上述のような1キロ程度の遠距離2点間通信のほか、図1のイメージ図の右下部分に描かれているように、無線機本体とアンテナをつなぐ部分のモバイルフロントホールも大きな課題だ。例えば施設内に無線機本体を設置し、アンテナは屋上に設置するような場合の信号伝送路のことである。そこでの信号処理のオーバーヘッドが利便性の妨げになる。5Gが普及すると必ず基地局数は増えていき、この課題は深刻化していく。
「現在は国内に数十万局の(LTEなどの)基地局があるが、いずれは現在の1000倍以上の数の基地局が必要になる」と川西教授は言う。5Gの利用が拡大すると、基地局の数は「照明器具の数と同程度」になるというのだ。照明器具の数が各世帯あたりおよそ10個としても国内で5億個、人口よりもはるかに多い数にのぼる。これまでも携帯電話基地局としてキャリアが設置するマクロセル、スモールセルなどに加え、会社や個人が設置するナノセル、フェムトセルなどの小型小電力など、狭いカバーエリアの基地局が使われてきたが、主に家庭内で利用されてきたフェムトセル基地局が家やオフィスフロア、あるいは競技場やホール、道路、空港、港湾、農場、その他あらゆる場所に林立するようなイメージになる。
このような状況になると、基地局の無線機本体とアンテナは常に同じ場所に設置することはできず、例えば建物内の無線機本体から有線または無線で屋上のアンテナに接続するように、本体と離れた位置にアンテナを設置せざるを得なくなる。その時の本体とアンテナ間の信号伝送路(=モバイルフロントホール)の効率が問題になる。
上述のような無線技術を利用して接続することも可能かもしれないが、多くは有線での接続のほうがコスト面でも安定性の面でも有利になるだろう。しかし従来の同軸ケーブルなどでは、高い周波数帯の信号では損失が大きくなるため、高度な変調方式をとる高速通信には限界がある。そこで、ここにも光ファイバーを使用し、光ファイバーに電波波形をそのまま載せて伝送する「ファイバー無線技術」が開発されている。これは高い周波数帯の電波を光に変えて光ファイバーで伝送し、受け手のアンテナ側で光-電気変換器によって電波信号に変換する方法である。これだと光と電波の変換処理がシンプルになり、高速なモバイルフロントホールが実現できる。要するに無線機本体とアンテナを離れた場所に設置するのが容易になるというわけだ。現在はミリ波帯での実用化が進んでいるが、さらにテラヘルツ帯への拡張ができれば、さらに高速・大容量化が図れることになる。
Beyond 5G研究開発の一端を紹介したが、要素技術を活用した実証実験の事例はすでにいくつもある。例えば、ネットワーク自体がセンサとして機能するSensor on Fiber(SoF)、電波天文向けミリ波帯ファイバー無線技術(電波望遠鏡(ALMA)向けの基準信号発生・配信システムの開発)、空港滑走路での異物検知レーダー(90GHz帯の協調制御型リニアセルレーダーシステム。3000メートル×60メートル以上のエリアで3センチ以下の物体検出が30秒以内で検知可能)、高速鉄道の走行中でも通信が途切れないように、光ネットワーク制御によって無線基地局を適時切り替える通信方式……などである。どれもが高速な通信速度を前提にしたリアルタイムモニタリングや制御が特長だ。また、高速無線通信技術と、光ネットワーク技術との融合があって初めて可能になるシステムである。
2019年度中に日本でも本格的にスタートすると思われる5Gサービス。どのようなユースケースで利用されるとしても、光ファイバー中心のバックホールと、無線技術中心のフロントホールが一体のものとして連携していることが前提になる。Beyond 5G研究開発の成果を採り入れつつ、健全で安定した5Gの世界が拡大していくことを期待したい。
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