働き方改革を背景に、残業時間のPC利用を制限する強制シャットダウン機能に注目が集まっている。機能や効果、運用のポイントについて導入事例を交えて紹介する。
2019年4月に働き方改革関連法(正式名称「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律」)が施行され、残業の上限規制が厳格化された。従業員に対して企業が課せる残業時間は、最大で年720時間、単月100時間未満と定められている。
法令に違反した場合には、懲罰や罰金などの罰則が科せられるだけでなく、企業イメージのダウンや優秀な人材の流出といった深刻なダメージを被ることが予想される。従業員の残業時間を適切にマネジメントすることが急務だ。
だが、上司が常に部下の業務状況を監視することは難しい。柔軟な働き方が浸透するにつれて、顔が見えない従業員の業務時間をどのように管理するのかという課題も浮上している。
具体策として、注目を集めているのが、「強制シャットダウン機能」だ。多くの業務がPCを使って行われることに注目し、PCの稼働時間をコントロールすることで、長時間労働の是正とPC利用時間(労働時間)の把握にアプローチする。具体的にどのような機能を備えているのか、同市場で最大シェアを占める「FUJITSU Software TIME CREATOR」(以下、タイムクリエイター)を例に解説していこう。
タイムクリエイターの主な機能としては、残業の抑止と働き方の可視化の2つが挙げられる。強制シャットダウン機能というと、シャットダウンによる残業抑止機能のイメージが強いが、長時間労働の是正には業務状況の把握や見直しも必要だ。
まず、残業抑止機能について説明しよう。設定した勤務終了時間に近づくと、従業員のPC画面に当日の勤務時間を知らせるバルーンが表示される。残業時間になると、PC画面の8割を占めるサイズの警告画面が最前面に表示され、残業申請を行わなければ、作業を続けられない。設定次第ではPCを強制シャットダウンすることも可能だ。
残業申請や承認は、警告画面の「申請ボタン」をクリックすると表示される申請フォームから行う。申請時に要件や納期など理由を詳細に記すようにすれば、申請・承認のやりとりを通じて上司と部下のコミュニケーションが生まれ、組織における業務の負荷を把握することで平準化も行いやすくなる。
残業承認パターンは、「事前承認型」と「事後承認型」の2つから選べる。前者は残業申請の上司承認がされないとPCが利用できないため強制力が強く、後者は残業申請を上司に行えばPCが利用できるため時間の意識付けを促すことに適している。ちなみに、上司が外出などでオフィスに不在の場合は、メールを通じて承認ができる「メール連携オプション」も用意されている。
もう1つの重要な機能は業務内容の可視化だ。タイムクリエイターは上司が部下の勤務実態を一覧で把握できる機能を有する。必要に応じてPCの利用履歴や残業申請理由、警告表示回数といったログをCSV形式で出力することもできるため、より詳細に勤務実態の分析を行うこともできる。データを基に、残業の多い部下への働きかけや、組織での残業抑止策を検討するといったアプローチが可能だ。
さらに、従業員ごとの日次、月次の業務内容をより詳細に把握することも可能だ。具体的にはアプリケーションの操作ログなどを基に、「コミュニケーション」「資料作成」といった具体的な作業件名を時間軸でグラフィカルに表示。また、操作ファイル名や打鍵回数、画面の切り替え数のログから、業務への集中度なども割り出せる。
従業員が業務の振り返りや効率化の検討に活用できる他、上司は部門や組織全体の勤務状況を俯瞰して、働き方改革にアプローチできる。最近では、テレワークなどで社外にいる従業員の業務を把握できるという点でも需要があるという。その他、現状の業務を可視化、見直しをすることで組織の課題を把握して改善。生産性向上につなげることが可能だ。
現在、市場に存在する強制シャットダウン機能を持ったサービスは、オンプレミス型とSaaS型に分けられる。双方を提供するタイムクリエイターの場合、「働き方可視化オプション」など一部のオプション機能はオンプレミス型でのみ提供されるため、多機能を重視する場合は、前者を選びたい。一方、導入までのリードタイム短縮を重視する場合や、工事現場など専用環境の構築が難しいケースは後者の利用が勧められる。
製品選定のポイントの1つは自社にあった詳細な設定が可能かどうかということだ。例えば、警告画面の表示時間や表示タイミングを細かく設定が可能かどうか。また、フレックス勤務などに合わせて月次累積PC利用時間での管理が可能か、という点も確認したい。部署ごとや役職ごとに設定を変更できるかも重要だ。
隠れ残業を防止する機能の有無もチェックする必要がある。例えばタイムクリエイターは、勤怠管理システムとの連携によって、勤怠打刻とPCログオン・ログオフのタイミングを照会し、差分があれば管理者が把握できる仕組みを提供する。より厳格な運用を行いたい場合は、勤怠の打刻に合わせてPC操作を抑止することが可能だ。実際に使用する際に必要な機能があるかを見極めたい。
PCに警告画面を表示したり、残業申請をさせたり、シャットダウンすることで、強制的に従業員への意識付けや残業を抑止する強制シャットダウン機能に対して、従業員から反発の声が上がるケースもゼロではない。スムーズに導入・運用するポイントは何だろう。
スムーズな運用を行うには、まず従業員に対し、導入に向けて運用方針や機能に関する説明会を開催し、趣旨を理解してもらうことが効果的だ。また、運用ルールを段階的に厳しくして、従業員への定着を無理なく進める方法をとる企業も多い。タイムクリエイターを自社で導入する富士通エフサスでは、導入当初は「17時になると当日の勤務時間をバルーンで表示」その後、「勤務終了時間の17時30分には警告画面を表示」という運用からはじめ、2018年度からはこれらの機能に加えて「警告画面を5分毎に3回表示し、申請をしないとPCをシャットダウンする」という機能を活用するようになった。ルールを徐々に厳格化したことで、反発が生まれることもなく、従業員からは「時間を意識した働き方ができるようになり、残業をしている人たちにも遠慮せず仕事を切り上げられる」という声も上がっている。
では、PCシャットダウンシステムは実際に長時間労働を是正する効果があるのか。実際にタイムクリエイターを導入した企業の事例を幾つか紹介しよう。
オフィス設備機器大手の同社は、長時間労働の早急な改善が課題となっていた。従業員の労働時間に対する意識が管理職を含めて希薄であり、仕事を抱え込んでしまう従業員も見受けられたという。そこで同社は、勤務状況を可視化して適正な労務管理を実現するためにタイムクリエイターの導入を決めた。
スピード感を重視し、導入決定からわずか2カ月程度で全社員のPCへの展開準備を完了した。施策はトップダウンであったが、人事部門の導入担当者も現場を回り、全従業員を対象に説明会を行って理解を得ていった。コンプライアンス徹底が急務であることを前提に、長時間労働の改善や組織マネジメントの強化につながるという意図を繰り返し説明したという。
同社では、制度面の施策とあわせて社員1人当たりの年間残業時間を5%強短縮することに成功している。管理職のタイムマネジメントに対する意識も芽生え始め、従業員の間でも質を落とさず仕事を効率化する意識が広がり、働き方改革のきっかけになった。
総合建設会社の同社は、社員の過重労働を抑止することが喫緊の課題だった。従業員は複数の建設現場に分かれて勤務しているため、勤務状況の把握が難しい。また、従業員たちが品質の高いモノづくりを目指すあまり、残業は仕方ないという意識が根付いていた。
タイムクリエイターの導入時は、部門ごとにマニュアルを作成したうえで、説明会も実施。勤務時間を超過した場合に、PCをシャットダウンするのか、それとも警告だけに留めるかについては部門によって意見が分かれたが、きめ細かく社内の意見調整を行い、最終的にシャットダウンを行う方針に決定した。その結果、80時間以上残業する従業員はほぼゼロになるとともに、3割以上の社員が前年比で10%以上の残業時間短縮を達成した。従業員の間にも、勤務終了時間に仕事を終了させようという意識が定着している。
地域農業活性化、農産物の開発・販売、農業生産資金や生活資金の貸し付けなどの事業を手掛けるいなば農業協同組合(以下、JAいなば)は、時間外労働の削減を課題に挙げていた。勤務終了時間に終礼を実施し、残業する場合は紙の書類を提出させて上司の承認を必須にするなどの取り組みを実施していた。しかし、なかなか定着せず、残業抑止効果が得られなかったという。そこで、定時以降のPC利用を制御するという方法に着目し、試験的にPCをシャットダウンするバッチファイルを導入した。しかし、設定した時間になるとすぐシャットダウンされる仕様だったため、「データが保存できない」など従業員から不満の声が上がった。
そこで、より柔軟な運用が可能となるタイムクリエイターの導入に踏み切った。導入はスムーズに進んだが、ルール作りには力を入れたという。具体的には、定時である17時半までは自由にPCを使える設定とし、18時半から警告画面の表示を行う。そして、19時にシャットダウンを実行。20時以降は承認の有無にかかわらずPCが使用できないようにした。こうした取り組みが、残業抑止につながっているという。
強制シャットダウン機能の導入で成果を上げている企業では、システムをただ導入するだけではなく、どのようにツールを活用するのかを社内で話し合い、新たに必要となる制度やルールの整備も行うことで、大きな効果を得ている。働き方を見える化することにより、上司と従業員がコミュニケーションをとり、残業に対する意識改革を行うなどのアプローチにも注力する。ルールや制度、意識や風土の面での改革も併せて行い、ツールを1つの手段やきっかけとして捉え、うまく活用することが重要だ。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
製品カタログや技術資料、導入事例など、IT導入の課題解決に役立つ資料を簡単に入手できます。