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初の広島開催は“長蛇の列”。高まるロボット化への熱気──「RPA DIGITAL WORLD HIROSHIMA 2020」レポート

» 2020年02月19日 10時00分 公開
[相馬大輔RPA BANK]

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RPA BANK

定型的な事務作業をソフトウエアで代替するRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)をテーマにした国内最大規模のイベント「RPA DIGITAL WORLD HIROSHIMA 2020」(RPA BANK主催)が2020年1月31日、広島市東区の広島コンベンションホールで開かれた。

中国地方で初開催となったRPA専門イベントに来場者の関心は高く、講演聴講の希望者が朝から長蛇の列をなすほどの盛況。最新のソリューションが紹介された展示会場も終日にぎわいをみせ、1日で主催者想定を上回る604人が訪れた。

本記事では、当日開かれたセッションから、一般社団法人日本RPA協会代表理事の大角暢之氏による基調講演と、地元のRPAユーザーである株式会社広島銀行による事例紹介の要旨をレポート。さらに出展企業が解説・実演を行ったソリューションから一部をピックアップして紹介する。

■記事内目次

  • 1.「現場と融合するデジタル労働力」を経営に生かす──日本RPA協会代表理事・大角暢之氏
  • 2. 「自社が得たい効果を明確に」──広島銀行の実践から学ぶRPA活用のポイント
  • 3.【デモンストレーションセミナー/展示】AI-OCR・クラウドとRPAの融合に高い関心
    • 株式会社NTTドコモ
    • 株式会社エネルギア・コミュニケーションズ/RPAテクノロジーズ株式会社
    • 富士ゼロックス広島株式会社

「現場と融合するデジタル労働力」を経営に生かす──日本RPA協会代表理事・大角暢之氏

日本におけるRPA普及の草分け的存在である大角氏はイベント冒頭「経営技術としてのRPAの本質〜デジタルレイバーを活用したビジネスモデルの進化〜」と題して基調講演。満場の聴衆に対し「私自身広島生まれで、今朝も市内の実家から来た」と明かし、故郷のRPA普及にかける熱意をのぞかせた。

RPAという言葉がまだなかった2008年から、現在「BizRobo!」として知られるソフトで事務受託などを手がけてきた大角氏は、自身の歩みを交えて国内RPA市場の歴史を概説。2015年以降クローズアップされるようになった「RPA」は、一種のバズワード(実体を伴わない流行語)だと述べた。

その上で同氏は「昔からある自動化ツールに間接部門の事務作業を任せることで人手不足を補い、速く・休まず・ミスのない処理が可能になる。何か新しいツールが現れたわけではなく、“枯れた”ツール上で動くデジタル労働力をどう活用するかが重要なところで、ぜひRPAを経営技術として見てほしい」と訴えた。

続いて大角氏は、国内RPA市場の現況について説明。既に上場企業の9割がRPAに着手し、中小企業での導入も増えているものの、全社展開の定着に至ったユーザーはまだ限られているといい、経営と融合してRPA活用を加速させる企業と、試用レベルから抜け出せない企業に二極化していると分析した。

RPAを本格展開させる上でのユーザーの課題感としては、開発者の確保、運用体制の整備といった従来からのトピックに加えて「投資対効果」がクローズアップされているという。大角氏は、その背景として「『費用面で見合わない』あるいは『インパクトある効果が出ない』と評価されるケースが増えている」ことを挙げた。

この点に関して同氏は「ブームに乗ったRPA導入が壁にぶつかっている。過剰な期待が早期に収束し、地道な一般化のフェーズに入ったのはむしろ良いことだ」とコメント。今後、RPAの真価を発揮するためには「DX(デジタルトランスフォーメーション)によるビジネスモデル変革という経営戦略の一環に位置づけ」「業務の現場で活用に取り組む」べきだと提言した。

スマートフォンを通じて広く浸透したデジタル技術は現在、多方面で新たな可能性を生み出し、旧来のビジネスモデルを急激に陳腐化させている。DXが掲げる「顧客の本質的欲求が満たせるビジネスモデルを再構築し、その実現手段としてデジタル技術を活用する」とのコンセプトに注目が集まるゆえんだ。

大角氏はDXの先進事例として、建機の故障検知目的で採用したIoTを活用して無人での施工にも対応し、顧客の建設会社が悩む「人手不足」を緩和しているコマツなどを列挙。さらに、DXによるビジネスモデル変革でRPAが果たす役割と関連して、国が懸念を示す「2025年の崖」に言及した。

2025年の崖とは「ITの個別最適化やブラックボックス化が進み、システムの現状維持に予算の7割が消える高コスト構造や、そのしわ寄せであるデータ活用の遅れを放置している日本企業は、技術者不足がさらに深刻化する2025年、新領域でのデジタル活用のみならず業務基盤の維持・継承も危うくなる」という経済産業省からの注意喚起だ。

大角氏によると、2025年の崖に落ちるのを避けて着実にDXを推進する上で、適切な方法でRPAを活用する意義は極めて大きいという。その理由を、同氏は次のように説明した。

「もしAIやIoTといったテクノロジーの活用推進に向けて新組織を設けると、既存組織との分断が生じてDXを実現しづらくなる。この点でRPAは、あらゆるテクノロジーを連携させる『ハブ』となる技術である上、相応の習熟を経れば事業部門の現場でも実装できる。もしRPA活用を現場に定着できれば、自律的な生産性向上のサイクルで初期費用を上回る効果が容易に得られるだけでなく、DXの取り組みも現場への委譲を進められる。この結果、IT投資やIT人材の余力を捻出することも可能となる」

こうしたRPA活用戦略の要となるのが、社内人材の育成だ。大角氏は、自身が社長を務めるRPAテクノロジーズ株式会社が、社内RPA開発者900人の育成に成功したLIXILのノウハウをもとに、研修拠点「!Center(びっくりセンター)」の全国展開を進めていると紹介。「ぜひ広島でもつくりたい」と意欲を示した。

既に広島では地元の中国電力グループがRPAの運用基盤をクラウド上で開発提供するなど、RPA活用環境の整備においては全国をリードしているという。大角氏は「どの企業も今後必ず取り組まなければならないDXをカジュアルなものにしてくれる、現場融合型のRPAをこの広島で追求していけたら」と述べ、40分にわたる講演を締めくくった。

「自社が得たい効果を明確に」──広島銀行の実践から学ぶRPA活用のポイント

「去年6月に東京で開かれたRPA DIGITALWORLDに参加し、当行と同じRPAツールを使う企業の事例を聞けたことがとても刺激になった。今度は、私たちの事例紹介が少しでもお役に立てれば」

当地を代表する金融機関の広島銀行でRPA担当を務める矢吹一真氏(デジタル戦略部担当部長)は、セッションの冒頭でそう自己紹介。大角氏の会社が提供するサーバー型RPAツール「BizRobo!」とほぼ同じ機能を備えた「Kofax RPA」を自行が選んだいきさつや、活用の現況を報告した。

同行でのRPAの本格活用は、矢吹氏を含む3人のメンバーで2018年度下期からスタート。事務集中部門におけるポイントサービス登録作業など、既に3部門の30業務でソフトウエアロボットを活用し、年間2万時間相当の効率化を達成している。

これに伴い2020年3月までに、行員約10人分の配置が他部門に振り替えられる見通しだ。同行におけるRPA活用は、紙資料や会議、報告、印鑑といった非効率な要素を「レス化」する経営戦略の一つに位置づけられ、捻出した余力をサービスの高付加価値化に充てることは、当初からの既定路線だったという。

経営戦略とRPAの関係について矢吹氏は「当行ではRPAの導入効果を5つのKPI(重要業績評価指標)で評価し、『ロボットに置き換えた仕事の人件費相当額』など財務に直接貢献する指標とそれ以外を区別している。ロボット開発の順序も手当たり次第ではなく、できるだけ人員シフトにつながるよう『毎日数人がかり』といった作業量の大きい箇所から取り組んでいる」と説明した。

同氏はさらに、RPA活用のKPI設定について「従業員満足度向上を狙って多忙な現場に“デジタル労働者”を雇ったことにし、採算には目をつぶる考え方もできるが、投資以上の経済的効果をきちんと得る計画も当然ありうる」と指摘。それだけに、自社がRPA活用にあたってコミットするKPIをあらかじめ明確化し、テスト段階の間に達成可能性を見極めることが重要だと説いた。

以上のような「KPIの明確化」や「手当たり次第に開発しないこと」を含め、矢吹氏は自行の知見を踏まえたRPA導入のポイントを、7つのテーマ別に整理した。

このうち「ツール選定」について同氏は「社内各所でPC1台単位の運用が可能なデスクトップ型ツールは『柔軟な個別開発』や『対象業務を理解した開発が容易』という強みがあるものの、私たちは『教育コスト抑制』『ガバナンス強化』『稼働率向上』『ノウハウの集積』を重視し、限られたメンバーで集中的に開発運用できるサーバー型ツールを選んだ」と解説。

また、最終的にKofax RPAの採用に至ったのは「『国内金融機関での実績』『コストに見合った高性能』『長期運用に適した買い切りライセンスの存在』が決め手になった」と振り返った。

さらに同氏は、プログラミングをほぼ用いないRPAが「簡単そうな印象」から安易に検討されがちな風潮に“待った”をかけ「一定のITスキルがあるに越したことはない。無意識的に処理される部分を含め、ロボット化の対象業務を可視化できるスキルも必要だ」と補足。こうしたスキル面の備えと同時に、操作用PCや社内外のシステムへの更新があるたびに必要となるソフトウエアロボットへの改修を続けられるよう、RPAの長期運用体制に見通しを立てた上で取り組むべきだと強調した。

セッション終盤「ロボット運用は毎日が格闘。苦労は絶えない」と率直な心情を打ち明けた矢吹氏は、同時に「RPAが経営効率化に有効なことは間違いない」とも明言。来場者が属する各企業での地道な実践を呼びかけて降壇した同氏に、会場からは盛んな拍手が送られた。

【デモンストレーションセミナー/展示】AI-OCR・クラウドとRPAの融合に高い関心

この日の会場ではデモンストレーションセミナーやブース展示で計5社が出展し、RPAツールや導入支援、データ連携などの製品・サービスを紹介。手書き文書のデータ化を効率化するAI-OCRや、場所に制約されないクラウドを活用したソリューションなどに高い関心が集まった。以下では、このうち3社の模様をピックアップする。

株式会社NTTドコモ

デスクトップ型RPAツール「WinActor」のライセンス販売および導入支援を手がけるNTTドコモは、ブース展示と併せてデモンストレーションセミナーを開催。受発注の入力作業をRPAで自動化する下関農業協同組合への支援など、同社が中国地方で挙げた実績に触れながら、AI-OCRが手書き帳票から読み取ったデータをWinActorに渡し、システムに自動登録するソリューションの実演を行った。

セミナーの担当者は「AI-OCRを使って手書き文字をデータ化することで、そこから先の登録処理などをRPAで自動化できるようになる」と、2つのテクノロジーの関係性を説明。従来のOCRにないAI-OCRならではの特長について「フォントに加えて手書き文字も認識できるほか、前後の文字と合わせた推測により、カタカナの『ロ』と漢字の『口』なども正しく判別できる」と解説した。

同社が提供するRPAソリューションは「導入検討」「トライアル」「本格導入」という各段階のうち、導入検討段階で行う対象業務選定や費用対効果試算へのサポートを無料で行うのが特徴。「ここで有望なケースを絞り込むため、トライアルまで進んだ企業の99%が本格導入に至っている」(担当者)といい、遠隔サポートやEラーニングなどの充実した体制と併せた“安心感”をアピールしていた。

株式会社エネルギア・コミュニケーションズ/RPAテクノロジーズ株式会社

中国地方を代表するインフラ企業・中国電力株式会社のグループ企業であるエネルギア・コミュニケーションズ(エネコム)は、共同出展したRPAテクノロジーズのRPAツール「BizRobo!」の実行・管理環境をクラウド上で提供するサービス「エネロボクラウド」を紹介した。

エネロボクラウドは、BizRobo!の運用環境を構築したエネコムのデータセンターとユーザーを、安全なVPN接続で結ぶプライベートクラウド型のRPAサービス。オンプレミスで用いられるBizRobo!の主要な機能をクラウドに移行させたことで「すぐ使い始められ、インフラの管理も不要」「複数拠点での一体的な運用が容易」「従量課金と上限額を設定した料金体系でスモールスタートしやすい」などの特長を備えている。

なお同様のサービスは、RPAテクノロジーズからも「BizRobo! DX Cloud」として提供されており「デスクトップ型ツール『BizRobo! mini』とサーバー型ツール『BizRobo! Basic』の中間に位置するソリューションとして従業員100〜1,000人規模の組織に推奨している」(担当者)。ブースでは、2020年3月までの期間限定で展開しているエネロボクラウド/ BizRobo! DX Cloudの無料トライアルもPRされた。

両社はブース展示と併せて、デモンストレーションセミナーも実施。このうちRPAテクノロジーズのセミナーでは「広島東洋カープ公式サイトのカレンダーから、シーズン中の試合日を自動取得する方法」を題材に「『左から1セルずつチェック』と『上から1行ずつチェック』を繰り返し、表組の全データを取得する」といったBizRobo!でのロボット作成の要領が解説された。

富士ゼロックス広島株式会社

複合機や文書管理ソフトの提供に加え「WinActor」「BizRobo!」の2ツールを中心にRPAの導入支援も手がける富士ゼロックス広島株式会社は、複合機ユーザーから引き合いの多いAI-OCRを起点にした業務効率化ソリューションをブースで紹介した。

この日実演されたのは、手書き文書のスキャン画像を、富士ゼロックスが提供するAI-OCRのクラウドサービス「Smart Data Entry」でデータ化し、CSVファイルに変換後、業務アプリ構築のクラウドサービス「kintone」を使って作成したデータベースにRPAで自動転記するソリューション。「手書き帳票のデータ入力で生じるヒューマンエラーを解消したい、データ管理の工数を減らしたいといったニーズに応えるための提案」(担当者)という。

複合機とOCRが早くから併用されてきたこともあり、同社の顧客では既にOCRからAI-OCRへの移行例が出始めているものの、RPAなどを使って後続の処理も自動化していく動きが活発化するまでには、まだ時間がかかる見通しという。ブースの担当者は「広島県内に多い製造業の会社は業務改善への関心が高く、RPAによる間接業務の効率化にも興味を持っている印象。まずは従業員数百人規模の組織を主なターゲットとして普及につなげていきたい」と話していた。

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