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「少量・多種」対応で地域のロボット化をリード――“最古の銀行”第四銀行が切り開くRPA 最前線

» 2019年06月26日 10時00分 公開
[相馬大輔RPA BANK]

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RPA BANK

RPA BANKでは、RPAにいち早く取り組み、着実な成果を産み出している地方銀行として、新潟県を地盤とする株式会社第四銀行の事例を紹介してきた。(地域金融の構造改革を支えるロボット――第四銀行のRPA(前編)/「R」「P」「A」に隠された“3原則”――第四銀行のRPA(後編)

2017年にトライアル導入したロボットの量産体制に手応えを感じさせた取材から約1年。現在同行は、内製したロボットによる業務効率化を軌道に乗せ、さらにそこで得た知見とともに、同行の完全親会社である第四北越フィナンシャルグループが2019年4月に設立した地域商社「株式会社 ブリッジにいがた」における業務効率化支援事業に参画。「地元へのRPAの普及」という新たな領域を開拓し始めている。

本稿では、導入から1余年でほぼすべての部にRPAが展開されている同行の最新状況と、進化を遂げたロボット運用の仕組み、そして先進的なノウハウを地域に還元するビジョンについて紹介する。

株式会社第四銀行 執行役員 事務統括部長 小林俊之氏

■記事内目次

<目次>

1. 「専心」から「創意工夫」へのモードチェンジ。1年余でほぼ全ての部にRPAを導入

2. 「3層構造」の管理でロボットをスピード開発。人と協調する「4層目」も計画

3. 見えてきた「少量・多種」の業務効率化。地域にノウハウの還元を図る


「専心」から「創意工夫」へのモードチェンジ。1年余でほぼ全ての部にRPAを導入

1873(明治6)年設立の新潟第四国立銀行を前身とし、“現存する国内最古の銀行”と称される第四銀行。2018年10月には県内の同業である北越銀行との経営統合で「第四北越フィナンシャルグループ」を設立し、同グループなどの出資で2019年4月に立ち上げた地域商社「ブリッジにいがた」では、事業の1つとして「生産性向上への支援」を掲げ、地元産業界へのRPAの普及に着手している。

自行内の取り組みでは、本部に属する15部のうち、接遇が主体の秘書室などを除く13部への展開を2017年12月の本格導入から1年内に完了。テスト段階から2年近くが経過した現在までの累計で、ロボットが創出したリソースは労働時間換算で約2万1,000時間相当に達しており、さらに2019年年度末までに2万9,000時間を目標としている。

行内業務のロボット化は、RPAの導入推進担当である「業務革新室」のメンバーがたびたび現場を訪れる「行内営業」スタイルで、業務内容をヒアリングする中から候補を拾い上げてきた。同室を束ねる執行役員の小林俊之氏(事務統括部長)は、RPAに取り組む意義をこう説明する。

「どれほど優れたツールであろうと、万能の解決策にはなりえません。RPAの推進も、決して導入ありきで進めているのではなく、また『手作業の定型業務を置き換える』という直接的な効果と同じくらい『身近な仕事の進め方を前向きに見直すきっかけ』としての意義が大きいと考えています」

組織の生産性を高める上で、業務改革は避けて通れない道だ。とはいえ、それまで誠実に処理してきた作業の非効率性を洗い出されるのは、誰にとっても楽しいことではない。改善された新しいやり方にキャッチアップするのも、できれば避けたいのが人情だ。

だが、ここで「非効率な作業の洗い出し」といったレッテルを貼るのではなく「作業を肩代わりしてくれるロボットの使い道探し」という形を採れば、イメージは一変する。RPAを前面に出すことで、課題が明らかな業務だけでなく、さしあたり支障なく回る業務にも踏み込んだ検証ができることは時に、実際のロボット化以上のメリットをもたらすようだ。

同部副部長の深海憲一氏によると、RPA推進担当のメンバーは現場でのヒアリングにあたって「ロボット化が有効と思われるポイントにとどまらず、その前後を含む一連の業務を検証するようにしている」という。結果、ロボットによらない形での工程の改善や、業務自体の廃止に至ることも少なくない。「きっかけ」としてRPAの意義が大きいゆえんだ。

株式会社第四銀行 事務統括部 業務革新室 副部長 深海憲一氏

現場での豊富なヒアリング経験を持つ同室の本間豊氏(上席調査役)は「所定の作業に長く専念していると、どうしても目の前の仕事に“耽溺(たんでき)”しがちです。習慣や先入観から離れ、判断を要しない定型的な作業を切り出し、ロボットで構成可能な作業とすり合わせていくなかで、普段よりも広い視点から業務を見直す『創意工夫』の機運が行内に出てきました」と手応えを語る。

株式会社第四銀行 事務統括部 業務革新室 上席調査役 本間豊氏

「3層構造」の管理でロボットをスピード開発。人と協調する「4層目」も計画

派生的な効果への評価が高いとはいえ、本筋である実際のロボット化も着実に進んでいるのは言うまでもない。

これまでに人間からロボットへ置き換えられたのは、銀行の営業店事務を担う事務集中部署で契約申込者の情報を照会する作業や、投資性金融商品の販売状況をモニタリングする本部業務で基礎データを取得する作業などだ。導入のスピードも、本格稼働開始から8カ月時点で34業務・130ロボットだったのが、同1年半では92業務・485ロボットと加速している。

同行はRPAを主体的に活用するため、ロボットの作成・運用を自前のリソースで完結させるとの方針を当初から明確に持っていた。その上で「経営陣からの理解、関連会社からの支援を得て、専任者による運用体制を固められたからこそ、ここまでの展開が可能になりました」と小林氏は分析する。

RPAのPoC(概念実証)とテスト導入の段階では、採用されたツール「BizRobo!」を提供するRPAテクノロジーズ株式会社が技術面を支援。第四銀行の関連会社である第四コンピューターサービス株式会社から同行に常駐するRPA開発運用担当者へ一定のスキルが移転したことを確認した上で本格導入に移行している。

ハイペースでロボット化が進んだ背景には「専任スタッフの技術向上」のほか、「メリットを実感した現場からの増設希望」、そして「新規開発に流用できる開発成果の増加」があった。

  • 専任スタッフの技術向上 (ロボットクリエイターの内製化)
  • メリットを実感した現場からの増設希望 (従業員のマインドセットの変化)
  • 新規開発に流用できる開発効果の増加 (経営効果との結びつき)

ここで見逃せないのは、開発成果の流用に大きな役割を果たしている、特徴的な「3層構造」のロボット管理体制だ。

これは、対象業務ごとにゼロからロボットを実装するのではなく、(1)汎用的な共通部品(スニペット)と、(2)「データダウンロード」「フォルダへの保存」といった単機能のロボット(子ロボット)を組み合わせて実装するコンセプト。スニペットと子ロボットを、(3)さらに別のロボット(親ロボット)が順次呼び出して一連の作業を実行する仕組みだ。

  • 汎用的な共通部品ロボット (スニペット)
  • 「データダウンロード」「フォルダへの保存」といった単機能のロボット (子ロボット)
  • スニペットと子ロボットを呼び出し、一連の作業を実行するロボット (親ロボット)

業務フローを極力細分化し、それぞれに対応した子ロボットを準備していけば、いずれ大抵の業務は出来合いの子ロボットを組み合わせて調整するだけでロボット化できるようになる。自社運用に充てる人員を大きく増やすことなく、導入規模の拡大を加速させている秘密は、ここにある。

業務革新室審議役の宮路拓也氏は「将来的には『親ロボ層』の上にBPM(ビジネス・プロセス・マネジメント)のツールを導入して『4層目』を設けることも検討しています」と明かす。実現すれば、ロボットと人間が分担して処理する業務全体を一体的に進捗管理できる見通しだ。

株式会社第四銀行 事務統括部 業務革新室 審議役 宮路拓也氏

見えてきた「少量・多種」の業務効率化。地域にノウハウの還元を図る

第四銀行が今回導入したBizRobo!は、大規模運用時の集中管理に長けた「サーバー型ツール」に分類され、メガバンクや大手生保など金融業界に初期からのユーザーが多い。国内金融業界での確かな実績は、同行が導入を決めた大きな理由の1つでもある。

ただ一方、地方銀行として地域経済を支える機能を担う同行は「メガバンクなどと比較すると、相対的に『少量・多種』の事務作業が多い」(宮路氏)。大都市圏の巨大企業と異なり、単発のロボット化では劇的な生産性向上を見込みづらい環境下、ロボットの開発運用そのものを効率化し、トータルで導入コストを上回る効果を出せるかが、自行、そして地元産業界にRPAを普及させる上での大きなポイントだった。

この点で同行は、ムダのない「3層構造」での運用を確立。さらに集中管理の強みを生かし、RPAの開発拠点である本店から数km離れた事務センターでもロボットを稼働させ、今後も導入拠点を増やしていく計画だ。活用可能な拠点を増やせれば、それだけロボットの導入規模も拡大しやすくなる。

行内のロボット開発・運用を支えるロボットクリエイターチームメンバー(左から)第四コンピューターサービス株式会社 笹川 瞳 氏、伊東 麻希子 氏、小池 裕子 氏

行内ではそのほか、既存業務の代替だけにとどまらず「従来であれば人海戦術で対処していた、想定外の突発的な作業に投入する」「手間がかかり過ぎるため見送っていた作業を任せる」など、ロボットを活用した新規業務の開拓も進んでいる。

「今ある仕事」の効率化に加えて、「新たな仕事」そして「新たなビジネス領域」をも創造しうるという実例は、生産性の向上に向けてRPAの導入を試みる企業の“背中を押す”トピックと言えるだろう。

ブリッジにいがたには「ロボット化に関心を持った地元企業から、既に具体的な問い合わせが複数寄せられている」(小林氏)という。これまでにない地域商社という枠組みから、“新潟発”のロボット化のムーブメントが巻き起こる日も近そうだ。

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