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元マイクロソフトの澤氏が語る テレワーク時代のマネジメントにはチャットがイイ理由

テレワーク時代の課題となりやすいのがメンバーマネジメントだ。従業員それぞれがオフィス外に分散して働くだけに、帰属意識の低下が起こりがちだ。これに対して、飲み会を開くよりももっと有効な解決策があるという。

» 2021年03月31日 07時00分 公開
[土肥正弘ドキュメント工房]

 「コロナ禍は2度目の世界リセットボタンだ」と語るのは、マイクロソフトを経て、圓窓を創業したITコンサルタントの澤 円氏だ。現在の仕事は全てネット経由という同氏がテレワーク時代のマネジメント論と管理職に必要な資質について語った。

本稿は「Why Slack? 非対面でのエンゲージメント・オンボーディング」(主催:Slack Japan)における澤 円氏による講演を基に、編集部で再構成した。

大企業から“ぼっち社長”へ 全ての仕事の受注窓口はオンライン

圓窓 澤 円氏

 マイクロソフトで勤続約23年、会社員として27年5カ月を過ごしたという澤氏は、2020年9月に圓窓で「ぼっち社長」として独立、現在は琉球大学客員教授やビズリーチ、その他民間企業数社の顧問、音声メディア「Voicy」のパーソナリティーなども務め、多忙な毎日を送っている。

 そんな同氏への仕事依頼は全てがネット経由だ。WebページとSNSが受注窓口になっている。帳簿やスケジュール管理はオンラインアシスタントサービスを使っているという。仕事がほぼ完全にオンライン化している同氏は、会社に出勤していた時代との違いをこう語る。

 「僕はできないことは徹底的にできないタイプで、スケジュール管理や数字の管理が全く駄目。そんな僕でも会社に入ったら、苦手なことは誰か別の人がやってくれるし、何か困ったことがあれば助けてもらえる仕組みがあった」と澤氏は振り返る。

 大企業ならではの分業の仕組みが助けとなったようだが、いったん大企業を出てしまうとそうはいかない。苦手領域の仕事も自分でこなさなければならなくなる。

 しかし同氏は「オンラインアシスタントサービス『CASTER BIZ』が役に立った」という。オンラインアシスタントがスケジュール管理や数字の管理を代行するサービスだ。

 「アシスタントは一度も会ったことがない人たちで、本当に存在しているかどうかも分からない。でも、仕事はちゃんとしてくれる。それで僕は満足している」(澤氏)

 スケジュール管理には「Microsoft 365」のサービスを利用し、オンラインミーティングには「Microsoft Teams」や「Zoom」を、そして業務連絡には「Slack」を活用している。

これからのマネジメントでリアルな会話よりも必要なもの

 Slackはコミュニケーションツールとしてだけでなく、組織における「信頼関係の構築」の役割も担っているという。

 「例えばオフィスではメンバーに『おはよう』と言うと、相手からも『おはよう』が返ってくる。それが一種の心理的安全性につながっていた。Slackでも『おはよう』とメッセージを送れば、何かの反応が返ってくる。それがボクの仕事スイッチを入れてくれる」(澤氏)

 もちろん生身の人との会話の方が心理的安全性を高めてくれるだろう。そうした意味では、物理的に人が集まるオフィスの方が優れているはずだ。同氏も「やっぱり出勤したい、元に戻りたいという人も一定数いるはず。だがその意識が強すぎるのも考えものだ」と指摘する。

 「2020年、世界は25年ぶりにリセットされた。これまでにリセットは2度あり、1度目は『Windows 95』が登場し、インターネットが普及し始めた時だ。インターネットの登場によって、電話やFAXが中心だったコミュニケーションがメールやチャット、SNSに置き換わり、世界は別ものになった。これを元に戻したいと思う人はいないだろう。そして、2度目のリセットが現在で、今まで対面が当たり前とされてきたことが、今はオンラインが主体になりつつある。これが1つの選択肢として定着してきた。働き方にこんな選択肢があることに多くの人が気付いただろう」

 しかし、中にはテレワークのようなオンライン主体の働き方に不安を感じる人もいる。特に心配しているのが管理職の人だ。

 「管理職の人は『メンバーが仕事をサボるのではないか』と心配をするが、サボる人は以前からサボっていた。むしろ、サボっているかどうかを判断する材料は何かが問題だ。メンバーが目の前にいなければマネジメントできないのはマネジャーとして失格だ。これからのマネジャーの必要条件は、定量評価ができること。定性評価はその上で加味される十分条件だ」(澤氏)

 では、いったんリセットされた世界で働く人に求められるマインドセットとはどのようなものか。

 同氏は「『管理する』のではなく、いかにして『応援する』のかを考えるのがマネジャーの役割だ。マネジャーはチームメンバーを助けるために存在する」とし、デジタルトランスフォーメーション(DX)の中でもマインドセットのトランスフォームが重要だと説く。

 「管理職だけでなく、全ての人がマネジメントをどのように行うかを考えるのがこれからの職場には大切。そのためには、プロフェッショナルであることが求められる。プロというのはしっかりとした数値化された目標が達成できる人のことを指す。安心して目標達成するためには、従業員の帰属意識が重要だ」

ニューノーマル時代に必要なのは飲み会よりも雑談する努力

 澤氏は、帰属意識を醸成する目的で開かれてきた「飲み会」にも疑問を呈する。

 「例えば音声SNSの『Clubhouse』は、各トークルームでお互いが言葉だけでなんとなく帰属意識を醸成している。今や、こうして言葉によって帰属意識を生む時代だ。これまでのように飲み会でもいいが、飲み会は全員が参加できるとは限らず、全員が行きたいわけでもない。緊急事態宣言や自粛要請などで飲食店に物理的に行けなくなった環境を喜んでいる人や、フェアな状況になったと喜んでいる人もいる」

 飲み会が苦手な人にとって、飲み会ありきの職場はかえって帰属意識を持ちにくい環境でもあったことは確かだ。では具体的にはどうすればいいのだろうか。同氏は「勤務時間に雑談する努力をする」ことと、「1 on 1ミーティングで雑談を定期的に行い、定着させる」ことが有効だと語る。

 「雑談を意識的に行うには、時間の確保やトピック選定、会話の取り回しスキルなど、実は努力が必要。雑談のきっかけづくりとして、あらかじめチャットでトピックを決めて話しやすい状態にし、Microsoft TeamsやZoomなどを使って雑談をするといいかもしれない。また、1 on 1ミーティングでの雑談はまだカルチャーとして定着していない企業もあるが、定期的な1 on 1ミーティングは有効だ。評価のためにやるのでなく、心理的安全性の確保と帰属意識の醸成のために行ってほしい」

 最後に同氏はこうアドバイスした。「オンライン主体の環境で不安に感じるのは自分が正しく評価されていないのではないかということ。その不安を払拭(ふっしょく)するにはフェアな評価と、評価のよりどころとなるKPI化された基準があること、そしてポジティブなコミュニケーションができる環境が欠かせない。これからオフィスとリモート環境とのハイブリッドな働き方が定着するのは必然だが、そこで『何のために仕事をするのか』を自問自答してほしい。僕は自分がハッピーになるために仕事をする。ハッピーになるためにはどんな働き方をすればいいのかを自分に問いかけながら、自分の描くハッピーな未来に向かって仕事ができるといいのでは」。

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