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RPAの導入効果を高めるために 「取りあえず人気ツールを導入してみよう」がミスのはじまり

RPAの導入効果を得るためには、最低でも4つのポイントを押さえなければいけません。今回は、その内「RPAの導入目的を明確にする」「目的に応じたツールを選ぶ」の2点について専門家が説明します。「取りあえず人気のツールを入れてみよう」と考える企業は、逆に成功から遠ざかっている――?

» 2019年07月19日 08時00分 公開
[秋葉尊オデッセイ]

 前回は、急速に普及するRPAの「導入前の期待と導入後の現実」について整理をした。導入後いまひとつ効果が得られていないと感じているユーザー向けに、導入時の状況を振り返るための「7つのチェックポイント」も用意した。これによって、なぜ導入前に抱いていた期待と現実にギャップがあるのか見えてくるだろう。まだご覧になっていない方は、一度チェックされてはいかがだろうか。

 今回はRPAの導入効果を高める4つのポイントについてご紹介する。何事でも成果を出すためには、守らねばならない条件やルールがある。RPAについても同様だ。

<ポイント1>RPA導入の目的を明確にする

 RPAは人間が行う定型的な業務を代行する非常に魅力的なソリューションである。従って、ついつい導入を急ぎがちだ。ただ、効果を期待して急いで導入しても「遠回り」になりかねない。まずは、RPA導入の目的をどこに置くのかを明確にすることが肝要だ。特にRPA化するレベルについては、はっきり決めておく必要がある。導入の目的をパターン化すれば大きく次の3つになる。

(1)「従業員個人レベルの業務効率化」を優先するパターン

 RPA化の対象が個人の業務になるので、個々の従業員がPCで行っている業務をタスク単位でRPA化し、効率化する。対象タスクについては個人レベルのタスクから洗い出すことになるが、日ごろ手間が掛かっているタスクから選別すれば、比較的容易に決めることが可能だ。このパターンの導入効果はRPA化の対象となる人数とタスク数に比例して増大する。RPAを簡易的に導入してその効果をまずは検証したいユーザー向けのパターンである。

(2)「特定の部門レベルや特定の業務レベルの効率化」を実現するパターン

 これは多くのユーザーが掲げる一般的なパターンだ。部門であれば「経理部門」、業務であれば「申請関連業務」のようにまずは導入対象を絞ってRPAを導入するパターンを指す。RPA化の対象タスクを洗い出す際は、該当部門における対象業務について業務の流れを整理し、そのフローの中でもどのタスク(作業)をRPA化すると効果が高いのかを検証することが重要だ。この場合、最終的にタスクレベルではなく業務プロセスレベルでのRPA化が実現できるため、導入効果も大きい。また各業務を見直すきっかけにもなるので、業務改善や改革にもつなげられる。本格的にRPAの導入を検討している企業の初回アプローチとしては適切なパターンだ。

(3)「全社レベルでの業務の効率化」という理想を目指すパターン

 これはパターン2の「全社展開版」で、部門をまたがった全社の業務がRPA化の対象範囲となるため、業務プロセスや対象タスクの洗い出しを全社レベルで行う必要がある。導入前の準備にそれなりの負荷がかかることについてはあらかじめ覚悟が必要だ。ただし、導入が成功した際には、絶大な導入効果を見込める。企業規模にもよるが、全社を統括するリーダーシップや推進力のある人材を擁する企業であればこのレベルからのスタートも不可能ではない。

 導入目的のパターンを3つ紹介したが、当然ながらこれらを段階的に実現するということでも良い。その場合は、各レベルを段階的にクリアする時期を具体的に決めておいた方がよいだろう。また、それぞれのケースでどの程度の導入効果を見込むのかの想定も必要だ。このように導入目的を明確に決めることで、導入方法が決まり、導入にふさわしいツールも絞れる。

<ポイント2>RPAツールの選定

 現在、数多くのRPAのツールが市場に出回っている。特に2017年以降は外資系のRPAベンダーも日本法人を設立し積極的に日本市場に参入してきたため、加速度的にRPAツールが増えた印象だ。この数多くのツールの中で自社のためにどのツールを選ぶのか?――これは非常に重要な選択である。ポイント1で導入の目的によってふさわしいRPAツールが絞られると述べたがその点を詳しく説明したい。既存のRPAツールは大きく2種類のタイプに分類できる。

(タイプ1)デスクトップタイプのRPAツール

 1つ目は、従業員の作業用PCにインストールして利用するデスクトップタイプのRPAツールだ。PCで人間が行っていた定型業務を対象に、人間がロボットを起動させることによってその作業を自動化する。RPA化の対象はあくまでもPC内の業務に限定されるため、個人業務の効率化において効果を発揮する。デスクトップタイプのため、ツールの価格も比較的安価に設定されているので、まずはRPAのトライアル導入を行いたいユーザーにはうってつけだ。デスクトップを対象にした自動化ツールということで、RDA(Robotic Desktop Automation)ツールと呼ばれる場合もある。前項で紹介した導入目的パターンの「従業員個人レベルの業務効率化」を優先するパターンの実現を目指すのであればこのツールが最適だろう。

(タイプ2)サーバ型のRPAツール

 2つ目は、サーバ型のRPAツールだ。これは、RPAツールをサーバにインストールし、必要に応じ業務で使用するクライアントPCでロボットを稼働させて使用する。業務プロセスに沿って必要なロボットを自動的に起動し、業務を代行させる仕組みになっている。また、RPA化の対象が個人単位ではなく組織単位の業務になるため、利用するロボット数も多くなってくる。従って、サーバ型のRPAツールには社内で作成したロボットをサーバで一元管理できる機能も搭載されていることが多い。稼働していないロボットや異常な動きをしているロボットなどを監視するためだ。対象業務や組織が広くなるにつれて、ロボットを管理する工数も増大するため、このような管理機能を活用して管理業務の精度向上と効率化を図ることも重要になってくる。このツールについては業務プロセスを自動化するため、文字通りRPA(Robotic Process Automation)ツールと言えるだろう。

 さきほどの導入パターンで言えば、「特定の部門レベルや特定の業務レベルの効率化」を実現するパターン、「全社レベルでの業務の効率化」という理想を目指すパターンで利用するのがふさわしい。いずれも組織や企業レベルで業務プロセスを自動化することを目的としているので、サーバ型のツールの方が効果を発揮しやすいはずだ。

 今回は「RPAの導入効果を向上させる4つのポイント」のうち、2つのポイントを紹介した。残りは次回で解説するので楽しみにしておいて頂きたい。

著者プロフィール:秋葉 尊(あきばたける)

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株式会社オデッセイ 代表取締役社長


大学卒業後、NECに入社。20年にわたり中堅企業や大企業に対するソリューション営業やマーケティングを担当。2003年5月にオデッセイ入社、代表取締役副社長に就任。2011年4月、代表取締役社長に就任。

ATD(Association for Talent Development)タレントマネジメント委員会メンバー、HRテクノロジーコンソーシアム会員、日本RPA協会会員を務める。

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