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» 2019年04月10日 08時00分 公開

1分未満で50%充電できるって本当? 「超高速充電リチウムイオン電池」5分で分かる最新キーワード解説(1/2 ページ)

数時間はかかるスマホ充電や電気自動車への実用的な充電が数秒〜数分でできるかもしれない。東京工業大学と岡山大学の研究チームがリチウムイオン電池充電の桁ちがいな超高速化を実証した。

[土肥正弘ドキュメント工房]

「超高速充電リチウムイオン電池」とは?

 東京工業大学フロンティア材料研究所と岡山大学大学院自然科学研究科の研究チームが研究目的で作製した、特殊な正電極をもつリチウムイオン電池により、電池の総容量の50パーセントを1分足らずの超高速で充放電可能な事実が確認された。800回の充放電を繰り返しても大きな特性劣化は見られなかった。これは従来の同種電池の常識をくつがえす新発見だ。研究半ばではあるが、高コストの特殊な原材料を使用せずにこの成果が得られたことは、市場性のある超高速充電型リチウムイオン電池の誕生に遠からずつながりそうだ。研究チームの安井伸太郎助教と安原颯氏に話を聞いた。

「超高速充電リチウムイオン電池」の構造と特性

 この実験用リチウムイオン電池には、一般的な同種製品とは違う2つの大きな特徴がある。

(1) 電池の正極側電極を薄膜で形成した

(2) 正極側電極の表面に、強誘電体であるナノサイズのBaTiO3ドットを形成した

 なぜこのような正極側電極としたのかは後回しにして、研究で確認された特性をみてみよう(図1)。

図1 「超高速充電リチウムイオン電池」の放電容量の変化(提供:東京工業大学) 「超高速充電リチウムイオン電池」の放電容量の変化(提供:東京工業大学)

■【従来型リチウムイオン電池と同じ構造のLCO薄膜】

 まず「LCO薄膜」という正極側電極に注目してみよう。「LCO」はコバルト酸リチウム(LiCoO2)のことだ。電極イラストのオレンジ色の層がLCOの薄膜である。その下部の緑の層が電気を伝えるための電極だ(材質はルテニウム酸ストロンチウム(SrRuO3)、その下の白い層は、反応には関与しない基板である(材質はチタン酸ストロンチウム:SrTiO3)。薄膜電極ではあるが、これまでのリチウムイオン電池の正電極と基本的には同じ構造だ。

 黒い折れ線が放電容量を計測した結果だ。実験では、徐々に充電の電流値を上げながら、充放電を繰り返して測定した。サイクル数はその繰り返し回数を示し、「1C」〜「100C」は充電の電流値を表している。サイクル数はただ試行回数を示すものと見てもらうとよい。繰り返し回数はこの程度では電池の特性変化に無関係で、図のように35サイクル繰り返した後にまた1Cの電流値で測定するとまったく同じ特性を示した。上の目盛のC値と、縦軸の放電容量に注目していただきたい。

 1Cは電池の全容量を1時間で充電しきる電流値のことだ。つまり2Cなら2分の1時間(30分)、50Cなら50分の1時間(72秒)で充電または放電が終わることになる。図では1Cの電流値で充電(低速充電)した場合には約120 mAh/g程度の放電容量(出力)が得られているが、電流値を上げて充電していくと、20Cを超えたあたり(高速充電)で一気に放電容量が下がって、電池として用をなさないようになることが分かる。

 これを別の言い方にすると、1Cなら1時間で100パーセント充電でき、10Cだと6分で80パーセントくらいまで充電できるが、20Cを超える超高速充電ではほとんど充電されず使い物にならない。この特性は従来のリチウムイオン電池の特性と同じで、低速充電なら100パーセント充電が可能だが、高速充電では100%充電には至らないものの、実用上はさほど支障のないデバイス駆動ができる程度の充電ができる。しかしそれよりも高い電流値で超高速充電するのは無理という、従来型のリチウムイオン電池の常識そのままの結果だ。

■【超高速充電で効果を示したドット堆積】

 次に図1の「ドット堆積」電極の場合を見てみよう。これは「LCO薄膜」のLCO表面に、強誘電体であるチタン酸バリウム(BaTiO3、以下BTOと呼ぶ。キャパシタ材料として広く使われている)をナノサイズのドット状に配置したものだ。赤い折れ線で示した特性は、20Cを超えたあたりから「LCO薄膜」の特性と大きく異なり、50Cでは1Cの場合の放電容量の67パーセント、100Cに至っても50パーセントが出力できるという驚きの結果が出た。これがこの研究成果の最重要ポイントだ。低速または高速充電の場合は従来型とそう変わりはないが、超高速充電の場合ははるかによい特性が得られることが分かったのである。しかも、使用している材料は特殊なものではなく、比較的低コストで量産可能なものばかりである。チタン酸バリウムのドットの面積や厚さをナノスケールでコントロールするところに難しさがありそうだが、実用化への障壁はそう高くなさそうだ。

 なお、図1の「一様被膜」は比較のためにBTOをドットではなく一様にコーティングした電極だ。こちらの特性は「LCO薄膜」よりもかなり悪い。BTOがドット形状で配置されていなければ、電池特性には逆効果だということを示している。

充電時間を気にせず、ちょこちょこ充電が可能に

 「ドット堆積」電極についての実験結果は、私たちの未来にどう影響するのだろう。少し利用シーンを想像してみよう。リチウムイオンバッテリーを搭載するデバイスで一番身近なのはスマホだろう。たいていは寝る前に充電しておき、朝の出掛けに100パーセント充電されている状態で持って出掛けるのだが、充電を忘れたり、電力消費の大きいアプリを使うなどで日中に電池切れになって慌てたりした経験がおありではないだろうか。そんなときオフィスに超高速充電器があれば、ほんの1分使わせてもらえば半分までは充電できる。数時間使って電池容量が少なくなっても、オフィスやカフェなどにある超高速充電器で休憩時間にまた半分までは充電できる。常に50パーセント程度の充電状態で、容量が不足し次第にちょこちょこ充電するのが標準的な使い方になるかもしれない。

 また過去記事で紹介したことがあるワイヤレス電力伝送技術による充電も可能になるはずだ。例えばワイヤレス充電器のある部屋での朝のグループミーティングを行う場合、ミーティング終了時にはグループ全員のスマホが、意識することなく自動的に充電されているというようなシーンも想像できる。

 さらに、電気自動車のバッテリー充電にも応用可能性がある。高速充電器が地下に埋め込まれた駐車場に一時的に駐車するだけで実用的な容量が充電できるようになるかもしれない。また道路にいくつも埋め込まれた超高速充電器から走行中に充電することも夢ではなくなる。ワイヤレス給電の仕組みはさまざまな領域で考えられているが、「超高速充電リチウムイオン電池」は非常に相性がよいと思われる。実際には法規制や安全性への懸念もあり、そう簡単には実現できないかもしれないが、決して不可能ではないはずだ。

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