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テレワーク導入課題「セキュリティ、就業時間管理、業務管理」の突破法

家庭の事情で「働きたくても働けない」状況にある人材に対してテレワークという選択肢を提示することで、人材確保や長期就労につながる場合もある。最近では「テレワーク可能」とする求人に対して応募が集まりやすい傾向にあるようだ。しかし、まだテレワークの実施率は低い。テレワークの浸透を阻むものとは何か。また、その乗り越え方とは。

» 2019年05月20日 08時00分 公開
[土肥正弘ドキュメント工房]

 テレワークの実施効果を分かっていても導入に二の足を踏む企業はまだまだ多い。その理由の一つに、社内のルール作りに苦戦していることが考えられる。社内勤務の従業員に不公平感を抱かせず、しかも生産性を上げ、コンプライアンスを順守するにはどうすればよいのか。

普及の進まないテレワーク、何が一番の問題なのか?

 自宅やサテライトオフィスなど、社外で勤務するテレワークは組織内の「働き方改革」を推進する上で有効な取り組みの一つだ。働き方改革の実現を目的とする「働き方改革実現会議」において決定した「働き方改革実行計画」(平成29年3月28日閣議決定)によると、「2020年までに、テレワーク導入企業を2012年度比3倍、週1日以上終日在宅で就業する雇用型在宅型テレワーカーを全労働者数の10%」を指標とし、政府もテレワークの浸透に意気込む。

 しかし、総務省が2018年5月25日に公表した統計調査「平成29年通信利用動向調査」によると、2017年時点でのテレワークの導入率は13.9%にすぎない。この結果を見ると、社会的にもテレワークの機運は高まっているとはいえ、実施状況は捗々しくないようだ。

図1 テレワークの導入状況(出典:総務省「平成29年通信利用動向調査の結果」訂正版) 図1 テレワークの導入状況(出典:総務省「平成29年通信利用動向調査の結果」訂正版)

 テレワークの実施メリットを理解しているものの、企業が導入に二の足を踏む事情が幾つかある。総務省が2018年3月に発表した調査「ICTによるインクルージョンの実現に関する調査研究」によると、テレワークの実施課題として「会社のルールが整備されていない」が最多で49.6%、次に「テレワークの環境が社会的に整備されていない」46.1%、「上司が理解しない」28.0%、「セキュリティ上の問題がある」24.6%と続いた。

図2 テレワーク実施の課題(出典:総務書「ICTによるインクルージョンの実現に関する調査研究」) 図2 テレワーク実施の課題(出典:総務書「ICTによるインクルージョンの実現に関する調査研究」)

 テレワーク実施の際は、就業制度の見直しや勤務時間管理の方法、セキュリティなど考えるべきことが多く、またそれに沿ったICT環境を整備する必要があり、こうした要因がテレワーク普及の妨げになっていると考えられる。

テレワークを始める前に考えたい3つの課題

 テレワークでは、さまざまな「見えない」ものが存在する。それはどういったものなのだろうか。テレワークの導入準備で特に考えたい3つの視点「セキュリティ」「勤務時間管理」「業務管理」を基に説明したい。

いまデータにアクセスしているのは本当に本人なのか

 テレワークを検討する企業において、セキュリティ対策は解決すべき最重要課題だ。情報漏えいはさまざまなところで起こり得る。怖いのが「なりすまし」による不正アクセスだ。VPNの敷設やMDM(モバイル端末管理)、エンドポイントセキュリティソリューションの導入など、どんなに重厚なセキュリティ施策を用いても、従業員になりすませば部外者が情報やデータにアクセスでき、簡単に企業情報を窃取できてしまう。

 社内ネットワークや業務システムへのアクセスを許す前に、管理者はその人物が従業員であるかどうかを特定する必要がある。従業員は本人であるということを証明する必要が。この時、IDやパスワードといった、知れば誰でもアクセスできる認証方法ではなりすましを完全に防ぐことは難しい。多要素認証などIDやパスワード以外の要素での認証が必要だ。

人事担当がヒヤッとする就業時間管理のリスク

 働き方改革関連法により、長時間労働に対する取り締りが厳格化した。残業時間も、月間45時間、年間で360時間までと規定されている。また、勤怠管理システムに打刻された時間と実態に乖離(かいり)があった場合は実態調査を実施し、補正しなければならない。

 これはテレワークも例外ではない。特に、社内規定でテレワーク実施中に中抜けを許している場合は、在席と離席のタイミングを確認した上で正確な就業時間を把握する必要がある。後で規定の残業時間を超過していたことが分かったのでは遅い。罰則を受けないためにも、実態に即した勤務状況を可視化する手段が必要だ。

「あの人、今本当に仕事をしているの?」

 勤務時間と同じくテレワークでは見えにくいものがある。それが業務の実施状況だ。在宅勤務では従業員の姿が見えないがために、上司からすれば「今、あの人はどのタスクをやっているのか」、同僚からすれば「本当に仕事をしているのか」という疑問を抱かれる可能性もあり得る。そうなると、テレワーク実施者も「会社からちゃんと仕事をしていると信用されているのだろうか」と不安になり、せっかくテレワークを制度化しても従業員が実施をためらってしまう可能性もある。また、上司がタスク状況を把握できていなければ、いくら本人が頑張っていても評価につながらず、従業員の不満につながる恐れもある。

 テレワークは、社内にいる時と違い業務姿が「見えない」ことで、考えなければならないことが多くある。

「テレワーカー募集」で応募殺到、その後起きた問題とは

 テレワーク支援ツール「テレワークサポーター」を提供するキヤノンITソリューションズでは、テレワークを検討する企業から悩みを相談される機会も多いという。実際に、同社に寄せられたテレワークにまつわる企業の悩みを紹介しよう。

 北海道から沖縄まで全国に約500社の取引先を持つあるIT機器の販売企業は、扱う商材数と顧客数が増加する中、製品知識など専門性が求められる見積書の作成業務が肥大化し、その効率化が課題になっていた。

 そこで、見積書の作成を一元的に担う組織を立ち上げた。次いで課題となったのが人材の問題だ。業務が肥大化すると、相応の人員が必要になる。人材採用に当たって「業務のスキルはあるが、子育てのためなかなか通常の勤務形態は難しい」という人もいたため、「テレワーク可」として人材を募集したところ、30人の応募に対して100人近い応募があったという。採用した人員はトレーニングによって即戦力となり、テレワークに強い手応えを感じたという。

 だが、そこには1つ問題点があった。見積書の作成は日々舞い込んでくるが、担当ごとに業務量の偏りが生じてしまう。多忙なテレワーカーがいる一方で、時間を持て余すテレワーカーもいるという状況もあったという。これを解消するには、テレワーカーそれぞれの時間当たりの業務量や進捗を可視化し、1人当たりの業務量を調整する必要があった。この時、テレワーカーを中心に業務を遂行するには、単に業務を任せるだけでなく業務の可視化が重要なことに気付いたという。

 こうした課題は社内にいれば簡単に確認できるが、社外となると都度コミュニケーションにより確認するなどの術しかなく、どうしてもそれぞれの勤務状態が見えにくくなりがちだ。

テレワーク支援ツールで、何がどうラクになるのか

 ここまではテレワーク導入時の課題について説明したが、「まずテレワークを前に進めたい」という企業がこれらの課題をシンプルに解決する方法としてテレワーク支援ツールを活用するという手もある。ここからは、キヤノンITソリューションズが開発、提供する「テレワークサポーター」を基に、支援ツールが備えるセキュリティ対策、労働時間管理、業務管理機能について説明したい。

顔認識技術を取り入れた「なりすまし防止機能」

図3 勤務者エージェント画面(資料提供:キヤノンITソリューションズ) 図3 勤務者エージェント画面(資料提供:キヤノンITソリューションズ)

 テレワークサポーターには、キヤノンとキヤノンITソリューションズが開発した顔認識技術が組み込まれている。まず、利用前に本人の顔画像を何パターンか登録し、本人登録を行う。この情報を基に、現在作業をしているのが本人かそうでないかを識別する。テレワークでの業務中に、登録した人物以外がカメラに映り込むと顔認証機能が自動で検知し、PCの画面は自動でブラックアウトされる。本人がいたとしても、登録されていない人物の顔が写り込んだ場合、同様の動作となる。

 なりすましやのぞき込みを検知したときは、カメラに映された画像やPC画面のスクリーンショットを記録して確認することも可能だ。また、個人情報および機密情報を扱う業務やコンプライアンス規定によりテレワーカーのプレゼンス状況を常に把握する必要があれば、顔認証機能により在席/離席を常時確認する、または定期的(20分ごと)にカメラで記録するという選択肢もある。こうした機能によって「本人のなりすまし」や「のぞき込み」による情報流出を防ぐ。

 顔認識技術を利用した「なりすまし防止機能」は、少しやりすぎではと抵抗を感じるかもしれないが、最近は、金融系企業や機密性の高い業務を行う企業でもテレワークを実施するケースが増えているためこうした機能を備えているという。

図4 なりすまし、のぞき込み検知機能(資料提供:キヤノンITソリューションズ) 図4 なりすまし、のぞき込み検知機能(資料提供:キヤノンITソリューションズ)

勤務時間を人とシステムで二重チェック

 オフィス外にいるがために管理が難しいのが、勤務時間の管理だ。特に在宅勤務の場合は、やろうと思えばいつでも業務できる状態にあるため、夜遅くまで仕事をしていたために「後で所定の残業時間をオーバーしていたことに気が付いた」ということにもなりかねない。また、勤怠管理システムに勤務時間を打刻し管理していたとしても、勤務実態との整合性を確認するのは難しい。

 社内にいる時と同じように勤務状況を把握するため、テレワークサポーターは二重の方法で時間管理を行う。テレワーカー本人が勤務時間として打刻した時間と、システムで自動的に顔認証した時間を付き合わせることで、勤務時間に差異がないかどうかを確認できる。また、カメラにより本人がPCの前にいる時間といない時間を自動で判別し、在席/離席時間を管理できるため、細かな時間管理が可能だ。必要であれば、定期的(20分ごと)にPC画面のスクリーンショットを取り、証跡も取れる。

図5 青が本人による申告時間、緑がシステムで収集した就業時間の実態(資料提供:キヤノンITソリューションズ) 図5 青が本人による申告時間、緑がシステムで収集した就業時間の実態(資料提供:キヤノンITソリューションズ)

「いつ、誰がどれだけのタスクを」を見える化

 前半でも説明したように、テレワークを制度化してもなかなか浸透しない原因として「社内で業務する従業員との不公平感」「テレワークでも社内業務と同様にちゃんと評価されるのか」「社内の従業員からどう見られているのか不安」といった要因がある。そういった不安を取り除くために、テレワークサポーターには「いつ、どれくらいのタスクをどれだけ行ったか」を可視化するタスク管理機能を備える。

図6 メンバーごとの業務状況やタスクの進捗状況を画面で確認可能(資料提供:キヤノンITソリューションズ) 図6 メンバーごとの業務状況やタスクの進捗状況を画面で確認可能(資料提供:キヤノンITソリューションズ)

 メンバーごとに、日ごとのタスクや作業の難易度、実績やそれに費やした作業時間を集計できる。こうして勤務実績を可視化することで、テレワーカーに任せる業務量の判断や、従業員にとっては人事評価時に成果を証明する材料にもなる。


 こうしたツールを活用することで、社内規定の変更も最小限に抑えられる可能性もある。テレワークの制度づくりに苦戦する企業は、本稿で解説した視点も含めて「自社には何が必要で、どこまで対応するべきか」をあらためて考えてほしい。

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