーの高い若手にとって、RPAは使い勝手のよい部下となるに違いありません」

前編でも述べた通り、SMBCグループでは生産性向上に向けた施策の1つとして、2020年3月末までにRPA等により4000人分の余力を捻出し、「付加価値業務の拡大」「働き方改革の推進」「人員配置の最適化」という3つの出口戦略に再配分していく取り組みを進めている。そこで3つの戦略それぞれで実用している代表的なRPA活用事例を紹介しよう。

■導入事例?「付加価値業務の拡大」

営業担当者の顧客往訪前の資料準備業務をRPAで自動化し営業力の強化を図っている。この業務は、各支店の営業担当者が顧客の保有する運用商品の時価情報などを取り纏めた資料を往訪当日の朝に30分ほどかけて作成するという業務である。往訪前という限られた時間の中で担当者は資料を作成する必要があったため、資料を作れる分しか往訪アポをいれることができなかったり、作成した資料をよく読み込む間もなく往訪をしていたりという課題があった。しかしながら現在では、スケジューラに登録された従業員の往訪予定をRPAが確認し、夜間のうちに該当顧客の資料を自動で作成している。資料作成の時間が浮いたことにより、営業担当者は捻出された時間で新しいアポイントを設定したり、RPAが作成した資料をよく読み込んで提案品質を上げたりといった、付加価値の高い業務に力を注げるようになっている。

■導入事例?「働き方改革の推進」

金融商品取引モニタリングに係る集計業務をRPAで自動化している。これは、コンプライアンスの観点から、投資信託などのリスク性商品を偏って顧客に販売していないかをモニタリングする業務である。商品の入れ替わりや年々変化する金融庁からの規制等全てにシステム対応することは到底できないことから人海戦術で行われていたものの、非常に反復的でストレスフルな作業であるうえ、情報収集精度のミスやムラも懸念されていた。この業務をRPA化したことで、業務の網羅性、正確性、スピードが改善された。加えて、従業員はストレスの高い業務から解放され、RPAを管理・監督するという一段高いレベルの業務に従事することでモチベーション向上にも繋がっている。

■導入事例?「人員配置の最適化」

地銀等から受託している海外送金処理の業務をRPAで自動化。この業務は地銀等から海外送金事務を受託して処理するというものだが、グローバル化が進む中での外為事務の委託ニーズの高まりにリソースの問題から十分対応できていないという課題があった。この業務に、Cognitive OCRを導入し、複数の識字エンジンを適切に使い分けて識字精度の向上を図り、さらに、通常、人力では到底行えなかった精査手法(識字した情報をもとに、RPAが過去の送金履歴を検索、識字が不十分な箇所を補記する等)を組み合わせることで大幅な業務効率化が図れている。このように、Cognitive OCRとRPAの相乗効果を発揮させることにより、現有人員で新たな海外送金業務の受託が可能となり、トップラインに寄与できる。

「大事なのは、RPAには人間以上に能力を発揮できる分野があることで、しかもそれは普通、人が嫌がる業務であることが多い点です。そのため人間とRPAは理想的な組み合わせであり、「人+RPA」による相乗効果は高いと考えています。ただし、新しい環境に適応するためには、本人が効果を肌で感じ、その効果を納得しないとダメなので、なるべく多くの従業員がすぐに効果を実感できるよう、プロジェクトの当初は、「Quick Win」に重点を置いて取り組んできました」(山本氏)

今後、SMBCグループでは、「人+RPA」の組み合わせによって、より高いパフォーマンスを発揮し、仕事の質をさらに向上しながら働き方を改革していく構えだ。その中で山本氏は、今後、AIやRPA等のテクノロジーに対する従業員の期待値コントロールにも配慮していく必要性を掲げている。「“できたらいいな”と“できること”のギャップをある程度、こちらでコントロールしていく必要があるでしょう」と山本氏は語った後、これからに向けてこう力強く語った。「圧倒的な生産性向上の実現に向けて、RPAプラットフォームの高度化(Usability, Scalability, Resiliency)と、従業員にRPAを自らの武器の一つと感じてもらえるような意識改革に取り組んでいきます」

国内初のCognitive OCRとRPAのコラボレーションを実現した同室の大屋貴晃氏と共に

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