ServiceNowがいよいよ非IT部門を含む日本企業の業務改革全般に本腰を入れる。ITサービスマネジメントで培った標準化と運用のノウハウを、人事やマーケティングその他、全社ワークフローの標準化に適用すべく、エコシステムを拡大する。
SaaS型のワークフローツールを提供する「ServiceNow」の日本法人、ServiceNow Japanが国内の販売体制を強化する。新たに「ISVプログラム」および「サービスプロバイダープログラム」を開始する他、東京と大阪にデータセンターも開設、国内でDR(災害復旧)対策を完結できる環境も整えた。データセンターはソリューションパートナーでもあるNTTコミュニケーションズの施設を利用する。国内データセンターからのサービス提供については2018年10月に予告していたもの。
ISV向けのプログラムは、マーケットプレースにインテグレーションプログラムを置く「ストアモデル」とServiceNowの「Now Platform」をOEMで提供する「OEMモデル」を用意する。ストアモデルについては、国外ではサービスを提供してきたが、改めて日本向けの決済などの仕組みが整備された形だ。サービスプロバイダープログラムはマルチテナントでServiceNow Platformを提供する。中堅規模のプロバイダーでもコストを抑えてサービス提供できるようにする狙いだ。
ServiceNowはSaaS型のワークフロー自動化ツールを提供するサービスプロバイダーだ。当初、ITサービスマネジメントツールとしてIT部門の業務改革での適用事例が多かったが、ここ数年はIT部門の業務に限らず、定型業務全般のワークフロー管理効率化や統合管理での適用事例も増えつつある。ITに限らず、企業内の業務に関わる全てのサービスを管理する。
「当初、ServiceNowはITサービスマネジメントツールのSaaS版と見られがちだった。だが、直近は製品への理解が進み、ITサービスマネジメントツールというよりも、企業の既存のワークフローを改革するDX(デジタル変革)プロジェクトの中で使っていこうと考える企業が増えてきた」(ServiceNow Japan社長 村瀬将思氏)
ServiceNowのサービスの核となるのが「Now Platform」だ。ITワークフローの他、従業員ワークフロー、カスタマーワークフローから構成される。
「定型業務を効率化する」という意味ではRPA(Robotic Process Automation)やRPAの統合運用環境などを想起するが、それとは何が違うのだろうか?
RPAが個別の業務効率化を担うツールだとすれば、その管理を統合運用管理ツールが担う。他方のServiceNowは、RPAを含む業務全体の作業プロセスを標準化し、ITIL(Information Technology Infrastructure Library)準拠のマネジメントプロセスに乗せて包括的に管理するツールと考えると分かりやすいだろう。いずれも何らかのイベントをきっかけに必要な人員をアサインしたり、優先度を把握したり、設計したフローに即して次のアクションを促したりといった作業を定められた方法で実行するのに役立つ。部門や組織を超えてサービス提供フローを整備し、タスクを整理、業務を平準化する際に効果を発揮する。既にITサービスマネジメントの領域ではRPAや運用管理ツールと組み合わせたソリューションが多数開発されている。
直近では、公的機関などの規制が厳しい業界の要件に対応する目的でMicrosoftとパートナーシップを締結、Microsoft AzureからもNow Platformを提供できるようになった。また、アドビシステムズとは顧客体験管理(CXM)分野でパートナーシップを結び、Adobe Experience Cloudとカスタマーサービスマネジメント(CSM)を含むNow Platformを連携する。なお、アドビシステムズ自身もMicrosoftやその傘下のLinkedInなどとも協業する関係にある。
ServiceNowはグローバルで既に6000社が利用しており、「Fortune 500」に含まれる企業の75%が採用するという(ServiceNowのファクトシート(PDF)より)。
今回の日本市場向けの取り組みについてServiceNow Japanの村瀬氏は「日本ではISVを介した販売が主流。成功事例が広まれば一気に展開するだろうと予想している」とコメント。ITサービスマネジメントの領域では既に複数の国内主要SI企業がServiceNowを取り扱っていることから、今後の市場拡大に期待を寄せる。
当日はISVプログラムに参加するのはウイングアーク1st、ロココ、システムサポートの3社だ。3社とも2019年10月に開催を予定するServiceNowのイベント「Now at Work Tokyo」で詳細を発表する計画だ。
ウイングアーク1stは「SVF Cloud for ServiceNow」を提供する計画だ。SVF Cloudはウイングアーク1stの帳票基盤クラウドサービス。アプリケーションごとに分散しがちな帳票システムを統合できる。この仕組みをServiceNow向けに提供することで、さまざまな帳票出力を効率化するという。ウイングアーク1stは大手を中心にシェア持っておりServiceNowのSIパートナーと共通することが多く、SIパートナーは双方のソリューションを取り扱えることから相性はよい。今後は既存の帳票資産もそのまま利用できる環境を用意する計画だ。
ロココは、情報システム業務のアウトソーシングとBPO、生体認証を使ったチケットソリューション、HRソリューションを主力事業とする企業だ。このうちHRソリューションは「10万人以上の従業員に利用されるソリューション。これをSericeNowに乗せていく」(ロココ 長谷川 正人氏)とする。
ロココはServiceNowの人事業務自動化ソリューションである「ServiceNow HR Service Delivery」(HRSD)を基に、2019年9月をめどに「人事申請ワークフローパッケージ」をリリースする予定だ。「自社でHRSDを利用する中で日本企業のニーズを満たす機能が必要だという考えに至った。今後は『目標管理システム』『研修管理システム』『タレントマネジメントシステム』などの人事管理ソリューションや、勤怠管理などのソリューションもServiceNow Platformで提供する計画だ。人事部門のDX推進を強化する」(長谷川氏)
システムサポート(STS)は「業務効率を向上させるコンポーネントアプリケーション」をServiceNowストアアプリとして提供する計画だ。自社にServiceNow技術者を50人以上を擁する。業務効率を向上させる、ニーズの多い機能コンポーネントをストア経由で提供し、生産性向上に寄与したいとしている。第一弾として、コンプライアンス、セキュリティ、監査対策を効率化する目的でシステムログの集約と管理に移用できるコンポーネントを提供する計画だ。大企業が対象となる。
今回、ISVプログラムの早期参加企業はいずれもストアモデルだが、今後はOEMモデルのパートナーも拡大する計画だ。OEMの事例としては、医療現場における音声認識による患者ケアサービス「デロイトアシスト」などの海外事例が紹介された。これは、ナースコールを高度化するものといえる。スマートスピーカーを患者ベッドに配置し、それと連携させた自然言語処理を使って、音声解析とデジタルデータ変換を行う。ナースコールで看護師を呼んで用件を伝えてから対処に取り掛かるのではなく、スマートスピーカー経由で用件までを伝え、それをSercviceNowで整理し、対応する看護師を割り当てる。対応までのプロセスを短縮するため、平均して10分ほどかかっていた看護師の対応時間が2分に短縮できたという。
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