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RPAが「as a Service」化すると、中小企業にどんなメリットがもたらされるのか?

Automation Anywhereが「RPA as a Service」というコンセプトを掲げ、クラウド環境でもロボットを展開、活用できる新製品を発表した。大企業だけでなく中堅・中小企業における自動化を助けるというが、具体的にどのようなメリットがあるのか。

» 2019年10月09日 08時00分 公開
[溝田萌里キーマンズネット]
Automation Anywhere 飯尾光圀氏

 「内製化が困難なRPAソリューションが市場に出回っている」――RPA(Robotic Process Automation)ベンダーのAutomation Anywhereで副社長 営業統括を務める飯尾光圀氏はこう述べる。

 飯尾氏によれば、グローバルのRPA市場において、大企業のうち73%は既にRPAを導入しているが、その中で50台以上のロボットを本番環境で稼働できている組織はたったの5%だとし「内製化に問題を抱えているケースが多い」。

 こうした課題にアプローチする製品として、同社は2019年10月8日に「Automation Anywhere Enterprise A2019」(以下、Enterprise A2019)の提供を開始。RPAをサービスとして利用する「RPA as a Service」というコンセプトを掲げ、Webベースのプラットフォームとして、オンプレミスだけでなく、パブリッククラウド、プライベートクラウドなど各種の環境で活用できる。開発に際して、3000社の企業が抱えるRPAのニーズを基に約175の新機能も追加した。

 「業界や組織の規模にかかわらず、さまざまな企業で自動化を実行しやすくなった」と飯尾氏。RaaSによって、具体的に何ができるようになるのか。また、無償プランなどは用意されているのか。

「RPA as a Service(RaaS)」モデルは何がメリットか

Automation Anywhere 由井希佳氏

 同社 セールスエンジニア本部 本部長の由井希佳氏はEnterprise A2019について、「完全に業界をリードする革新的な製品」と強調する。

 Enterprise A2019は、「Webベースでクラウドネイティブに設計」しており、オンプレミスのサーバだけでなく、AWSやAzure、GCP、IBMといったクラウドプラットフォームでもRPAを展開し、管理、実行できるようになった。ユーザーが各クラウド事業者と契約し、そこにEnterprise A2019のロボットを展開するIaaS型のサービスの他、Automation Anywhereが展開するSaaS型のサービスも利用可能だ。

 「RaaSモデルでは、数クリックでRPAを展開できるなど、拡張性も向上した。これがTCOの抑制につながる」由井氏は説明する。

 Webベースで設計されていることから、ロボットの開発や運用の利便性も上がった。開発の際は、ローカル環境にRPAのソフトウェアをインストールする必要がなく、Webブラウザから開発環境にログインしてすぐにロボットを構築できる。

 「Windows OSや、Mac OS、Linuxの他、iOSを搭載したモバイル端末を通じて、いつでもどこでも簡単にロボットを開発できます。それだけでなく、各ロボットがどれくらいの効果を出しているのか可視化する『Bot Insight』の機能も、モバイル端末で利用できます」(由井氏)

ロボット作成画面を一新、AI機能の連携も容易に

 Enterprise A2019ではロボット作成画面も一新し、ビジネスユーザーはスキルレベルにかかわらず短時間で簡単にロボットを開発できるよう、また開発者は豊富な機能によって高度なロボットを開発できるようにした。

 「モダンなWebインタフェースに変更し、ユーザーが直感的に操作できるUIを実現しました。ビジネスユーザーを想定して、ドラッグ&ドロップで簡単に自動化のフローを作成できるようにしています。使い方をチュートリアルで示す機能も実装しているので、初心者でも学習しながらロボットを開発できます」(由井氏)

 さらに、ビジネスユーザーにメリットの大きい新機能としてMicrosoft Officeをインストールせずに、Excelファイルに対する自動化を可能にする機能も加わっている。

ビジネスユーザー向けの機能(星印が付いたもの)

 開発者向けには「玄人好みの機能」を用意したという。SDKのフレームワークを使ってロボットを構築できる他、組み込み済みのAI機能だけでなくサードパーティーが提供するAI技術を連携できるようにした。さらに、PythonやVBScriptといったスクリプト言語にも標準で対応し、インラインでの記述を可能にした他、自然言語処理やOffice 365、G Suiteを扱うための多彩なコマンドも用意する。「開発者が自分で必要なコマンドやAIのパッケージを追加することで、より高度なロボットを作成できます」と由井氏は述べる。

 レコーディング機能も進化しており、1つのレコーダーでWebやWindowsアプリケーションなど複数のシステムに対応し、それらを使った作業を記録できるようになった。

開発者向けの機能(星印が付いたもの)

クラウドにRPAを展開するリスクを抑える IT管理者のための機能

 RPAをクラウドに展開することで、特に企業のIT管理者がセキュリティに関する不安を抱く場合もあるだろうとして、セキュリティやプライバシーの仕組みも整備している。

 クラウド環境にはロボットを実行するためのスケジュールデータやメタデータのみを持ち、ユーザーデータはローカル側に存在するロボットの実行環境「Bot Runnner」に格納する。なお同社は、このBot Runnnerについて、「ブラウザのアドオンツールのようなもの」と表現する。その他通信経路の暗号化も実施し、GDPRやSOC2などの規制要件も満たした。

セキュリティに関する仕組み

 IT管理者向けのメリットとしては、開発および実行環境の管理工数が軽減したことも挙がった。前述したように、開発環境に関して、ローカルにソフトウェアをインストールする必要はなく、継続的なメンテナンスも不要だ。実行環境についても、インストーラーのサイズは従来の7分の1で済み、ロボットの実行に必要なコマンドだけがクラウドから自動的にダウンロードされる。

無償版も提供、大企業だけでなく中堅・中小企業も導入しやすくなる

 Automation Anywhereが、「ガラ携からスマートフォーンの変化を思わせるような」革新的な製品だとして打ち出すEnterprise A2019だが、日本市場にどう浸透させるのか。これまで同社製品は大企業向けというイメージが定着していたが、Enterprise A2019に関しては、大企業だけでなく、中堅・中小企業、さらにパートナーなどの利用を想定し、展開すると飯尾氏は述べる。

 例えば、アライアンスパートナーに対しては、Automation Anywhereのマーケットプレースである「Bot Store」で、パートナーがbotを販売できるようにする。「現在、当社のBot Storeには約600に上るロボットのテンプレートが登録してあるが、ここに人材派遣企業などが独自のロボットを登録することで、人材を派遣するようにロボットを提供できるビジネスも構想しています」と飯尾氏。さらに、パートナーがオリジナルの「Bot Store」を構築し、自社のクラウドで提供する形態も想定する。

 大企業に対しては、企業グループ内でロボット(同社はデジタルワーカーと呼ぶ)を展開、共有してガバナンスを効かせるといった活用方法を提案できるようになった。その他、中堅・中小企業は、Bot Storeからロボットをダウンロードするだけで、RPAを開発レスに利用できるという。

 なお、Enterprise A2019はライセンス体系を公開しておらず、価格は問い合わせが必要だが、「中堅・中小企業でも導入しやすい料金帯」だと同社は説明する。今回の新製品発表に伴って、中小企業や開発者、学生向けの無償サービス「Automation Anywhere Community Edition」の日本語版の提供も開始し、幅広い層に向けて同社のRPAを訴求する構えだ。

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