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業務部門主導で実現する業務改善(定量)と意識改革(定性)__新たな組織風土が芽生えるGMOクリック証券のRPA導入 デジタライゼーションが進める働き方改革

» 2019年07月18日 10時00分 公開
[相馬大輔RPA BANK]

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RPA BANK

グループ会社110社。インターネットインフラ事業、インターネット広告・メディア事業、インターネット金融事業、仮想通貨事業等を手掛ける日本最大規模の総合インターネットグループが、「GMOインターネットグループ」だ。

同グループのGMOフィナンシャルホールディングス株式会社の連結会社で、金融商品取引業を営むのがGMOクリック証券株式会社である。

同社では2006年よりインターネット金融サービス事業を展開しているが、そこで重視しているのが、システムの開発・保守・運用を内製化することである。同社はシステムの内製化を武器に開発コストを低減し、顧客ニーズ・マーケットの変化にスピーディに対応することで、キービジネスであるFXにおいては7年連続で取引高世界No.1(※Finance Magnates調べ)を獲得するまでに成長してきた。

こうした内製化のマインドを持つ同社では、業務オペレーション上の課題を業務部門自らが自分たちの手で対処することで、業務改善そのものを効率化することを目指し、2017年初頭より業務改革を旗印にRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)の活用を進めてきたという。

業務部門が自発的に定例オペレーションの自動化(ロボット化)を進め、改善を繰り返していく組織文化が醸成されつつあるという同社は、どのような歩みでRPAの導入を進めていったのだろうか。その取り組みについて、話を聞いた。

■記事内目次

目次

1. RPAが、時間や場所に拘束によって分断されるデータを繋ぐ切り札に

2. 業務部門主導ならではの“気付き”が、効果的なRPA活用に繋がる

3. 定量と定性の両方で改善していく組織風土の形成が目標


RPAが時間や場所に拘束によって分断されるデータを繋ぐ切り札に

──業務効率の改善に向けた社内の取り組みの中で、RPAを導入することとなった経緯をお聞かせください。

古澤:そもそも当社では2016年10月より、既存の業務の効率化・高度化を図る部署横断的な業務改革プロジェクトがスタートしていました。そのプロジェクトでは、各部署へのヒアリングなどを行い、業務のどこに負荷がかかっているかを見つけ、BPR的にフロー改善を行うアプローチを採用していました。

その改善の過程において、フローを改善し一部作業をシステム化するなどしても、依然として多くの業務に特定の時間帯に特定の端末・ウェブサイト上で行うべきオペレーションが残り、時間や場所への拘束が軽減されない、という課題に直面しました。

当社では、バックオフィス業務において帳票作成や税金の計算などで社内ネットワークから分離した特定のポータルサイトに接続して行う業務も多く、同じ顧客の情報であっても、他のシステムとの情報連携が難しいために、改めて手作業で登録をするなどの業務が発生していました。

ちょうどその課題を解決するアプローチを模索していた折に知ったのが、端末業務の自動化をノンプログラミングで行えるというRPAの存在だったのです。

ぜひ業務部門主導でのRPA活用にチャレンジしたいと思い、さっそく経営陣へ必要性を説明したところ、すぐに理解を得ることができ、当社におけるRPAの導入が決定しました。

(右から)GMOクリック証券株式会社 事業推進部 古澤和也氏、GMOフィナンシャルホールディングス株式会社 システム統括部近藤祥子氏

──RPAツールを選定するにあたって、どのような点を重視されましたか。

古澤:大きな観点として重視したのは、“アカウント管理”と“エンドユーザーによるロボット作成およびメンテナンス”という2つの容易性でした。

その理由としては、我々が目指す業務部門(ユーザー自身)での自発的な改善活動に繋げていくためには、RPAツール自体にも、ユーザーフレンドリーさと管理する側の負担軽減の両立が欠かせないと考えたからです。

この2つの観点から、2016年末頃にいくつかのRPA製品の比較検討を実施しました。その結果、ユーザー実績の豊富さや、管理しやすいサーバー型であることなどに大きな魅力を感じて導入を決定したのが、BizRobo! でした。

近藤:実際にロボットを開発する立場として最初にデモを見たとき、あまりの馴染みやすさに『こんな簡単に(ロボットを)作れるんだ!』と驚きましたね。

──BizRobo! の導入はどのように進められましたか。

古澤:導入に当たっては、まず社長を含めた役員向けの説明として、具体的にターゲットとしている業務を挙げて、コストに見合うこと、それに止まらずに組織風土としての定性的な価値などを強調しました。

社内説明用のスライド。具体的な対象業務や改善時間が例示されている
具体的な業務のフロー図を元に、自動化対象となる作業例が解説されている

その後、利用部門間の調整では、社内説明のため各部室長に担当者をアサインしてもらい、実際にロボットが動いているところ(デモ)を見てもらいました。

デモは社内説明用に自作し、普段の業務で利用している画面や、検証環境下での自動化を見てもらうことで、自分たちでより良くできる業務については自分たちで積極的に改善に取り組んでいこうと提案しました。

これは、実際に業務を行っている社員の目でロボットに代替できる(してほしい)業務を考えることで、より具体化しやすくなるのではないかと期待してのことです。このとき作成したデモのいくつかは、実例にも繋がりました。

業務部門主導ならではの“気付き”が、効果的なRPA活用に繋がる

──トライアルを含めると既に2年ほどRPAを活用しているとのことですが、どのような業務をRPA化の対象としているのでしょうか。

古澤:ロボット化する業務領域は、財務、人事総務、情報システム、コンプライアンス、証券業務、事業推進など多岐にわたります。

ひとつ例を挙げると、人事総務での勤怠アラートです。過剰な長時間勤務が発生しないよう、基準値を超えた際にはメールでアラートを行うという業務なのですが、これまでは人事総務担当者が勤務時間を手計算し、対象者にメールを送付するという作業が発生していました。

この業務をロボット化することにより、勤務時間計算がリアルタイムで自動的に行われるようになり、担当者の業務負荷も軽減することができると同時に、アラートも月に一度ではなくリアルタイムに通知されるようになりました。

また、本業である証券業務に関しても、口座開設審査や貸株業務などの一部を既にロボットが担っています。

──目標である、業務部門主導のRPA活用についてはいかがですか。

古澤:かなり定着していると見ています。サポートに関しても、BizRobo! での開発上で生じた疑問点などは社内のグループチャットに投稿してもらうようにしているのですが、社内での普及が進むにつれて我々推進メンバー以外から問題等の解消手段が提供されるケースも見受けられるようになりました。開発にあたってのナレッジも蓄積されてきており、質問せずとも自己解決できる体制も整いつつあります。

ロボット開発の技術の定着に止まらず、業務部門間での横のつながりが強くなってきたというのは、とても嬉しいですね。

さらに、それぞれの業務部門のオフィス内でも「これはロボットにやってもらった方がいいのではないか」といった建設的な提案がなされる場面が増えています。ここで改めて実感しているのが、このような業務部門ならではの“気付き”の重要性です。

業務部門が主導だからこそ、細かな改善点にも気付きやすいのは大きなメリットです。

現場にとってもRPAは初めて触れるツールであったにも関わらず、業務の合間に自発的に触れながら自動化に取り組んでくれているので、効果的な活用が広がりつつあります。

とりわけ証券業務については、我々が特にサポートしなくても自分たちでロボットの作成からリリースまでの手順を踏むまでに至っており、完全に現場に定着したと言っていいでしょう。

近藤:実際に、業務部門に開発者としての当事者意識が芽生えているのを感じます。これまでは、システムに不具合があったり止まったりすれば情報システム部門側で解決するという状態でしたが、RPAに関して業務部門は利用者であるとともに作り手でもあるので、その都度自分たちで改善していこうという姿勢が根付いてきていますね。

定量と定性の両方で改善していく組織風土の形成が目標

──今後はRPAをどのように展開していく予定でしょうか。

古澤:社内で定型的な端末業務は数多くありますので、全社的にRPAの価値を感じてもらえるよう取り組みを引き続き推進していく構えです。直近の取り組みとしては、社内ネットワークから完全に分離された専用端末で行う業務をRPAで効率化していこうと進めているところです。

このように定量的な改善効果と定性的な改善効果の双方を生みだせるような組織風土を醸成することを心がけています。

さらに、当社だけでなくGMOグループ内外でもRPAを利活用している企業が増えていますので、BizRobo! のユーザー会で我々の取り組みについてお話しさせていただく機会も多くなりました。

当社としても、今後も他の企業と積極的に情報交換しながら利活用を進めていきたいと考えています。

我々が目指しているのは、会社をさらに発展させていくことであり、そのためのより良い方法を模索し続けていかねばなりません。

そのためにも、業務を効率化して時間に余裕が生まれたところでRPA活用は終わりというのではなく、新たに創出できた時間をいかに個々人の成長に繋げていくのか、そこまでを追求していきたいと考えています。

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