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「で、量子コンピュータで何をしたいんだっけ」をデザイン思考で見つめ直した富士通イベントレポートアーカイブ(1/3 ページ)

最近よく耳にする「量子コンピュータ」。世界中で活発に研究が進んでいるが、さて何の目的で開発を? 富士通が提案する、いま目の前の課題を解決するために技術を使う話から「デザイン思考」のことを考えてみた。

» 2018年05月31日 10時00分 公開
[齋藤公二, 原田美穂キーマンズネット]
富士通社長 田中達也氏 田中達也社長が手にしているのは富士通が支援するJリーグサッカーチーム「川崎フロンターレ」が優勝した際に掲げた「風呂桶シャーレ」のレプリカ

 5月17〜18日の2日間、「富士通フォーラム2018 東京」(東京国際フォーラム)が開催された。初日の基調講演では、富士通社長 田中達也氏と執行役員 山田厳英氏が登壇。ゲストを交えて、同社が現在注力する「デジタルアニーラ」の最新動向やデジタル変革に向けた富士通の技術と取り組みや、トヨタ自動車などの日本企業におけるデザイン思考の導入事例を紹介した。

 講演のテーマは「Human Centric Innovation: Co-creation for Success」。IoT(モノのインターネット)、AI(人工知能)などのテクノロジーによってデジタル革新が進む中、富士通では「共創」を通じて持続的に社会にインパクトを与える成果を生み出す社会――同社の表現でいうところの「ヒューマンセントリックインテリジェントソサエティー」の実現を目指して活動している。

 田中氏は「デジタル化やIoT、AIが普及することで自動化が進めば、ともすると人間や人間性が置き去りにされるように感じますが、新たな価値を生み出すのは常に人間。何かを実現したいという強い思いが共感を呼び、人と人とのつながりを生み、そこから多くのイノベーションが起きます。また、その成果も人間に返るものでなくてはなりません」と、「ヒューマンセントリックイノベーション」の言葉に込められた意図を解説した。

量子コンピュータとは何か、何ができるのか

 富士通では、量子の振る舞いをデジタル回路上で再現する「デジタルアニーラ」を開発、商用化した。

 現在、量子コンピュータを名乗るシステムには複数の実装がある。例えば、実際に量子を演算素子として実装する「量子ゲート方式」などで、今はまだ研究開発段階といえる。

 もう1つ、量子アニーリングと呼ばれる方式もよく知られている。組み合わせ最適化問題の解決に特化した量子アルゴリズムを実装したものと考えると分かりやすい。イジングモデルと呼ばれる統計学の計算モデルを使って組み合わせ最適化問題を計算するもので、Googleなどが出資して話題になったD-Waveはこの方式だとされている。D-Waveの計算機は計算にかかる消費電力は少ないものの、超電導量子ビットで計算を行うため、システムの冷却に大きなエネルギーを使う。このため、実用というよりは研究開発段階とみた方がよいかもしれない。この方式が注目される理由は、多くの研究者がハードウェア開発に腐心する中にあって、計算方式そのものを見直す方向性を示したことにあるといえる。

 量子アニーリングについては、ここでは、量子を使って計算するかどうかよりもイジングモデルを使った組み合わせ最適化の計算をいかに効率的に処理できるかに着目した方が良いだろう。量子コンピュータで最も期待されている領域は、組み合わせ最適化問題の効率よい計算にある。

 例えば物流シミュレーショや創薬といった領域では、現在の汎用(はんよう)的なコンピュータの並列演算よりも高速に計算できると期待されている。他にも、例えば一般企業であれば、通貨レートや材料費、輸送コストや市場動向など、複雑なパラメータを組み合わせて最もリスクが少ない選択がどれかをシミュレーションしようと考えた場合に、より自然に近い多様な選択肢から自動的に答えを見いだすことができるようになると考えられている。

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