1カ月当たり50万件、3000のデータベースから情報を取り出して従業員全員が仕事に生かすことは可能か……? 日本製鉄の大人気コンテンツ「ダッシュボード」が生まれるまでの奇跡を追った。
日本製鉄は国内に13の製造拠点と3つの研究拠点、海外には7営業拠点、40製造拠点を擁し、約9万3000人の従業員を抱える大企業だ。中でも総面積1172万平方メートルの千葉県の君津製鉄所は中核製鉄所と位置付けられている。その君津製鉄所のシステム室でデータ分析基盤の構築やユーザー教育を担うのが枚田優人氏だ。
本稿はTableau Japan主催「Tableau Data Day Out 東京」(2019年5月14日)の講演を基に再構成した。
枚田氏によると「君津製鉄所でデータ分析の対象となるデータベースは3000以上ある」という。
君津製鉄所で取り扱うデータは大きく分けると受注や出荷状況などを見る「営業系」データと、生産工程を管理する製造プロセスのデータ、生産品の輸送データの3つに大別できる。
薄板の受注から納品までに生成されるデータを例に見てみよう。
薄板だけでも5万種以上の商品を取り扱っており、顧客ごとに完全受注型で生産する。受注のたびに種類や数量、見積もり金額などの営業系データが生成される。また、受注ごとに鉄鉱石の搬入から前処理、高炉、転炉、鋳造工程、圧延、表面加工などの工程のそれぞれで「圧力」「温度」「振動」などの品質に関わるデータを秒単位で記録する。年間数千万トンにも及ぶ生産品のの輸送も、それぞれ記録される。
こうした大規模データを分析する組織やIT基盤を、同社は「高度ITを活用する層」と「一般層」に分けて整備する。
「高度ITを活用する層」(高度IT層)のためには高度IT活用推進室という専門組織を設け、全社を統括して推進支援をしている。
高度IT層は、新日鐵住金ソリューションズのデータ分析基盤「Data Veraci」にデータ分析用ハードウェアと解析ライブラリ、機械学習プラットフォーム(DataRobot)などを備えたクラウドデータ解析環境(NS-DIG)を整え、専門チームがスキルを駆使したデータ分析を進める。
一方「一般層」である技術・事務スタッフは「Microsoft Excel」によるデータ分析を前提に業務を進めてきた。ところが、同社が生成するデータは月当たり50万件にも及ぶ。Excel自体は100万レコード以上を扱えるが、そのデータに何らかの処理をして実務に使うとなると現実的ではない上、数カ月間の推移を追うことも難しい。現場がExcelで処理するには手元にあるデータが多過ぎるのだ。
こうしたことから、データはあれども手元で気軽に品目や受注単位で状況を追うことが難しく、全体を見ての詳細分析ができないまま意思決定せざるを得ない状況が課題になっていた。全体が見えないので生産計画を適切に見直すことも難しかった。こうしたことから「段取り替え」が増える状況が生まれていた。段取り替えとは生産品目を切り替えるための準備工程のことだ。加工内容や原材料の配合などを都度調整する必要がある。この段取り替えの頻度が高くなると準備に掛かる時間が長くなり、生産量に影響を与えかねない。こうした状況を解消するため、現場の意思決定を正確かつ効率的に行う目的でセルフサービスBIの導入を目指したのだという。
もともと3000超のデータベースからデータを抽出する仕事をしていた従業員は、GUIさえあれば自分でSQLを組み立てて利用するスキルはあった。
セルフサービスBI製品を幾つか試したというが、処理速度に問題があるものもあったようだ。「1つの結果が出るまでに時間がかかり過ぎて、「その間にトイレに行って戻ってきたら、何をやっていたか忘れてしまうこともあった」という。
その中でTableauは、最短時間で理にかなったグラフが描画できた。操作をすれば結果がすぐに出てくるため、「月次の状況が分かったから、次は日次ならどうだろう、分野別だとどうだろう、と次の質問が勝手に湧いてきて分析サイクルが回る」と枚田氏はいう。そこに「感動して」Tableau導入を決めたという。
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