4Gまでの無線データ通信量の増加は、主にスマートフォンの普及が要因だったが、5Gではそれに加えて、IoT機器などのモニタリングシステムや工場などの機器制御、産業用車両や一般車両の交通監視・管制システム、ビル管理システム、その他あらゆる領域での無線データ通信が加わり、トラフィック量は確実に増加することになる。モバイルでの4K/8K映像視聴、VR/AR、テレプレゼンスなどをはじめとする重いデータのやりとりも、従来とは桁違いに増えていくことだろう。そのような5Gユースケースの広がりを支えるべく、これまで以上に利便性高く、安定した無線通信環境を構築しなければならないのだが、そうした広範な利用拡大には「重大なボトルネックが存在する」と指摘されている。
そう指摘する専門家の1人は、Beyond 5G研究開発を積極的に進めている早稲田大学理工学術院の川西哲也教授だ。川西教授の研究チームは千葉工業大学、岐阜大学、日本電気、高速近接無線技術研究組合と、ドイツのブラウンシュヴァイク工科大学、ドイツテレコムなどの欧州7研究機関と共同で「大容量アプリケーション向けテラヘルツエンドトゥーエンド無線システムの開発」を2018年7月からスタートさせている。研究テーマは5Gよりも高い周波数帯域であるテラヘルツ帯の無線システムの実現を目指すものだが、その主要ユースケースとなると予想されているのは、5Gネットワークの基地局間の無線ネットワークおよび基地局とアンテナの間にある「モバイルフロントホール」(後述)部分である。その部分にこそ、5Gのボトルネックがあるというのだ。
では、5Gの利用拡大で懸念されるボトルネック「モバイルフロントホール」とは何なのだろうか。
図1は現在の4Gネットワークでも一般的な無線ネットワークの模式図だ。高速光ファイバーでデータを転送するデジタル情報ネットワークは、モバイルデータ通信を念頭に置けば「モバイルバックホール(mobile backhaul)」であり、そのネットワークに接続している無線基地局の本体装置(BBU)とアンテナユニット(RAU)の間をつなぐのが「モバイルフロントホール(mobile fronthaul)」だ。
モバイルバックホールの領域は光ファイバーネットワークが中心であり、現在インターネットバックボーンで100Gbps、地点によっては400Gbpsの大容量化が実現しており、研究レベルではペタビットレベルのデータ伝送実証は珍しくなくなっている。光ファイバーによるネットワークの高速化は今後も続くと想定されるため、トラフィック数や容量が増加してもモバイルバックホールについては現在の技術の延長上で対応可能かもしれない。問題なのがモバイルフロントホールのほうだ。
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