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保険事業の肝は「人に会うこと」。単純作業の自動化が叶える、 大同火災海上保険の働き方改革

» 2019年12月26日 10時00分 公開
[相馬大輔RPA BANK]

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(写真左から)経営企画部 経営戦略課副長 上原朝陽氏、経営企画部 経営戦略課長 川上良一氏

沖縄県は日本の中でも独自の風土や文化が色濃く残り、近年では観光業を中心に国内はもちろん世界中から人が集まり、好景気に沸いている。そんな “島”の損害保険事業で重要なキーワードが「台風」と「人手不足」だ。地理的に台風の被害が大きく、他県に比べて損害保険が極めて重要となる。さらに好調な景気を背景に大型複合施設が建設され、業界を問わず人手不足が顕著になっている。

人手不足の解消はどの業界でも重要な取組みであるが、損害保険事業においては、これに加えて、台風被害のような広域災害が発生すると保険金の支払いのために、業務量が増加するという課題もあった。そこで「生産性向上」の切り札としてRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)に注目したのが、大同火災海上保険株式会社だ。

大同火災海上保険は、戦後の沖縄県で初めて設立された琉球火災海上保険と、共和火災海上保険が経営基盤を確立するため、1971年に対等合併により誕生。1972年5月15日、沖縄県の祖国復帰と同時に国内元受損害保険会社として認可を受け、自動車保険や火災保険、傷害保険などの損害保険事業を展開している。「この島の損保。」として、地域に根ざした“あんしん・あんぜん”の提供を経営ビジョンに成長を続ける企業だ。

今回は、大同火災海上保険が推進している「働き方改革」の中心になり、RPA活用に取り組んでいる経営企画部経営戦略課長・川上氏と、RPAによるロボット開発と人材育成に注力している同課・副長の上原氏に、RPA導入による働き方改革の進展、その先にある未来について聞いた。

■記事内目次

  • 1.最初のハードルは、多種多様な管理システムへの対応
  • 2.RPA導入初年度で約2,000時間の業務削減効果を試算
  • 3.AI-OCRの活用も見据えたデジタル化を

最初のハードルは、多種多様な管理システムへの対応

――DNA変革宣言における経営戦略課の役割、RPA導入の目的や経緯をお聞かせください。

川上良一氏(経営企画部 経営戦略課長): 当社では、2017年12月にお客さまへより高い付加価値を提供し、沖縄とともに成長し続ける組織と個人への変革を目指すために、「DNA変革宣言(経営宣言)」を発信しました。社内外の環境変化と同様に私たちも変革していくことが重要という認識のもと、生産性向上や健康保持・増進(健康経営)、ダイバーシティに関する取り組みを経営戦略として推進しています。経営戦略課では、生産性向上を推進することで、働き方改革を進める活動を積極的に行っています。

上原朝陽氏(経営企画部 経営戦略課副長): 経営戦略課では、基本方針やDNA変革宣言に基づき、?会社の収益管理、?データ活用による業務効率化、?新規事業・新規サービスの企画・立案、?RPA活用推進、?働き方改革・生産性向上の推進などの業務を行っています。RPAの活用においては、単純作業を自動化できるため、生産性向上と労働時間の削減が期待できます。人に余裕が生まれれば、人にしかできない業務へ注力でき、顧客満足度の向上に繋げられます。また、労働時間短縮や自己研鑽にも時間を充てることができ、RPAの導入がワークライフバランスの充実に寄与できることは非常に魅力だと感じましたし、DNA変革宣言の実現にもつながると思います。

川上: 加えて当社では、膨大な紙資料をシステムに入力する転記業務など、単純な作業が多く発生していました。今までは、代理店や医療機関から送られてくる資料の確認およびシステムへの入力、代理店に送信する契約更新手続きの確認メール、入金情報の確認作業など、多くの単純作業に人的リソースを使っていました。こういった単純作業を省くために、アビームコンサルティング株式会社に相談したところ、RPAの導入を提案してもらいました。

上原: 課題だったのがデータ連携です。当社では、顧客の契約や代理店の管理、保険金支払いのデータベースなど、それぞれ異なるシステムで運用していますが、異なるシステム間のデータ連携には、システム開発に膨大な時間と費用がかかります。例えば、契約番号を入力し、出てきた情報を手打ちやコピー&ペーストで別のシステムに転記するという細かい単純作業が多く存在します。RPA導入によってシステム改修せずにデータ連携を自動化できることはとても革新的に感じました。

川上: ただ当社の各管理システムは、レガシーなものを含めて多種多様であり、最新のRPAが動作するのか、ロボットによる自動化ができるのかといった不安があったのも事実です。そこで2017年にアビームコンサルティングのサポートもあり、BizRobo!のトライアル導入に踏み切りました。トライアルでは、BizRobo!で自動化できる課題の洗い出しからはじめ、アビームコンサルティング側でトライアル用ロボットの開発、動作テストと評価検証を行いました。その結果、生産性向上に寄与することが見込まれると判断したため、2018年から本格導入となりました。トライアル前に複数のRPA製品を検討しましたが、実際に利用して不安も払拭できたこともあり、BizRobo!の本格導入に至りました。

上原: またRPAは、BizRobo!以外にも製品がありますが、デスクトップ型ではなく、サーバー型のサービスという点が決め手になり、採用することになりました。当初から、部門を限定してロボット開発を行うのではなく、多くの部門でロボット開発を行いたいという考えがあったためです。

デスクトップ型では1台のパソコンでしかロボット開発ができませんが、サーバー型であれば複数のパソコンにソフトウェアをインストールし、どんどんロボットを開発して運用でき、また、ロボット管理も効率的になります。他社製品と機能を比較検討したところ、サーバー型という部分以外にもトライアルでBizRobo!の有用性も把握でき、インターフェースも使いやすかったため、そのまま本格導入に至りました。

RPA導入初年度で約2,000時間の業務削減効果を試算

――RPAを本格導入して生まれた効果をどのように評価されていますか?

川上: 2018年8月から本格導入して1年ほど経ちますが、年間の労働時間で約1,700〜2,200時間の削減見込みです。これまでも労働時間削減の試みを行ってきましたが、異なるシステム間のデータ連携が高いハードルになっていました。RPAの導入によって少しずつ解決に向かっているのは良い傾向だと思います。

上原: RPA活用で特に効果的だったのが自動車保険における事故・故障レッカー事故情報の受付・積算・支払業務の自動化です。以前は、事故発生時に委託会社から紙で事故情報を受け取り、データベースへ手入力していました。現在は、委託会社からCSVデータで事故情報を受け取り、ロボットが自動でデータベースへの入力を行っています。以前であれば登録作業のために残業するケースも多く見られたようですが、RPAによる自動化で残業時間の削減につながっているようです。

川上: そのほかにも関係各所から届く情報の管理システムへの登録業務、情報の検証作業でもロボットが活躍しています。異なるシステム間での連携もスムーズにでき、非常に助かっています。従来は、社外や別部署との情報伝達に紙を使っていました。RPA導入後は、極力Excelを利用し、紙資料を減らすようにしています。少しずつですがデジタル化も進み、紙の利用も減ってきたため、コスト削減効果も出てきています。

上原: 現場の声を聞いてみると、ロボットの知識がほとんどない社員でもロボット実行の運用ができているようなので安心しています。転記や照合などの作業は、ミスが許されず、正確性が求められる業務ですが、ロボット化によってミスの心配がなくなりました。これらの作業は人への依存度も高かったのですが、今ではほとんどをロボットが作業するため、属人化の防止にもつながっています。

――働き方改革という観点でRPAはどのように効果を発揮していますか?

川上: 従来は単純作業や反復作業が多く、直接的に営業成績につながらない業務も多々ありました。RPA活用によって、それらの業務の自動化が可能になったため、人がやるべき仕事に注力できるようになりつつあります。今後は、有給や産休が取りやすく、テレワークやモバイルワーク、在宅勤務やサテライトオフィスなど、新しい働き方の推進にも力を入れていきたいと思います。

上原: 大きな変化として現場から「RPAを使えば、この業務も自動化できるのでは?」といった生産性向上のアイディアが出てくるようになったことも嬉しいです。2019年1月からは、ロボット開発のできる人材を増やすために「トレーニー制度」の運用もはじめました。

トレーニー制度は、部門関係なく、RPA活用を担う人材を育成する制度になります。これからロボットを量産していく必要があるため、現場を知っている各部門に開発者を育成していくことが現在の課題です。今のところトライアル運用も含めて16台のロボットが稼働していますが、今後は開発者を育成し、60台までロボットの数を増やしたいという狙いもあります。

川上: ロボットによる単純作業の自動化、情報のデジタル化を進めることでテレワークやモバイルワーク、在宅勤務やサテライトオフィスといった自由な働き方が可能になると考えています。実際に営業部門では、一部モバイルワークの導入もはじまっています。また、家庭の事情はもちろん、沖縄は交通渋滞もひどく、悪天候の際は通勤に1時間以上かかることもあります。子どもがいる社員は、送り迎えの負担も大きく、在宅で仕事ができるのであれば生産性を上げながら負担を減らすことができます。それが実現すれば、さまざまな事情で出社が難しい人材の採用にもつながり、新たな雇用創出となり、人手不足問題の解決策にもなると考えています。

AI-OCRの活用も見据えたデジタル化を

――最後に今後の展望、それに対する取り組みなどをお聞かせください。

川上: 2019年4月からは、「『この島の損保。』の真価〜」という基本方針のもと第13次中期経営計画をスタートさせました。その中でも「働き方改革」は重要なキーワードになっており、デジタル技術活用に向けた基盤整備が課題になっています。さらに経営戦略課では、RPA活用によって2021年までに60ロボット稼働、業務削減時間18,000時間という具体的な目標を設定しています。

上原: 目標を実現するためにロボット開発者の育成と平行し、将来的にはAI-OCRの活用ができないかと考えています。損害保険業務では、顧客や代理店、医療機関や金融機関と密な連携が必要不可欠です。しかし、業界によってはデジタル化が進んでいないケースもあります。例えば医療機関は、未だに紙とFAXというケースも多く、診断書や領収書などが紙しかないというケースもあります。そこでAI-OCRによる読み取りにより紙情報をデジタル化し、RPAを活用するという業務プロセスの見直しができないか模索中です。

川上: 損害保険事業は、顧客や代理店と対面での仕事も多く、会社としても「お客さまに会いに行こう運動(当社独自の取り組み)」を推進しています。損害保険事業では、対面業務など人にしかできない仕事が半数以上を占めていると思います。そのためには、ルーティンワークの自動化を推し進め、生まれるリソースを“人”が注力すべき業務に使ってもらうことが先決です。業務時間に余裕が生まれれば、新しい企画やサービス、自己研鑽にも時間が使え、契約者にとっても大きなメリットになります。そんな好循環を生み出していきたいです。

上原: 本格的にRPAを導入してまだ1年ほどですが、今の段階ではどんどんロボット開発ができる環境づくりが大切です。そのために情報システム部門と連携しながら、より開発しやすい環境整備を行っています。「DNA変革宣言」や第13次中期経営計画を達成することが働き方改革のカギを握っていると考え、まずはロボットの稼働台数を増やすことが当面の目標です。小さなことをコツコツと頑張れば、社内の意識も変わり、私たちも変革していけると確信し、頑張っていきたいと思います。

――ロボット開発のしやすい環境が整備され、働き方改革の実現に向けてますます発展していくことを期待しています。貴重なお話をありがとうございました。

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