現場の細かな業務データをくまなく拾って会計監査などにも耐える業務フローを整備するには、大きなシステム導入でないとムリ? 「今と変わらぬ人員で効率よく運用したいなら入出力業務をなくしてしまえばよい」こんな潔ぎ良い提案が聞こえてきた。さて、どんな仕掛けか。
データがものをいう時代。年商規模が大きくなくても、人員が少なくても、事業をするには情報を生かし、リスクやチャンスを大企業同様にしっかり追いかける必要がある。
しかし、情報を生かすための「データ入力」は現場に任されている。人員が少ない中、詳細な情報入力を求めるのは負担が大きくなりやすい。「ならば、入力しなければよい」という逆転の発想で、中堅・中小企業に向けて「脱・入力業務」を提案するサービスが登場した。
クラウド版の統合ERPシステムは、システム投資コストを安く抑えられ、標準化した業務プロセスを前提とするため、開発費用も少なくて済むことから、従来のオンプレミス型ERP導入を諦めてきた中堅・中小企業にも使いやすいものだとされる。
しかし、自社業務に合わせたカスタマイズの費用負担、業務プロセスや入出力操作自体の大幅な変更は業務スタッフに大きな負担を強いることになる。場合によっては「作業が繁雑」などの理由で現場実務に定着しない可能性もある。さらに、多くの中堅・中小企業には、EPR導入プロジェクト担当できる人材がいなかったり、そもそもERPを使いこなせる人材がいない、システムを運用する人員を確保できないといった課題もある。
経営に必要なデータを集められなかったり、老朽化したスクラッチ開発のシステムをつぎはぎだらけで運用したり、あるいはそうしたシステムから取得した信頼性が怪しいデータを見ながら運用せざるを得なかったりといった状況に陥っている企業は少なくない。システム刷新が難しく現状維持を継続した結果、維持コストが年々増大する状況がある。それでも、ERP導入に踏み切れない企業には障壁がある。それは、業務フローの煩雑化や新ツールでの入出力業務負担、その学習コストだ。
導入コスト、学習負担、入出力業務の増加……、大企業ではない組織のERP刷新に付きものの課題をまとめて解消すべく、SAPジャパンと、RPAテクノロジーズ、アイ・ピー・エスの3社が協業する。以降で具体的な仕組みを紹介する。
SAPジャパンと、RPAテクノロジーズ、アイ・ピー・エスの3社が中堅・中小企業向けERP「SAP S/4HANA Cloud」にRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)を組み合わせたソリューションを提供する。具体的にはSAP専門のシステムインテグレーターであるアイ・ピー・エスが、「SAP S/4HANA Cloud」「Analytics Cloud」に、RPAテクノロジーが提供する学習済みのBizRobo!のRPA「受託ロボ」のカスタマイズをパッケージ化して「EasyOne Cloud」として展開する。
「SAPは、SAP S/4HANA Cloudを介して中堅・中小企業に対してビジネス基盤――機能ではなく“業務プロセス”を提供する。買い直しやアップグレードのような煩雑さはない。しかし今まではどうしても顧客に『入力業務』を求めざるを得なかった。そこで顧客がそのままのリソースで生産性を高める方法として2社との協業を実現した」(SAPジャパン ゼネラルビジネス統括本部 第二営業本部 第一営業部 部長 綱島朝子氏)
「EasyOne Cloud」は、基幹系の一般的な業務についてSAP S/4HANA Cloudの標準画面にデータ入力する業務を学習済みのRPAロボットを提供する。個別のカスタマイズも可能だ。RPAロボット自体はオンプレミスのS/4HANAでも運用できる。また、SAP ERPにも対応する。
注文伝票の内容をERPに自動入力したり、取引先への請求書発行を自動化したりといった処理を任せられる。顧客向けの請求書や納品書は、取引先企業ごとに指定フォームがあるケースも多く、処理が煩雑だが、こうした処理もロボットに学習させることで作業を任せられる。
「基幹系業務システムの刷新はスタッフの学習コストがかかる。この点をRPAが代行すれば定着しやすい。ミスのないRPAの特徴を生かして従業員向けのアラート提示を自動化し、抜け漏れなどのミスを防ぐ運用も検討できる。入出庫状況のチェックシートをSAP S/4HANA Cloudから取得して担当別にメールで通知するような処理も自動化できる」(アイ・ピー・エス 社長の渡邉 寛氏)
このようなチェックフローやアラートの仕組みはBizRobo!が得意とする実装だという。「BizRobo!はバックグラウンド動作が前提であることから、さまざまなツールと連携しやすいため、スケールさせやすい」(RPAテクノロジーズ 社長の大角暢之氏)
年商250億円以下で利用者数50〜100人程度の企業を対象に、初期費用は980万円〜。アイ・ピー・エスでは以降「ERPユーザー1人当り3万円程度の月額費用でのサービス提供を計画している」(渡邉氏)という。
SAPジャパン 常務執行役員 ゼネラルビジネス統括本部統括本部長 牛田 勉氏は会見冒頭で「DXレポート 〜ITシステム「2025年の崖」の克服とDXの本格的な展開〜」(経済産業省、9月発表)を題材に「大企業だけでなく中小企業でもDXを推進していく必要がある」とし、継続的な情報の蓄積と最適化のために「粒度、精度、鮮度の3つを整える施策が重要」と今回の発表の意義を説明した。
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