2021年9月13日、RPA BANK はキーマンズネットに移管いたしました。
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日本における基幹産業のひとつ、自動車産業。その生産現場では、生産性向上を目的としたファクトリーオートメーションへの取り組みがいち早く進んだ。また、現場主導で効率化や安全対策を行う活動「カイゼン」は世界でも高く評価され、「Kaizen」は世界中の製造業における公用語となっている。
しかし、徹底的なKaizenに取り組んできた日本の生産現場でも、生産管理などの領域では業務改善の余地が残されているという。
自動車に欠かせないクラッチディスクで世界トップシェアを誇る株式会社ダイナックスは、厳しい競争を勝ち抜くための効率化を主目的に、2017年から北海道の本社や工場においてRPAの導入に着手。生産管理部門を中心に年間約3,000時間の工数削減を実現し、さらなる効果を見込んでいる。
同社におけるRPA導入の経緯や取り組みについて、RPA活用を推進する専任担当者の2人に聞いた。
−ダイナックスについて、どのような企業か教えてください。また、どのような背景からRPAを導入することになったのでしょうか。
澁谷匠氏(管理本部 情報システム部 IoT推進チーム 主幹): 北海道に本社を置き、自動車のトランスミッション内に組み付けられるクラッチディスクを主力製品とする会社です。
自動車産業は、電気自動車へのシフトや自動運転技術の発達など、技術やビジネスモデルが根底から変わろうとする「100年に一度の大変革期」といわれています。私たちも新しい価値を届けられるように研究開発を進めていますが、同時にさらなる生産性向上に取り組み、競争力を高めなければ生き残れないという強い危機感を持っています。
そこで2017年、デジタル技術を活用したIoT(Internet of Things)によって生産性を高めるために、IoT推進チームが発足しました。工場の生産設備だけでなく、生産にまつわる周辺の業務や間接部門においても生産性を上げる方法がないのかと模索していたところ、RPAの存在を知り、取り入れることになりました。
−製造業のなかでも特に自動車産業は、効率化の取り組みが進んでいる印象があります。
澁谷: 効率化は全社的な取り組みであり、バックオフィスも当然対象になります。加えて、ダイナックスでは工場の生産現場以外にも効率化の余地が残されていました。
工場というと機械のイメージを持たれるかもしれませんが、例えば、取引先からの注文を受けて生産計画に落とし込んだり、予定通りに生産できているか進捗管理したりと、人間がパソコンで行う仕事も多いのです。RPAを導入することによって、大幅な効率化が見込まれる状況でした。
−ここまでのお話を聞く限りでは、トップダウンでの意思があったのではと推察しますが、実際はどうでしたか?
澁谷: RPAに取り組もうという声は、実はIoT推進チームからボトムアップで上がったものでした。会社の行動指針に「働きがいを生むチャレンジ精神」を掲げている社風で、RPAを役員に提案すると「やってみよう」という前向きな反応があり、取り組みがスタートすることになりました。
−具体的に、どのような業務で実績が上がっていますか。
藤澤佑太氏(管理本部 情報システム部 IoT推進チーム): 2019年5月末時点では40シナリオでロボットが活躍し、2019年上期では3,800時間の工数を削減できる見込みです。具体的に生産管理部門の事例を2つご紹介します。
1つ目は、受注データを社内の基幹システムに登録する業務です。取引先からの注文情報は、基本的には紙ではなくEDI(Electronic Data Interchange)と呼ばれる方式の電子データで受け取るのですが、弊社の生産管理システムに自動登録されるわけではありません。取引先ごとに異なるWebシステムにアクセスし、ファイルをダウンロードして、担当者の手で規定のフォルダに移す必要があります。
手間がかかるだけでなく、もし取得漏れがあれば、最悪の場合、生産が行われません。多大な迷惑をかけることになるため、ミスが許されない業務です。削減時間は少ないのですが、担当者がプレッシャーから解放されたという心理的な効果で意義のある事例です。
−2つ目は、どのようなケースでしょうか。
藤澤: 生産進捗を確認するための実績取得もロボットで自動化しています。生産管理においては、生産実績の確認が重要です。システム上のデータをそのまま出力したのでは見づらいため、担当者が見やすい形式に整理しています。システムからデータを取り出して成形する一連の作業を自動化した結果、年間で200時間ほど削減することができました。
これらのデータ抽出と加工は、毎朝出社したら必ず行う機械的な作業でしたが、RPAを導入することによって、出社したらすでに完了している状態になりました。朝一番に自分が処理しなければ関係者に迷惑をかけるというプレッシャーがなくなったのと同時に、一日の始まりを「作業」ではなく本来行うべき「考える仕事」から取りかかれるようになりました。
−こうした実績を挙げるまでの過程を教えてください。まず製品選定においては、どのような点に着目しましたか。
澁谷: 価格や機能を比較して製品選定を進め、価格面と日本語対応が決め手となりWinActorを導入しました。また、製造業ではセンシティブなデータも扱うため、現状ではクラウドを使わない環境にしています。
−推進の仕方については、原則やルールを決めているのでしょうか。
澁谷: 2つの大方針があります。1つは、IoT推進チームがロボットを開発することです。
そしてもう1つは、コンサルを入れず、自分たちでブラッシュアップしていくこと。製品導入時にベンダーから教わった知識をベースに、私たちIoT推進チームの専任者が、課題を解決したり、工夫を重ねたりしています。
−最初から専任者が担当していたのですか。体制づくりについて教えてください。
もともとはIoT推進チームに所属しているメンバーが兼任でRPAも手がけていたのですが、本格的にRPAを導入することになり専任者を置く方針になりました。その際、現場の実態をよく知っている者のほうが適しているだろうということで社内公募があり、ずっと生産管理部門に携わっていた私たちが手を挙げて参画することになりました。
ですので、所属している部署は情報システム部という名前ではありますが、現場主導にも近い、中間のポジションでロボットを作っています。
−お二人が手を挙げたのは、どうしてですか。
澁谷: もっと効率的に仕事を進められないものかと課題を感じていたので、ロボットを活用して自分の手で解決してみたくなったからです。ITの専門知識はなくても業務をよく知っているので、工場のニーズを取り込むために力を発揮できると思いました。現場での苦労を経験しているので、仲間を少しでも楽にできたらという思いもありますね。生産管理の領域から着手した理由の1つでもあります。
−RPAの推進を経験してみて、現場に受け入れてもらうためのコツのようなものは見つかりましたか。
澁谷: 相談が寄せられたら、すぐに仕事を見にいくようにし、短期間で開発してRPAの価値を体感してもらうよう心がけています。早い段階でRPAへの正しい期待を持ってもらえれば幅広く検討が進みますし、他の部門にもいい噂が広まっていくからです。
−とはいえ、なにもかもロボットを作って解決するわけにはいかず、優先度や基準が必要だと思うのですが、いかがですか。
藤澤: ロボット化の判断軸としては、「年間10万円以上に相当する工数」であることや、「週に1回以上発生する業務」、「人の判断が不要」などをルールにしています。また、1年以内に業務手順やシステムに大幅な変更が予定されていないかも考慮します。
ただし、シナリオづくりでは、ただルールに当てはめて考えるだけでなく「そもそも、この業務は必要か」をよく吟味することが大切です。当たり前だと考えている業務フローが本当に必要なのか、当事者ではなかなか発想できませんし、忙しくてフローの見直しまでは手が回りません。
私たちは一歩引いた視点で見直すことができる立場なので、RPA適用を契機に、業務フローの見直しや標準化の提案も始めています。
−ここまで取り組んできて、課題だと感じていることはありますか。
藤澤: まだRPAとは何かを全社的に正しく伝えられていません。説明会での紹介だけで裾野を広げることに限界を感じていますし、工場ということもあり、「ロボット」と聞くと多くの人にとっては機械のイメージしかないのが現状です。
そこで現在、食堂のサイネージなどで流すアニメーションを制作しています。実際にRPAが動作している動画や図版を交えながら、概要や社内事例を目に付きやすい場所で紹介することで、私たちに相談したくなる動機につなげられればと考えています。
−今後の展開については、他にどのような構想がありますか。
澁谷: 取り組みが始まった当初に作成したロボットは、知見が貯まった今の目線で見直せばチューニングすべき点が出てきますので、ロボットの品質向上、安定性の向上、メンテナンス性の向上に着手する予定です。
また、ロボット化の対象領域としては、品質管理や製品開発での導入を検討しています。
藤澤: 技術的なステップアップとしては、OCRとの組み合わせで文字を認識し、効率化の対象を広げたいところです。ただし、AI-OCRを利用するにはクラウド型での利用が必須なので、対象業務を慎重に検討する必要があります。
澁谷: また、共通で使える部品ライブラリを整備することで、部品を組み合わせて効率的にロボットを作れるようにしたいですね。製造業であれば、ある程度同じような業務があるはずです。ゆくゆくは同業他社にも連携して役立ててもらえればと考えています。
特に北海道ではRPAがまだまだ認知されていないように感じるので、RPAを広げて北海道の製造業が発展するように貢献したいですね。
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