昨今、注目を集めつつあるクラウド型人事管理支援システム。本稿はHCMシステムの中でも代表的な「Oracle Cloud HCM」について機能と特徴を説明する。
人的資本管理(HCM:Human Capital Management)システムをはじめ、「人材」を取り扱うシステムは昨今、急速に拡充している。
HCMをはじめとする人事管理支援システムを使用するのは人事部門のみにとどまらず、経営層から一従業員までその役職を問わない。というのも、給与計算や福利厚生管理といったコアとなる人事業務に加え、採用や育成、タレントマネジメントなど人材管理、従業員と人事、経営層のコラボレーションツールとしても利用されるからだ。
注力する機能はベンダーによって異なるが、複数のベンダーがHCMを提供している。なぜ今、HCMに注目が集まっているのだろうか。
働き方改革の文脈に加え、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)対策で長期間のテレワークを経験した人の中には、ワークライフバランスを改めて考える向きもある。こうした状況から、アフターコロナ、ウィズコロナの世界では人材の流動性が高まることが予測され、企業はより自社に適した人を採用できるチャンスが増える一方、自社の従業員が流出するリスクもある。これは企業の人事部門にとって最も重要な課題だ。
加えて人事部門の業務にも変化があった。例えば採用活動はコロナ禍の影響で対面からリモートに変化した。従業員の育成や評価も同様だ。新たな手法やITの仕組みが求められているというわけだ。運用の利便性やリモートアクセスの容易さなどからHCMの中でもSaaS型のサービスが特に注目を集める。
クラウド(SaaS)型HCMの代表的な製品の1つが「Oracle Cloud HCM」(以下、Oracle HCM)だ。もともとデータベースを強みとしてきたOracleが提供するHCMにはどういった特徴があるのだろうか。本稿では同社業務アプリケーション群の構成と併せてOracle HCMの特徴を見ていく。
Oracleの一番の強みと言えばデータベース管理だ。同社には、業務プロセスを効率化するためのERPやサプライチェーン管理(SCM)などバックオフィス業務を支える各種アプリケーションに加え、顧客との接点を最適化するCRMやマーケティングオートメーションといったフロントオフィス向けのアプリケーションがある。これらのアプリケーションはSaaS(Software as a Service)で提供される。同社には「PeopleSoft」や「Oracle E-Business Suite」(Oracle EBS)など旧来のオンプレミス版アプリケーションがあるが、先述のSaaS群はクラウドでの提供を前提に一から開発されている。
SaaSとして開発する際、Oracleでは利用企業に対しデータベースが一つだけというアーキテクチャにした。つまり複数のアプリケーションで、統合したデータベースが利用できるのだ。
人材管理のOracle HCMは、一般的な人事業務のモジュールも、採用業務やタレントマネジメント、ラーニングなどのモジュールも、全て単一のデータベースを基盤に動く。「HRM機能に必要なラーニング製品などを買収して、人事アプリケーションの“横”データ統合もせずに置いて運用すような他社ソリューションとは大きく違うところです」と、日本オラクルの丸島 美奈子氏(クラウド・アプリケーション事業統括 事業開発本部 ビジネス企画・推進部 HCM 担当シニアマネジャー)は言う。
なぜOracleは単一のデータベースで統合するアーキテクチャで開発したのか。丸島氏によると、今後のAI(人工知能)活用によるデータ分析を考えていたからだという。一つのデータベース上に手間とコストをかけ新規に開発したことで、データ分析に長けたSaaSが完成したのだ。OracleのSaaS群の特徴の一つとなった。
もう一つの特徴として、ユーザビリティの高さも挙げられる。モバイル端末でも全てのアプリケーション機能が利用でき、さらにチャットbotが問い合わせに自動回答するデジタルアシスタントのような機能も強化した。これらは人事部門以外の従業員による利用を想定してのことだ。
例えば、タレントマネジメントのモジュールにも、データ分析機能が搭載されており、セルフサービスで人事部門でない従業員も利用できる。「従業員が目標達成のために何をすべきかOracle HCMに聞けば、今何をすべきかのアドバイスが受けられ、その作業を実行するための画面も立ち上げてくれます」(丸島氏)。
AIに注力する同社だが、汎用的なAI機能は提供しない。Oracle HCMでは主にパーソナライズ機能でAIを活用している。職責情報や普段のアプリケーション利用状況を学習し、従業員ごとに最適なアプリケーション利用画面を自動表示する。
さらにAIを活用しているのが「採用」や「離職予測」の機能だ。
例えば、採用では応募書類をAIが読み込み、内容をAIで理解しその人に適する職種をランク付けして提示する。この機能は、あらかじめOracle HCMの採用機能の中に組み込まれておりユーザーが作り込む必要はない。
OracleのアプリケーションはAIだけでなく、IoTやブロックチェーンなど新しいテクノロジーも積極的に取り入れている。全体はOracleのデータベースで情報を統合するが、職歴情報などのトレーサビリティーを維持する際にブロックチェーンを活用する方法を検討するなど、技術の取り込みにも積極的だ。
Oracle HCMはSaaSらしく、四半期に一度の頻度でアップデートを実施しており、機能アップデートは年間で約1200件にも及ぶ。ただし、通常のSaaSと異なるのが、アップデートが画一的ではないという点だ。
「更新された機能を利用するかどうかは、顧客が判断し決められます」日本オラクルの矢部正光氏(クラウド・アプリケーション事業統括 ERP/HCMソリューション・エンジニアリング本部 HCMソリューション部 部長)。
この選択肢の実現も、顧客ごとにインスタンスが稼働するシングルテナント型データベースならではだろう。エンタープライズ用途を前提に、どのレベルで分離すべきかを十分に考慮した結果でもある。「グローバル企業ならば、人事システムも何万、何10万人の従業員が利用する。そういったニーズに応えられるようなアーキテクチャに、Oracle HCMはなっています」(矢部氏)。
冒頭で触れた通り、COVID-19で企業はまず緊急の対応をしてきた。徐々に復帰フェーズに入っており、次は新たな働き方の実現とその評価へと移る。現状はまさに復帰フェーズで、今後フェーズが変化するに従って人材の流動性は高まるだろう。
優秀な従業員の流出を防ぎ新たな人材を獲得するために、企業は、データ分析を活用した採用、内部人材の育成に注力していかなければならない。自動化できる業務は積極的にシステムに任せる必要もある。
テレワークでは、上司と部下の普段のコミュニケーションも難しくなった。HCMシステムのような仕組みがあれば、従業員も積極的に利用するだろう。タイムリーなデータが蓄積されれば、システムの精度をより一層向上させられる。
従来、人事のシステムは人事部門の業務効率化するために利用されてきた。今回紹介したOracle HCMのような新たな人材管理支援システムは従業員全員に価値を発揮し、全社的な働き方改革をも実現するだろう。
最後に、HCMシステムの選定のポイントについて、矢部氏は以下のように話す。「顧客自身がHCMシステムを使って何をしたいか、どういう組織にしたいかという目標を定める必要があります。目標に合わせ、必要な機能を選びましょう。スモールスタートだとしても、思い描いた将来像に向け適用範囲を拡大することを意識しましょう。リクルーティングだけ、タレントマネジメントだけといった限られた機能のシステムだけでなく、中長期的に考えて製品を選定してください」。
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