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適材適所のテクノロジー活用を通じた組織の効率化・高付加価値化を当たり前の文化にーージェンパクト日本法人・田中新社長に聞く

» 2019年02月19日 10時00分 公開
[相馬大輔RPA BANK]

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RPA BANK

ダボス会議で知られる「世界経済フォーラム」が2018年9月17日に発表した「未来の働き方:The Future of Jobs 2018」の報告書では、人工知能(AI)をはじめとしたテクノロジーの進展により、2025年までに52%の仕事はロボットなどが担うことになると予測した。また、2022年には7,500万もの職が失われる一方、自動化によって1億3,300万の新たな仕事が創出されるとしている。

これらは、「ヒトとロボットの協働」が現実の世界となることを示していると言えるだろう。国内でも、それに向けた第一歩のステップとしてRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)の取り組みが進んでいる。そうした一方で、「減退期」とも言われるようにRPAの取り組みを通じて生じてきた課題についても顕在化しているのも事実である。

RPA BANKが2018年6月、会員企業720社を対象に実施したアンケート調査によると、RPAを本格展開する上での課題として多く挙げられたのは「開発者不足・開発スキル不足」(34%)、「運用・統制ルールの未整備」(21%)、「社内システムと相性が悪い」(13%)、「対象業務選定に工数がかかる」(9%)などだ。

「本当に現状の取り組みは正しいのか」、「間違った方向に進んでしまっているのではないか」と不安に思われる担当者の方もいるのではないだろうか?

そこで編集部では、RPAの有効性とRPAには3つのステージ(Class1:定型業務の自動化, Class2:非定型業務の自動化, Class3:高度な自立化)があることをいち早く国内でも啓発し、多くの企業のRPA導入コンサルティングを行ってきた実績を持ち、2018年10月1日にジェンパクト株式会社の代表取締役社長に就任した田中 淳一氏にインタビューを実施。

減退期という声も一部で聞かれる「RPA」の各企業での導入実態とオートメーションの潮流、企業の生産性を高めるために必要なマネジメント層のマインドセット、そして同社が提供するAIプラットフォーム「Genpact Cora」について聞いた。

■記事内目次

  • 減退期と言われる「RPA」の実態とオートメーションの潮流
  • 海外と日本のRPAの取り組みの前にあるマネジメント層の意識の差
  • 業務改善を実現、加速させるジェンパクト社のAI基盤「Genpact Cora」とは

減退期と言われる「RPA」の実態とオートメーションの潮流

─はじめに、RPAに長らく関われてきた田中社長が、同社に参画することとなった背景を教えていただけますでしょうか。

私は昨年10月にジェンパクトの代表取締役に就任しましたが、 そのひとつの理由は、前職がコンサル企業であったため、外側からでしかサポートができないことに歯がゆさを感じていたからです。それがジェンパクトであれば、自分達で業務を引き受けて、内側から業務改革を推進して行くことができます。

自らRPAを活用して業務を効率化し、蓄積された情報をAIに学習させ、アナリティクスにより付加価値の高い情報を企業に提供することで、 企業の生産性向上や企業価値創造に直接貢献していくーーそんなWin-Winなサイクルを広げて行くことが、私のミッションなのだと強く感じたのです。

─グローバルにおける圧倒的な実績を持たれながら、国内ではまだデジタル分野で馴染みのないジェンパクト社の事業内容について教えてください。

はい、当社は1997年にGEのキャピタル事業の間接業務を改革する部門として発足し、世界各地に分散していたGEの間接業務をオペレーションセンターへ集約し、効率化を実現しました。

2005年にGEから独立し、現在、デジタルを活用したインテリジェント・オペレーションのみならず、自らもデジタルトランスフォーメーションを支援する8万人を擁するグローバル・プロフェッショナル・サービス企業(本社:ニューヨーク州 アメリカ合衆国)へと変貌しています。

日本法人は2005年に設立され、GEグループ内の業務改革で培った業務改革手法として多くの企業でも採用された「リーンシックスシグマ」や「オペレーショナルエクセレンス」をDNAとして引き継ぎながら、これまで多くのグルーバル企業に対して、バックオフィス業務のアウトソーシング(BPO/ビジネス・プロセス・アウトソーシング)や、ビジネスプロセス改善コンサルティング(BPR/ビジネス・プロセス・リエンジニアリング)を提供してきました。

特徴としては、BPOを通じて培ったノウハウに、RPAやAI、そのほかさまざまなテクノロジーツールを融合させながら、業務効率化を最大化し、さらにはデジタルトランスフォーメーションへと導くことにあります。

私たちがBPOにとどまらず、RPAやAIをはじめとするデジタルテクノロジーを積極的に取り組む理由としては、今後の企業経営においてコスト削減や生産性向上だけではなく、新たな顧客体験やビジネスモデルの創造を実現していくには、デジタルを活用した成長が欠かせないと捉えていることが挙げられます。

国内での事例のひとつに、日産自動車株式会社があります。2005年から日産自動車グループと、グローバルで人事業務、財務経理、購買、サプライチェーンマネジメント、カスタマーサービス、生産管理、営業サポートなど、多岐にわたる業務領域でBPOでの協業を開始し、現在では、インテリジェント・オペレーションとしてRPAやダイナミックワークフロー、AIなど、さらなる成果を見出すためにデジタルを積極的に活用しています。

特に製造業などは海外展開にとても積極的ですが、海外拠点が点在した場合、業務の標準化や集約化が重要課題になります。われわれはそのような課題解決の要望に対し、財務・経理、人事、購買などの間接業務をシェアードサービスセンターに集約することで効率化を実現し、デジタル活用でさらなる飛躍を図っていく提案を行っています。

そのための体制として、中国やインド、アメリカなどから最適なソリューションと最適な人材を集めてプロジェクトを推進しています。ただ、日本向けの場合、日本語が理解できないと行えない業務も多いので、日本語対応が可能で業務を熟知している中国の大連センターや国内のセンターと、トランスフォーメーションやデジタルに高い知見・経験を持つコンサルタントがチームとなり、オペレーションを設計し運営をするケースが多いですね。

─RPA市場の創成期よりだれよりも長く深く実態を見てこられているかと思いますが、「減退期」という言葉に代表されるように、「RPA」の取り組みを通じて課題も見えてきました。こうした事象をどのように見ていますでしょうか?

まず、今の日本の業務改革はRPAが牽引しているといっても過言ではないでしょう。RPAは欧米で先に盛り上がり、その後に日本に輸入されたテクノロジーですが、日本におけるRPAの取り組み状況を見ると、今では間違いなく世界で最も勢いがあると言えます。

日本では過去にも業務改革の取り組みとして、欧米で生まれたBPRに則って業務内容や業務フロー、組織構造、ビジネスルールの全面的な見直しが叫ばれたこともありました。しかし、トップダウン型で進むことが多いBPRの取り組みは、ボトムアップ型の日本企業の文化とは相性がいいとは言えず、効果を上げている企業は一部にとどまっています。

一方で、RPAは比較的安価なことから始めやすく、また、ミドル層から経営層へと導入を提言しやすいという特徴があり、それが急速な普及の一因だと言えるでしょう。日本はミドルから上げて、トップが意思決定をして広がる企業文化ですので、そこに上手くフィットしたわけです。

ただし、これまで属人的に設計されてきた業務フローや複雑に構築されてきたシステム基盤を、ただRPAのみで一気に解決することは難しいとも考えられます。そのことが、一部で「減退期」といった言葉が囁かれている背景にあるのではないでしょうか。

海外と日本のRPAの取り組みの前にあるマネジメント層の意識の差

─オートメーション化のプロセスとして、RPAだけでなく、適材適所に必要なテクノロジーや方法論を取り入れていくことが重要ということですね。それでは今後、RPAの取り組みを継続し、飛躍させていく上で重要になるポイントはなんでしょうか?

そうしたさまざまなテクノロジーの導入に対して、日本のトップは認識がまだ追い付いていないように思います。というのも、RPAやAIといったテクノロジーを業務効率化のツールとしてしか捉えていない傾向が強いためです。

そもそもテクノロジーというのは会社そのものを変えるためのツールなのです。そのため、ただ導入しただけでは会社は変わることなどできません。どのような会社にしたいのかという将来設計というのは経営層が考えなければなりませんが、そうした認識が欧米と比べると弱いように思うのです。

─業務のみを効率化するのではなく、組織ごと高度化しなければいけないということですね。

そのとおりです。従来、日本企業には、組織をうまく調整しながら、なるべく失敗をせずに結果を出してきた人物がトップに就任するという文化があったと思います。しかし、現在のこのテクノロジー変革の時代には、そうした調整力に優れている人よりも、自らビジョンを掲げて、人々をリードできるような人物がトップとなって、会社を変えていくことが求められています。そうでなければ、今のRPAの盛り上がりも一時的なブームとして終わってしまい、RPAに取り組んだ企業もまた小さな改善で終わってしまうのではないかと危惧しています。

業務改善を実現、加速させるジェンパクト社のAI基盤「Genpact Cora」とは

─2017年6月には、グローバルでトランスフォーメーションを支援するAI基盤「Genpact Cora」も発表されましたね。概要や導入状況などお聞かせください。

Genpact Coraは、デジタルテクノロジーを相互に連結した、柔軟性の高いモジュラー(組み合わせ)型プラットフォームです。具体的には、大規模な業務改革を最短距離で実現するための、自動化(Automation)、アナリティクス(Analytics)、そしてAI(Automation Intelligence)などの様々なエンジンを単一のプラットフォーム上に統合したソリューションとなります。モジュラー型なので、企業にとって世の中に更に良いテクノロジーがあればそれと接続、もしくは差し替えも容易にできることも特徴です。

例えば、大手製薬会社は、薬の安全性をとらえなおす取り組みの一環として、ジェンパクトの医薬品安全性監視のAI(PVAI)製品を活用しています。PVAIは、Genpact CoraのAI、アナリティクス、プレディクティブモデリングなどのテクノロジーを使用し、さまざまなソースから薬の副作用などに関するデータを自動的に集めて分析します。

構造化されていないデータをすばやく解析し、意味のある実用的なインサイトを導きます。PVAIは薬の安全性に関するオペレーションを、発生した問題を追跡するアプローチから、潜在的な問題を予測して解決するアプローチに転換しています。また、ヒューマンエラーの減少、薬の品質の向上、患者のアウトカム改善、規制の100%順守も実現します。

また、グローバル消費財メーカーでは、以前人手による非効率的な財務報告書の作成業務に多くの人員を費やし、何週間もかけて社内外のさまざまなシステムから集めた構造化/非構造化データを読み解いていました。

現在は、ジェンパクトのAIレポート製品がGenpact CoraのRPA機能を活用し、わずか数日でこれらの報告書を作成するほか、データ収集の70%を自動化しています。また、AIの学習機能により、短期間で正確な業績予想を出せるようになり、頻繁に予想を立てることで、確かな情報に基づいた経営判断が行えるようになっています。

─新たなビジネスを創出するためにも、これからの日本ではどのような取り組みを行なっていくべきなのでしょうか。

やはり、今まさに押し寄せているRPAやAI、インテリジェントオートメーションなどのデジタルテクノロジーの波に上手に乗って具体的な成果へと導いていくことが必要でしょう。それらのテクノロジーは既に創世期を経て、現在は拡散期へと入りつつあります。そして今後は、自社のビジネスがデジタルテクノロジーによりどのように変わっていくかを見極め、そこでの付加価値の出し方を見直し、そのために企業がそれぞれのテクノロジーの活用を自社の企業文化のレベルにまで根付かせて、真の意味での組織の効率化と変革を図っていくフェーズへと入ってくことが求められてくるのです。

RPAを使う・使わないに関わらず、さまざまなテクノロジーが普及し浸透するに従って、業務の自動化は進んでいくことでしょう。しかし一つ言えるのは、何もしなくても勝手に自動化されるわけではないということです。だからこそ、業務の自動化や業務改善を推し進めていく使命を担う部署やその人材に権限を委譲し、もっと発言力や影響力を持てる環境を用意する必要があります。

RPAをはじめとしたテクノロジーを、拡散から真の活用へと導くことは、当社の使命でもあります。今後の日本という国全体の生産性を底上げし成長させていくためにも、当社からトップに提言していきつつ、本質的な業務改革の実行を支援していきます。

─創世期から拡散期に向かったRPAが今後どのような役割を担うべきなのか、力強いメッセージをお聞かせいただきました。本日はありがとうございました。

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