高いパフォーマンスを生み出す組織を作るには、従業員が力を発揮できる環境作りと適切な健康管理が必要だ。従業員の健康管理において、ストレスチェックは重要な役割を果たすが、実施するだけにとどまり、その結果を改善に生かそうとする企業は半数にも満たないという。企業は従業員の心のケアに対してどう向き合うべきか。
本特集は、ストレスチェックの重要性を解説するとともに、職場の健康衛生管理を前に進めるためのコツについて紹介する。
労働安全衛生法の改正をきっかけに2015年12月に新設された「ストレスチェック制度」は、職場のストレスが深刻化する中でメンタルヘルス対策として始まったものだ。従業員数50人以上の事業所には実施が義務付けられている。
本来は、従業員のメンタルヘルス不調を未然に防止するための制度であるが、実施するだけにとどまり、形骸化してはいないだろうか。
重要なのは、実施後の対応である。従業員の持つ潜在的なストレスを正確に把握できなければ、モチベーション低下の要因にもなる。この状況を放置すると、離職につながる可能性があり、これは人材不足の現在において大きな痛手となる。
ストレスチェック制度は「実施義務」と「努力義務」に分けられる。ストレスチェックを実施し管轄の労働基準監督署へ報告書を提出するところまでが「義務」とされている。ストレスチェック制度の実施目的を考えると、結果を基に、従業員の健康衛生状態を分析することが重要だが、義務化された最初の2年間は、準備や対応で精いっぱいな企業がほとんどだった。
対応項目は多岐にわたり、これを行うとなると相応のコストと人的リソースが必要となる。実施から対応までのフローをまとめたのが図1だ。
厚生労働省 労働衛生課が2017年7月に実施した調査によると、ストレスチェック実施対象企業の82.9%は何らかの形でストレスチェックを実施しているが、そのうち、組織分析など改善に向けた取り組みまで行う企業は53%にとどまり、47%の企業がストレスチェックの実施だけで終わっている。だが、ストレスチェックの結果をケアしない企業は2019年以降、行き詰まる可能性がある。
これからはストレスチェックを単に実施するだけでなく、その結果を基にして職場の状況把握と環境改善を進めることが企業にとってますます重要となる。
その理由の一つに、2019年4月から施行される「働き方改革関連法」の実施がある。働き方改革関連法には大きく分けて7つの対応ポイントがあるが、その中の一つに「時間外労働の上限規制」がある。この規制が加わったことで、長時間労働が常態化する企業は現在の働き方を見直し、そこから脱却しなければならない。
「従来の働き方」と「これからの働き方」を分かりやすく言うと、野球とサッカーに例えられる。従来の働き方は、「成果が出なければ残業して努力して」という、いわば延長戦を繰り返す「野球型」の働き方だったが、残業時間が規制されるとそうはいかない。
決まった時間内で決着をつける「サッカー型」の働き方に変えていかなければならない。そのためには、従業員が限られた時間内でパフォーマンスを発揮できる職場環境を作ることが必要だ。そこで、従業員それぞれの健康状態を知るストレスチェックが重要な役割を果たすこととなる。
従業員の健康衛生状態を把握することが必要だとしても、それを正確に知るのは難しい。なぜなら、ストレスは個々によって捉え方や感じ方が異なるためだ。
例えば、誰かに大きなプロジェクトを任せたとする。それをチャンスだと思う人もいれば、プレッシャーを感じてしまい、それがストレスになる人もいるだろう。従業員の健康衛生状態を知るためにも、ストレスチェックを通じて組織全体のストレスの受け方や傾向を分析することが重要だ。
これは人事採用の場面でも考えていかなければならないポイントだ。採用したいと思う人材の中には、ストレスに影響を受けやすい人がいたり、ストレス耐性はあっても協調性に欠ける人がいたりとさまざまだ。だが、それは上司や周囲のフォローによってカバーできる可能性も十分にある。そのため、企業側は「採用後にその人が持つ能力を発揮するには会社としてどういうフォローが必要か」という視点でも考える必要がある。
メンタルヘルスケアソリューションベンダーであるアドバンテッジ リスク マネジメントの販売パートナー企業を努めるキヤノンマーケティングジャパンは、こうした採用時の課題を解決するために採用適性検査「アドバンテッジインサイト」を提供する(図2)。これにより、現在のストレス状況や潜在的なストレス耐性、対人能力(EQ能力)、感情のコントロール力など多角的な視点で人材を分析できる。
では、従業員一人一人のパフォーマンスが十分に生かせ、「戦える組織」を作るためにはまず何から始めればいいのだろうか。重要なポイントは、ストレスチェックの結果を分析し、まず組織のストレスがどこに存在するかを把握することだ。
ストレスチェックは、原則的に企業と提携する医師や保健師、看護師、精神保健福祉士などが担当する。チェック結果は、これらの実施者や実施実務従事者以外は知ることはできない。そのため、企業が従業員一人一人の状況を把握することはできないが、ストレスチェックのソリューションの中には、組織全体のチェック結果をグラフで表示し、どこの部署や部門でストレスが多く、健康衛生状態に問題が発生しているかを可視化する機能を持つものもある。
例えば、オービックビジネスコンサルタントが提供するクラウド型のソリューション「奉行Edge ストレスチェッククラウド」は、23問、57問、80問、120問と受検設問数に応じた集団分析レポートを提供する。
57問で受験した場合は、厚生労働省が提唱する3つの視点「仕事と量のコントロール」「上司・同僚の支援」「職場改善のポイント」を基にした分析データを自動集計し、課題のある集団を特定できる。80問、120問で実施した場合は、個人のワークエンゲージメントと職場の一体感を数値化したグラフや集団のストレス課題、組織の伸ばすべき長所など、より深いレベルで把握できる(図3)。
また、正確な結果を得るには、正直にアンケートに答えてもらう必要がある。中には、「回答内容によっては、今後の人事に影響する可能性もあるのでは」と心配する従業員もいるだろうが、ストレスチェック制度では、社員の解雇や昇進、異動に関して何らかの権限を持つ地位にある人が実施者になってはいけないと決められている。事前にこのことを周知し、実施目的や意図、会社の取り組みを説明することでこのような懸念も軽減されるだろう。
こうした懸念を払拭(ふっしょく)するために、奉行Edge ストレスチェッククラウドは、ストレスチェックの目的を周知し、実施を案内するためのテンプレートを備える(図4)。また、実施案内だけではなく、未受験者への受験促進や、部署別の受験率を把握することも重要だ。
こうした組織分析により、できるだけストレスを排除することが理想だが、ストレスがない職場が必ずしもいい職場だとは限らない。組織と従業員の成長には適度なストレスが必要である。そうでなければ、単なる「ぬるま湯」の職場になってしまうだろう。
そのためにも、全てを会社がおぜん立てするのではなく、変えていこうとする個人の努力も必要である。キヤノンマーケティングジャパンが代理販売する「アドバンテッジ タフネス」は、個人のストレス耐性(メンタルタフネス度)やワークエンゲージメントを測定できる。外部要因だけでなく、個人の内的要因を併せて考えることで、より課題の本質を見いだしやすくなる。
また、同サービスやオービックビジネスコンサルタントの「奉行Edge ストレスチェッククラウド」は、従業員がストレスに対応するスキルを向上させるためのeラーニング形式の学習コンテンツを提供する(図5、図6)。このような機能も活用しながら、組織と従業員の両者で職場環境の改善を考えると良いだろう。
健全かつ高いパフォーマンスを生み出す組織は、従業員の満足度と健康・衛生面の双方のバランスを考えることが重要だ。個人のワークエンゲージメントが高くてもストレスが高いと、健康面に支障を来す可能性がある。理想的なのは、ワークエンゲージメントが高く、低ストレスの職場を作ることだろう。
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