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ニューノーマルにおける企業内研修の在り方とは? 取るべき対応とテクノロジーを解説

企業内研修は新型コロナウイルス感染症の影響を受け、当初は中止や延期を強いられ、現在はWeb会議でしのいでいるところもあるのではないだろうか。今後しばらく感染症対策が続くことを想定し、本質的な対応が求められている。

» 2020年10月27日 06時00分 公開
[加山恵美キーマンズネット]

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の自宅待機要請が出た春先、企業の集合研修やOJTは中止や延期せざるを得なかった。Web会議システムで代用するところもあったが、実習やワークショップが実践できない、効率や効果が不十分であるなど課題が残っている。また一見問題なさそうなeラーニングにも落とし穴がある。初期のシステムだと企業内ネットワークでの実施を想定していて、社外でテレワーク中の受講生に配信できないシステムもある。場所や時間の制限を越えて企業の研修効果を高めるための教育理論やテクノロジーについて、ITRの平井明夫氏(リサーチ・フェロー)が解説した。

COVID-19で企業のIT投資は見直しを迫られた

 日本企業の多数が4月に年度始まりを迎える。そのような企業にとってCOVID-19の襲来は、次年度の予算が確定し、執行に移るという矢先だった。ITRが2020年4月に緊急調査を実施したところ、約半数の企業でIT予算の仕切り直しを迫られたことが分かった。もともと予定されていたプロジェクトが停止や延期に追い込まれる一方、COVID-19対応となる特別予算を計上したのだ。

IT部門の組織的対応、4割が特別予算化+プロジェクト見直し(出典:ITR講演資料)

 企業が緊急措置として実施したIT施策の上位にはテレワーク制度の導入、リモートアクセス環境やコミュニケーションツールの新規・追加導入が並んだ。新規または追加導入の対象で突出しているのがWeb会議/ウェビナーで、次いでグループチャット/社内SNS、オンラインファイル共有が並ぶ。

 平井氏は「COVID-19感染拡大を契機にコミュニケーションやコラボレーションの高度化、ワークスタイルの変革など従業員エンパワーメントの領域で優先度が高まった」と指摘する。コロナ禍以前はRPAなど業務の自動化や意思決定の迅速化・高度化などオペレーション最適化の領域で優先度が高かったところ、従業員エンパワーメントにシフトしたことになる。

いつでもどこでも受講、多様化した研修の管理にLMSが有効

 企業内研修はオンライン化を余儀なくされているのが実情だ。当面は感染症対策を念頭におかなくてはならないことを考えると、オンライン研修の課題解決に取り組む必要がある。

 企業内コミュニケーション同様、企業内研修も場所やデバイスに制限されることなく、受講できることが望まれる。オンラインでは困難とされる実習やOJTも、可能なものからオンライン化する必要があるだろう。実施形態の多様化に伴い、受講者の管理も効率化する必要がある。

 これまでの集合研修ならば、受講履歴を研修管理者が「Microsoft Excel」などで手作業で集計することも可能だったが、オンデマンド配信の研修において手動で履歴管理をするのは難しい。受講履歴や進捗(しんちょく)などを効率的に管理する機能が求められる。

 こうした課題解決のコアとなるのがLMS(Learning Management System)だ。eラーニングの管理システムは既に存在するが、ここ5〜6年で様変わりしつつある。eラーニングのコンテンツ配信とその管理を主とした従来型のLMSはオンプレミス環境への導入を前提としたものが一般的で、コンテンツは買い切るか、自社でオリジナルコンテンツを作成して配信していた。

 一方、最新のLMSはクラウドサービスとして提供され、マルチデバイス対応やサブスクリプションモデルの採用が標準的だ。アンケートや確認テストなどの双方向性も強化されている。管理機能も充実し、受講履歴や進捗管理が視覚的に表示されるものもある。コンテンツには短時間に区切ったマイクロコンテンツが多数用意され、カスタマイズしやすくなっている。このような形態で提供されるeラーニングをマイクロラーニングとも呼ぶ。

 平井氏はマイクロラーニングについて「これまで効果が上がりにくいとされたOJTや実習の比重が大きい研修を、ITで効率化、高度化することが目的だ。これまで主流だった研修形態のマクロラーニングを置き換えるものではなく、相互に補完するもの」と説明する。入社研修時にはマクロラーニングで集合研修を実施し、配属先でのOJTをマイクロラーニングで補強するといったすみ分けが考えられる。

 繰り返しになるが、ウィズコロナ、アフターコロナにおける企業内研修では「いつでも、どこでも受講できる環境の整備」と「実施形態が多様化した研修の管理」が必要になる。この課題解決で鍵となるのがLMSだ。「これからは企業のコミュニケーションツールとなるWeb会議とチャット、これにマイクロラーニングや研修管理機能を持つLMSの導入を検討すべき」と平井氏は指摘する。

ウィズ/アフターコロナに向けて整備すべき研修インフラ(出典:ITR講演資料)

時間とともに薄れる研修効果、定着や持続の方法は?

 インフラ整備だけでは解決しない課題についても考えてみたい。カナダのNPO法人の調査レポートによると、研修内容を実践している割合は受講直後の47%から1年後には9%まで減少する。受講しただけでは、効果は時間とともに薄れてしまうのだ。

 いかに研修で得た効果を持続できるか。注目すべきものとして平井氏が挙げるのが「研修転移」だ。これは経営学者の中原 淳氏らが著書『研修開発入門「研修転移」の理論と実践』で提唱したもので、研修で学んだことが現場で実践され、成果を生むことをゴールとしている。研修で学習したことを行動に生かすためには反転学習やインターバル型研修が有効とされている。

 研修転移の実現には研修の前後で講師や上司/メンターの関わりが重要になる。例えば講師は研修中の受講者に研修後の行動を立てさせ、研修後に実行しているかどうかを継続的にフォローする。上司/メンターは研修前の受講者に受講理由や目的を明らかにさせ、研修後にはなるべく迅速にフォローや評価を繰り返すことで、研修で学んだ効果を持続させることができる。

 他にも研修転移には反復学習や反転学習が有効とされる。ここにはIT活用(eラーニング)が有効だ。反復学習とは研修内容を何度も復習することで、記憶に定着させるのが狙いだ。集合研修に比べると、eラーニングならば何度も繰り返し講義を見直すことや、演習やロールプレイングを繰り返すことが容易だ。反転学習は受講前に講義の内容を事前に予習することで受講時の理解を深め、演習の効果を高めることができる。いつでもオンラインで受講できるeラーニングを予習に充てることで、集合研修では演習に専念できる。

 研修内容を一度にまとめて実施するのではなく、数カ月間のインターバルを挟み繰り返し実施するインターバル型研修も研修転移に有効だ。アナログな研修は長期にわたり研修履歴やレポートを管理する必要があったが、LMSを活用すれば管理者の負担が減る。

 コーチングやメンタリングでもITが活用できるだろう。先述したように、研修転移には講師や上司のフォローが重要になるが、これを長期にわたり対面でコミュニケーションできる状況を維持するのは難しい。しかしグループチャットを活用すれば、コミュニケーションの場が維持できて、過去のやりとりを見返すこともできる。

 平井氏は「ウィズ/アフターコロナに適応した企業内研修として、LMSで管理するインターバル型研修、あるいはコーチングやメンタリングでグループチャットを活用するなど、新しい研修方法を検討すべき」と提言した。

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