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「インサイド情報は漏れて当たり前」の時代だからこそ考えたい企業戦略

SNSや口コミサイトにより、企業は「隠せるものは何もない」ことを前提としたリスクマネジメントが必要だ。

» 2020年04月03日 08時00分 公開
[太田 努サイト・パブリス]

 口コミサイトやSNSが身近な存在となり、今では組織のインサイド情報もすぐに広まってしまう時代です。もし、自社のネガティブ情報が世の中に拡散されてしまった場合、従業員やその企業への採用応募者、株主などはどういった反応を示すでしょうか。そうなるとその企業のファンになるどころか、その企業からどんどん距離を置いていくでしょう。企業のインサイド情報の流出リスクも考慮しなければなりません。

著者紹介:太田 努(デジタルフォルン 取締役COO)

大手人材総合サービス企業在籍時にアウトソーシング事業を中核とする社内ベンチャーを立ち上げ、上場。主に営業やサービス企画、グループ企業経営などに従事。その後生活産業系企業に移り、BtoCの店舗運営事業の立ち上げに携わる。事業責任者として店舗オペレーションやサービス企画、マーケティングなどを統括。現在はデジタルフォルンのCOOとして事業運営全般を担当しながらグループ会社であるサイト・パブリスの執行役員を兼務。デジタルマーケティング領域の拡大に向けた取り組みを行う。


カネカ事件から学ぶインサイド情報の拡散リスク

 拡散された情報から事が大きくなった事例として、2019年に起こったカネカの事件が挙げられます。カネカの従業員が育休からの復帰2日後に転勤を命じられたというもので、メディアでは「育休復帰、即転勤辞令、SNSで炎上」と大きく取り上げられました。

 この事件は、従業員の配偶者がSNSで投稿したことがきっかけとなり、情報が瞬く間に拡散しました。こうした事件は、対岸の火事では片付けられず、どんな企業にも起こりうる事例です。辞令を出したタイミングなど、企業判断の是非はここでは議論の対象にしませんが、こうした情報リスクに関して教訓となるポイントを以下に挙げます。

1.従業員だけでなく家族も含めステークホルダーは情報発信の手段を持っている

2.社内のインサイド情報はいつでも社外に拡散される可能性がある

3.専門家による法的解釈を前面に押し出した会社の判断と世間の考えとの乖離(かいり)

4.子育て支援や働き方改革など、関心度の高い時代のキーワードと企業姿勢の印象


 組織にとってのネガティブ情報が拡散されたときの影響として、従業員の会社に対するエンゲージメントや採用活動、株主などの投資判断などが考えられます。従業員のエンゲージメントや採用活動への影響はすぐにイメージできますが、株主への影響も重要となります。ESG(環境、社会、ガバナンス)やSDGs(持続可能な開発目標)を意識した企業活動を求められる今日、その取り組み状況を投資判断に使う投資家は益々増えています。

株主などステークホルダーは、会社のインサイド情報を求めている

 一方で、投資家は従来のIRから得られる情報だけでは足らず、よりインサイド情報を求めています。よって、インサイド側にいる従業員が書き込む会社の口コミサイトなどの存在も重要な位置付けになってきています。

 「OpenWork」に代表される会社の口コミサイトは、その存在価値をどんどん高めています。今や就活生や転職を考える人の多くが利用し、会社選びの判断基準として会社の口コミサイトを利用しています。サイトには多面的な角度から見た会社の評価が点数化され、組織の評価値として掲載されています。

 今後、こうした会社の口コミサイトは採用市場における大きなエンジンとなるでしょう。こうした口コミサイトは投資家や金融機関も注目し、情報源の一つとしています。企業には様々なステークホルダーが存在する中、従来は企業と顧客、企業と株主、企業と従業員の対の関係性が一般的で、ステークホルダーの横のつながりや連動性はあまり意識されてきませんでした。しかしステークホルダーの情報収集力と発信力が高まる中、ステークホルダー間の横のつながりが自然と形成され始めています。企業はそうしたつながりを意識した戦略や戦術が必要となります。

 企業により課題の優先順位は異なりますが、「隠せるものは何もない」ことを前提とした、ステークホルダーとの関係構築が重要となります。そのステークホルダーの中で組織のインサイド側にいる従業員との向き合い方、特に従業員のエンゲージメントをいかに高めていくかという視点が必要です。

 従業員を含め、企業があらゆるステークホルダーを“ファン”にするには、「インナーブランディング」の考え方が重要になります。インナープランディングとは、企業が理念やビジョン、価値を従業員に理解させ、浸透させるための啓蒙活動を指します。インナーブランディングを意識することで、より従業員とのエンゲージメントを高められ、定着率と生産性を改善でき、その結果あらゆるステークホルダーをハッピーサイクルに導く循環を構築できるのです。

ステークホルダーの循環サイクルとブランディング範囲

 インナーブランディングの進め方のポイントは以下の3点となります。

ミッション、ビジョン、バリューの整理(構築、再定義) 企業の活動目的や従業員の行動規範をまとめる。経営トップをはじめ経営陣の事業への想い、顧客提供価値、求める社員像などの棚卸を行い、言葉として体系化する。
浸透に向けた計画の策定と実行 浸透のゴール設定、KPIおよびKGIの設定、浸透手段・プロセスの設計。社内報やグループウェアの活用、クレドカードやポスターなどの浸透に向けて告知施策の計画立案。従業員向け説明会、グループワークを実施、ミッション・ビジョン・バリューと事業戦略について経営幹部が重要性を説明。
効果検証と施策のブラッシュアップ 定性および定量面からの効果検証、浸透に向けた施策の再構築。従業員向けESに関するアンケートを実施、アンケートの中でミッション、ビジョンバリューの理解度に関する設問を行い、あらかじめ設定した理解度のKPIと結果を検証する。浸透理解の状況によって、各種告知手段を使い浸透に向けて継続的な施策の実行する。

 組織にインナーブランディングの専門チームを設置するなども有効です。

 第4回では、従業員のエンゲージメントを高める第一歩として、インナーブランディングの重要性に触れましたが、次回(最終回)はもう一段掘り下げた情報と、企業の取組みについて触れていきます。

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