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セブン&アイ・ホールディングスが目指す究極のサービス体験の最終形態とは? その時必要な人材は誰か

グループ全体の「データドリブン組織」化を急ぐセブン&アイ・ホールディングス。データドリブンの先にある究極のサービス体験とはいったいどんなものだろうか。今、これから必要な人材像と合わせて話を聞いた。

» 2019年12月06日 08時00分 公開
[指田昌夫キーマンズネット]

 全国2万の店舗、周辺に複数のサービスを展開するセブン&アイ・ホールディングス。既に多数のデータを蓄積し、活用しているように見えるが、自己評価では「発展途上」だと断言する。

 同社が考える究極のサービス、顧客体験はどんなビジョンだろうか。データドリブン組織の強化を目指すセブン&アイ・ホールディングスの執行役員 デジタル戦略部シニアオフィサーである清水 健氏の話を聞いた。

セブン&アイ・ホールディングス 執行役員 デジタル戦略部シニアオフィサー 清水 健氏  セブン&アイ・ホールディングスはスタートアップを含む外部企業とのパートナーシップ構築にも積極的だ。「セブン&アイと一緒にデータで面白いことができそう、と感じてもらいたい。興味がある企業とはぜひ一緒にやらせていただきたい」ともコメント

目指す「察するデジタル」の究極系は購買レス体験

 清水氏は同社グループ全体のイノベーションとデータの活用を主導する立場として、現在は「7-ID」をキーとしたデータ統合と活用を進める立場にある。データ統合の背景には、全体の戦略として新規顧客拡大ではなく、既存顧客との接点をデータドリブンにし、顧客体験を高めるという考えがある。

 「既存の顧客の購入単価や来店頻度を上げるには、顧客の声を聞いてそれに対応するだけでは足りない。過去の購買行動やデジタル上の履歴などを分析し、個々の顧客の潜在的な要望を先回りしてかなえることで、既存顧客に求められる存在になれる」(清水氏)

 既存顧客のロイヤリティー向上を目指す取り組みのコンセプトは「察するデジタル」だ。

 「既存の顧客の購入単価や来店頻度を上げるには、顧客の声を聞いてそれに対応するだけでは足りない。過去の購買行動やデジタル上の履歴などを分析し、個々の顧客の潜在的な要望を先回りして提供することで既存顧客に求められる存在になることができる」(清水氏)

 清水氏は同社が目指す「察するデジタル」のサービスを、2軸の図で示した(図1)。これによると最終的にはstage3の「顧客が本質的に望むものを、顧客が意識することなく必要な時に提供する」というサービスを究極の目標としている。だが現状は「ようやく顧客ごとのカスタマイズができるところなので、stage1から2のところに入った段階」だという。

察するデジタルが目指すもの(発表資料より、図中のPBはプライベートブランド、NBはナショナルブランドのこと)

*本稿はTableau Japanの記者会見から利用企業として会見に参加したセブン&アイ・ホールディングスの執行役員 デジタル戦略部シニアオフィサー清水健氏の発表を再編集した。セブン&アイ・ホールディングスはデータドリブン組織に変革するためのTableau独自のガイドライン「Tableau Blueprint」の利用企業の1社だ。

 データ活用が十分に進んでいない理由を、清水氏は次のように話す。「コンビニなどの日々の買い物のデータは、発生頻度が高く、ボリュームもかなりある。だが、実はそのデータがまだ十分に生かされていない。例えばPOSのデータは商品購入時の情報は入っているが顧客の名前は入っていない。『nanaco』は双方向のマーケティングができない。セブン銀行と百貨店と会員組織の間で、顧客データが名寄せもできないままバラバラに存在する、といった課題があちこちにある」。そこで、前述したように7-IDを中心にしたデータの統合を進め、分析し、施策実施へとつながるサイクルを回すことでデータ活用を進めようというのが、セブン&アイの新しいデータ戦略だ(図2)。

7-IDを中心としたセブン&アイ・ホールディングスのデータ戦略

 同社は外部データとの連携も模索している。「われわれの持つデータは購買情報に偏っている。そのため外部企業と『セブン&アイ・データラボ」という取り組みを2018年から始めている。NTTドコモが提供する位置情報などの運用外部のデータと組み合わせて、何ができるのか検討しているところだ」(清水氏)

うちに必要なのは博士やサイエンティストではない

 豊富なデータを統合して分析できる仕組みができても、実際にデータを扱う人材が豊富にいなければデータ活用のペースは上がらない。データ活用を考えたとき、高度で専門的な知識を駆使するデータサイエンティストを獲得する必要があると考えがちだが、清水氏はその方針を採用しない。同社が必要とするのは別のスキルを持つ人材だ。

 清水氏は「うちにロケットを飛ばすような高度な科学知識のある技術者は必要ではなく、むしろ商売が分かり、ビジネスにひも付くデータ分析ができる人、つまりアナリティクスの実務家がほしい」と話す。

 そのため、外部からの採用はもちろん、社内(グループ企業内)の人材交流やリカレント教育にも力を入れ、データ人材の強化に長期的な視点で取り組んでいる。

 社員の教育については、東洋大学の情報連携学部(INIAD)学部長の坂村健教授に協力を仰ぎ、2018年11月に同学部で社員向けのデータ教育講座を作ってもらった。90分の授業を50コマ分という通常の大学の科目と同規模の本格的な授業で、データ分析の基礎からPythonなどのプログラム言語、Web技術などデータサイエンティスト向けの一通りの知識を学べるプログラムだ。50人ほどが受講しており、全くの初心者を含めて50人ほどが受講したが、それぞれ大きなレベルアップを図れている。

清水氏自身も全ての授業を受けた。このクラスは2019年3月でいったん終了したが、清水氏は「今後も取り組んでいきたい」と話す。

グループ内留学でも実践的なデータ分析者を育成

 また、同社はセブンホールディングスへの「短期留学」と呼ばれるグループ内の人材交流も進める。グループ各社の若手社員が、清水氏の所属するデジタル戦略部に出向し、データ分析を実践で学ぶプログラムに参加している。同制度は2018年に開始し、2019年には2期目の人材が加わった。各グループ会社から1〜2人ずつで、現在10人前後が学ぶ。

 参加者はほとんどが店舗のスタッフとして働いてきた経歴を持つが、データ活用の実務は未経験だ。そのため、留学は仕事を覚えるところからスタートする。専用の育成カリキュラムの中で、参加者はマーケティング企画や広告配信、分析ツールの運用スキル、統計解析などデジタルマーケティングとアナリティクスの知識と業務ノウハウを学ぶ。同時に「Tableau」や「Google Analytics」などのツールの技能も習得していく。

 同社は資格取得も重視し、情報処理推進機構(IPA)の「ITパスポート」と「情報セキュリティマネジメント」については、参加者全員に取得を義務付けている。その他の分析ツールに関する資格も推奨していて、Tableauも含めて複数の資格取得者が出てきているという。

 「(データ活用)未経験で参加した人にも、このようなカリキュラムを経て1年程度で独り立ちしてもらい、その後は出身会社のデータ分析のリーダーとして活躍してもらうことを狙っている」(清水氏)

 このようにデータ人材育成策を実施しているセブン&アイグループだが、清水氏の評価はまだ十分ではない。

 TableauとIDCはデータ活用度合いを測る指標を「データレディネスインデックス」(DRI)として定義している。人(組織)、人(スキル)、プロセス、テクノロジー、ガバナンスの5つの指標で評価するものだが、清水氏は自らのグループを「発展途上」とし、「グループ会社間の連携やデータから得られた知見をビジネスの文脈で意思決定する面」に課題を見ている。今後は、データドリブン組織に変革するためのTableau独自のガイドライン「Tableau Blueprint」を基にした課題の洗い出し、エバンジェリストの育成などを勧め、データドリブンな企業文化を醸成してDRIの向上を目指したいとした。

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