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「手作業だらけで、ばらばら」80事業を抱える楽天 数万明細を扱う経理業務をどう標準化したか

多数の事業部門を抱える企業の場合、バックオフィス業務も事業部門ごとに個別最適が進む場合がある。バックオフィス改革を前提に効率化を進めるには、部門ごとの業務の壁にメスを入れる必要がある。80の事業を抱える楽天はこの問題にどう取り組んだか。

» 2020年09月23日 10時00分 公開
[土肥正弘ドキュメント工房]

 変化が激しいECやオンラインサービスの業界で80もの事業を運営する楽天。同社の経理業務は事業部門ごとに個別最適化が進み、標準化の対極ともいえる状況だった。だがデジタル・トランスフォーメーション(DX)を目指すに当たり、業務標準化とデジタル化は必須の前提要件だった。複雑に絡み合った経理業務を、どう整理してデジタル化を進めたのだろうか。同社コーポレート経理部の取り組みを紹介する。

*本稿はBlackLine主催「Beyond The Black TOKYO 2020」の講演に基づいて構成した。


DXの前に「手作業だらけ、ばらばら」のフロントシステムの入力をどうするのか

1 楽天 國井 渉氏

 全体最適を目的としたERP導入では、既存業務の整理と標準化が大きな課題となる。個別最適化が進んだ企業ほど、業務の洗い出しと標準化の道のりは険しくなる。多様な事業を展開する楽天は本社経理部門約130人の約半数が事業経理を担当し、事業ごとに記帳から決算の数字確定までの業務を担う。

 同社経理部門の國井 渉氏(財務経理ディビジョン コーポレート経理部 ジェネラルマネージャー)は「80以上の多様な事業が並立し、各事業規模は短期間で拡大、時にはクローズするなど、変化が激しく、グループ内外でのサービス統合なども頻繁に起きるのが当社のビジネスの特徴。この事業環境では1つのシステムを長期間、同じようなプロセスで利用するのは難しかった」と振り返る。

 その一方で同社が将来的に目指すのは、デジタル化を起点にAI(人工知能)などによる高度なデジタイゼーションを前提としたDXだ。この最終ゴールに向け、システムやデータを整備していくステップとして全社規模で利用できるERPの導入や財務経理業務の効率化は必須だった。

130人が携わる手作業と個別最適の悪循環を絶つ2つの選択

 同社の経理業務はそもそも手作業が多かった。この手作業を効率化するために各工程が個別最適化していた。似たような業務でもいろいろなプロセスが存在することから、一部を自動化できても全体には及ばないため、さらに個別最適化が進んでしまう状況だったという。

 悪循環を断ち切るには手作業を減らし、工程最適化ではなく全体最適を考えられるように業務の標準化を断行しなければならない。そして標準化できたプロセスは自動化し、生産性や業務品質を改善する。そこで同社はまず業務全体の標準化のため、ERPとして「SAP S/4HANA」を導入した。

 そして、業務全体をS/4HANAで管理することを前提に、130人の経理業務効率化を目指して採用したのが「BlackLine」だ。BlackLineは「EFCA(Enhanced Finance Controls and Automation、高度な財務コントロールと自動化)ソフトウェア」として「決算自動化に特化した統合クラウドソリューション」を標ぼうするサービスで、SAP ERPやOracleなどのERPが持つ経理の機能を連携することで、業務の自動化や可視化を支援する機能を持つ。

 経理業務の業務は、フロントシステムでデータを入力してから最終的に正確な財務状況を把握するための財務データを作るまでの間にさまざまな工程があるが、その多くはERPでカバーできる。特に最終段階の財務データをまとめる際は、運用ルールさえ明確にしてあれば標準化できる。ERPへのデータ入力もデータ項目のルールとトランザクションの使用ルールを明確化すれば標準化は可能だと考えられた(図1)。

2 図1 経理プロセスをERPに移行するための標準化対象と標準化実現のキー(國井氏の投影資料より)

決め手を見つけにくいフロントシステム改善、どう取り組むか

 だが、経理業務を標準化するに当たって大きな問題となったのは、データの入り口側だった。つまり、各事業部門の購買、給与、販売管理、資産管理といったフロントシステムが扱う取引トランザクションやデータの持ち方の違いだ。

 全体最適の業務改革を成功させるには、全社でのERP導入が必要だ。その前提として、多種多様なデータを標準化した状態でERPに正しく入力する必要がある。ここでポイントとなったのが、BlackLineが持つ2つの機能だ。楽天はERP導入の効率化にもつながるこれらの機能をフル活用し、成果を出しているという。以降で詳細を見ていく。

 従来、楽天の経理業務にはさまざまなフロントシステムが乱立していた。中には自動でERPと連携させられるプロセスもあったが、これについては標準化だけでなく、業務精度が高く保てるように(エラーを生じないように)する仕組みとして、実行可能な管理プロセスを確立する必要がある。業務の精度は人の介在量と自動化レベルの二つの要因で決まるといってもいいだろう。

 このうち、人的リソースは限りがあるため、業務の精度を高めるにはプロセスを改善しなければならない。

 「この答えがなかなか見つからず、せいぜいEPR外のマニュアル業務をデジタル管理するくらいだった。そこで発見したのが経理業務に特化したBlackLineだった」(國井氏)

経理業務効率化で外せなかった2つの機能とは? なぜ必要だったか

 経理業務効率化ツールの選定で國井氏らが重視したのが、BlackLineの持つ「タスク管理」と「勘定照合」の機能だ。

タスク管理を使ったガバナンスと標準化、電子化

 経理業務の効率化を図るとしても、一定の統制レベルを維持する必要があるため、タスク管理は必須の機能だ。BlackLineの場合は経理業務に特化したタスク管理機能があるため、カスタマイズの必要なく要求レベルの統制を維持できることから、國井氏らは導入の費用対効果が高いと考えた。

 実際に楽天の経理部門がタスク管理機能で実現した業務効率化は次のようなものだ。

  • 経理業務の管理方法を業務一覧と業務マニュアルの作成管理によって標準化し、デジタル化と一元化を実現した
  • 決算関連情報管理の一元化
  • 経理業務における承認フローの電子化

数万明細の照合を合理化する勘定照合機能

 勘定照合は、経理業務の合理化に不可欠な「残高明細」の作成業務をデジタル化するものだ。同社で大きな課題だったのは何万明細という数の前払い費用の管理だ。「Microsoft Excel」などを使った手作業での管理には限界があるため、システマチックな処理を目指し、まずはERPの固定資産管理機能を使った実現を考えた。しかしERPの機能を使ってしまうと、手続きが厳密になり過ぎて「小回りが利かない」処理となり、かえって煩雑な手続きになる可能性があった。そこで、ERPとの間を取り持って柔軟に運用できるBlackLineを使う方法を選択したのだという。

 「タスク管理はいわば業務管理ツールだ。業務管理は本来関係者全てにメリットがあるものだ。しかし、直接的には管理者だけがメリットを享受するように見えることもあり、『担当者の手間を増やすだけ』と感じさせてしまえば定着は難しい。担当者自身にも作業効率化などのメリットが感じられるツールが必要だった。経理領域に特化したツールならば、経理担当者の実務を支援する機能も備わることから『使えば使うほど効率が上がる』と感じてもらいやすく、実際に効果も出やすい」(國井氏)

経理SaaSの受け入れテストシナリオ作成支援機能を生かせば新ERPの導入も効率化できる

 一般的なERP導入は、図2に見るように要件定義が終わるとシステム部門はシステム設計や開発を、経理部門は業務を整理して、それぞれのプロセスを明確化(業務マニュアル作成)し、新しい業務プロセスを構築する。そして出来上がったシステムの受け入れテストを経て本稼働に至る。

 ここでBlackLineのタスク管理機能がERP導入時の業務標準化の雛型として利用できるという。國井氏によれば、受け入れテスト用のシナリオ作成の前提情報をBlackLineで整理しておく方法が有効だ。

 「シナリオ作成は新業務プロセスを前提とするが、実際のシステムがない状態で業務プロセスを構築するのは難しい。だが、BlackLineのタスク管理機能を使って業務一覧と業務マニュアルに該当する内容を整理しておけば、ERP導入時の新業務プロセス設計や構築に必要な内容はほぼ作成できる。また業務文書作成には文書化のルールも重要だが、タスク管理機能はそのルールの指針としても利用できた」(國井氏)

3 図2 ERP稼働までの(大まかな)流れ(國井氏の投影資料より)

 ERPから定期的に残高金額を抽出してBlackLineに渡す勘定照合のための設定も、科目や部門といったデータのデータの粒度を決めてしまえばすぐに実現した。

 勘定照合のプロセスの設定では判断に迷うところもあったというが、最終的には利用頻度の高い勘定科目で先行して事例を作成し、それを基準にプロジェクトを進めたという。

今後は「仕訳入力」によりデジタル会計帳簿の拡張や集約データを用いたAIシステムへ

 同社が次に取り組むのは「仕訳入力」機能を利用した業務の自動化だ。ERPからBlackLineには「自動勘定照合」機能を使って自動的に月初残高が送られる。

 BlackLine側では、ただ当月の取引を入力していくだけでERPへの仕訳計上が自動的に実行される。ERPで処理した結果の月末勘定残高は、やはり自動勘定照合機能によりBlackLine側の月末残高明細に反映される。

「このようにERPとBlackLineを有機的、論理的に結合できれば、ERPの帳簿だけでなくBlackLine内のスプレッドシートもデジタル会計帳簿として活用できるようになる」(國井氏)

 また、DXのゴールにつなげる動きとして、AI利用の自動化システムに発展させる意欲も旺盛だ。タスク管理機能で経理業務に必要な取引とプロセスのデータを全てデジタル化して一元管理していくと、そこに集約されたデータを機械学習の対象にできる。これまでさまざまなシステムなどに分散していたデータが一元化、集約されれば、それを学習して経理処理などを適切に自動化できるAIを構築できるという。業務関連のデータは豊富にあっても、必要なデータが分散していて再利用ができない状況の企業は多いことだろう。それをまとめてAIの学習、訓練に利用できる環境づくりはAI活用の前提として重要な整備項目だ。

 業務の標準化や整理、新しいツールの導入は時として従業員に混乱をもたらし、管理者とのあつれきの元となることもある。國井氏は最後に、現場と管理者の合意形成の重要性を示した。

 「業務を変革するのには抵抗もある。導入当初はかえって不便に感じることもある。ただし、現場の対応や調整で問題が解決することは多く、現場の対応力や調整力も変わっていく。導入時点では問題点と調整方法などに丁寧に向き合うことが重要だ。また導入関係者は使命感を持ってことにあたる姿勢が必要だ」

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