目が見えない中で気軽に外出することは「ありえないこと」だという。視覚に障害がある方々にとって、思い立って目的もなくぶらぶら外出する楽しさを得ることは難しいのだ。
アルプスアルパイン、オムロン、清水建設、日本IBM、三菱自動車が「次世代異動支援技術開発コンソーシアム」を設立した。インクルーシブな社会を実現する技術を持ち寄り可能性を検討する考えだ。
プロジェクトの発端はIBMフェローで米国カーネギーメロン大学客員教授の浅川智恵子氏が2017年に着想したAI(人工知能)アシスタントだ。視覚に障がいを持つ浅川氏自身の体験から着想を得たアイデアだという。コンピュータが支援できる感覚器官は大きく拡大した。聴覚、触覚に加え、今ではAI技術の進展によりコンピュータは視覚と認知機能も獲得しつつある。
浅川氏は中学生の時、プールでのけがが原因で視覚に障がいを受けたという。その後、IBM基礎研究所に勤めてからは一貫して情報アクセシビリティーの課題解決をテーマに研究に従事してきた。今までも「デジタル点字」システムや、Webサイトの情報を音声で読み上げる「IBMホームページリーダー」などを開発してきた。ホームページリーダーは、視覚に障害があってもWebの広大な世界に広がる情報にアクセスできるツールとして日本だけでなく世界各国で評価されている。こうした長年の実績が評価され、2009年、日本人で初めてIBMフェローに抜擢された他、本間一夫文化賞や米国女性技術者団体WITの殿堂入りも果たした。2020年2月4日(米国時間)には米国盲人協会 (AFB) から日本人で初めて「ヘレン・ケラー賞」授与された。
「文字や音声によって、情報のアクセシビリティーは格段に良くなった」と浅川氏は語る。だが同時に、まだ解決できていない問題がある、と指摘する。視覚障がい者にとってアクセシビリティーを阻害するもう一つの要素は移動だ。目が見えない中で気軽に外出することは「ありえないこと」――冒頭で引用した発言は浅川氏自身が自身の体験として感じたものだ。
「今までは今いる場所の周辺にどんな情報があるかといった情報にアクセスする方法がありませんでした」(浅川氏)
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