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「紙からの解放」で、バックオフィスをリモート化。AI-OCR×RPAの応用拡大を続けるリコージャパンの挑戦

» 2020年04月16日 10時00分 公開
[相馬大輔RPA BANK]

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RPA BANK

新型コロナウイルスの感染予防対策として、人が集まるオフィスや交通機関を利用しない「リモートワーク」が、にわかにクローズアップされている。その一方、リモート勤務の拡大を検討している企業では「押印で決裁を取るため出社が必要」「オフィスで保管している原本がなければ進められない」など、「紙文書」を前提とした従来からの業務手順が壁になっているケースも少なくないようだ。

こうした中、はからずも2019年からバックオフィスの業務効率化策として積極的なペーパーレス化を進め、仕入に関する会計処理業務をすでにリモート対応させていたのが、リコー製品を中心とした商品・サービスを提供するITソリューションプロバイダーであるリコージャパン株式会社だ。AI-OCRのクラウドサービスとRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)を併用した業務改革の成果、そしてバックオフィスのペーパーレス化がもたらす新たなワークスタイルの意義について、導入部署の担当者らに聞いた。

■記事内目次

  • ペーパーレス化・クラウド化が、請求データ処理担当者の在宅勤務を実現
  • .現場でのツール操作は最小限。「脱・手入力」で、確認工程を大幅に簡素化
  • 移行への不安解消に「あえて行うこと」とは

ペーパーレス化・クラウド化が、請求データ処理担当者の在宅勤務を実現

−最初に部署の概要と、ご担当業務をお聞かせください。

宮澤公一氏(経営企画本部 業務センター 発注売上業務室 室長): 当社は、リコー製品を中心に、さまざまな商品・サービスの提供をワンストップで展開しています。

リコー以外の製品を組み合わせたソリューション提案も多い当社では、他社製品の仕入が常時発生します。私たち発注売上業務室は、バックオフィス部門「業務センター」の一部署として、他社製品の東日本エリアの仕入に関する事務作業を社員・派遣社員の合計16人で担当しています。

かねて当社では、RPAを用いた業務効率化により、既に対象業務は270業務※を越える状況です。ただ、紙文書を原本とする前提で組まれた従来の作業手順を変えないまま、一部をロボット化するだけでは「書類を保管している社内でしか作業できない」という制約も残っていました。※2019年度累計実績

働き方改革に取り組む中で、在宅勤務に対する社内のニーズが大きかったことも踏まえ、業務センターでは2019年4月から、ペーパーレス化・クラウド化によるリモートワーク対応範囲の拡大が、業務改革の重点目標に掲げられました。

これに伴い発注売上業務室でも、2019年5月からクラウド型AI帳票認識OCRソリューション「RICOH Cloud OCR FOR請求書」の導入検討を始め、同7月から実運用を行っています。

山崎由紀子氏(同室 他社発注グループ): 当社が仕入れた製品に関する請求は、国内2か所の拠点で受け付けており、東日本をカバーするここ川崎市の拠点では、月間およそ3,500件の処理を担当しています。

請求書PDFのメール添付やファクスでの請求もありますが、圧倒的に多いのは郵送されてくる紙の請求書で、全体の8割を占めています。今回私は、この紙を原本にした手作業での入力・照合作業を自動化・ペーパーレス化・クラウド化する取り組みで、現場のリーダーを担当しました。

−リモートワークは、東京五輪を見据えた混雑緩和策として政府が推進してきたほか、新型コロナウイルスの感染予防策としても急速に一般化しつつあります。ここまでの成果はいかがですか。

宮澤氏: ペーパーレス化への移行にあたり「リモートワークも選べるようになる」と説明したところ、家庭や生活環境に応じた在宅勤務をしたいという希望がすぐ挙がり、現在は週1回程度でのリモートワークが当たり前になりつつあります。

山崎氏: 請求処理が増える月末でも在宅勤務を選ぶ社員がいますが、それで業務に支障をきたすことはありません。これは、OCRとRPAを連携させたデータ入力の自動化によって月約100時間相当の余力が創出されていることも大きいです。在宅勤務にとどまらず、月末の有給休暇取得もしやすくなり、勤務の自由度が増した実感を持っています。

宮澤氏: 業務量が他の月末の1.5倍に膨れ上がる年度末は、従来であれば確実に残業が発生する時期でした。しかし、ペーパーレス化後初めての年度末となる2020年3月については、現在の人員で、かつ残業をゼロに抑えて乗り切れる見通しです。

また、リモートワークができる環境になった事で、メンバーの多くがコロナウイルス感染予防策として在宅勤務で対応が出来るようになった事は非常に大きな成果です。

一年前では考えられませんでした。

現場でのツール操作は最小限。「脱・手入力」で、確認工程を大幅に簡素化

−リモート対応の実現に加えて、月100時間もの省力化が実現したとのことですが、具体的に作業手順をどう変えたのでしょうか。

宮澤氏: 郵送されてくる月3,500件近い紙の請求書のうち、イレギュラーな処理がない約半数を対象に、データの手入力からAI-OCRへの切り替えを行いました。

紙で届いた請求書は従来、データ入力担当者の分担に合わせてまず仕分けを行い、入力後は内容に漏れや誤りがないかチェックするための原本として別のスタッフに引き渡していました。

そのため、データの入力とチェックはともに原本を管理するオフィスで行うしかなく、また手入力で起きやすい数字のケタ間違いを防ぐためのダブルチェック、トリプルチェックを繰り返す必要がありました。

山崎氏: AI-OCRの導入後は、オフィスに届いた請求書から対象となるものを抜き出してスキャンすると、その画像のPDFがアップロードされ、テキスト化された結果と併せてクラウド上に保管されるようになりました。

スキャン画像と変換結果を目視で対比し、確認を終えた請求情報については1日3回、基幹システムへの登録をRPAツール「BizRobo!」がまとめて行う仕組みで、この登録情報と、仕入発生時の情報との照合をExcelマクロで行うまでの流れも完全に自動化されました。

これにより、請求書の情報を基幹システムに反映させる工程は、ネット接続できればどこからでも行えるようになりました。またOCRは数字の認識に強く、ケタ間違いも起こさないため、金額のチェック工程は簡略化され、手間と精神的な負担を大幅に低減できました。

−新たなソリューションで、ミスが許されない単純作業を減らせたとのことですが、スキャン画像と認識結果をAI-OCRの操作画面で見比べるほかに、現場スタッフはどのようなツール操作を行うのでしょうか。

山崎氏: “イレギュラーなもの”をOCRでどう処理しようかと悩みました。しかし複雑なものは時間をかけても仕方ないので、それは従来のやり方で手入力をすることにしました。

(※イレギュラー例:1枚の請求書に異なる案件の金額が複数記載されているもの等)

それ以外のツール操作は、ほぼ必要ありません。RPAツールに関しては、現場のスタッフの目に触れないところで動いています。作業手順の設計とソリューションの実装を行う社内のIT部門に「なるべくツール操作を少なくしてほしい」とお願いした結果、このような形となりました。

宮澤氏: どの請求書をAI-OCRで処理するかを含め、最初から明確なプランがあったわけではありません。試しに私が「紙の請求書を全部対象にしては」と提案したところ、現場の担当者からは「あまりにも非現実的」と笑われたほどでした(笑)。

その後、IT部門の担当者も交えた週1回のミーティングを開き、例外処理が多く自動化になじまないケースのふるい落としや「手順をこう変えれば自動化できる」といった見直しを行いました。

さしあたり自動化可能なケースを特定し、それらの処理プロセスをフローチャートに描いて可視化していく中で、従来と異なる流れの処理方法について、徐々に現場がイメージを共有できるようになりました。

移行への不安解消に「あえて行うこと」とは

−今回の導入にあたってもっとも大変だったのは、やはりそうした新たなフローを構築するところだったのでしょうか。

宮澤氏: いえ、むしろ現場のメンバーから「今までのやり方を変える」ことに理解を得るほうが大変だったような気がします。

「そもそもうまくいくのか」「手放しでの処理を信頼できるのか」といった、自動化そのものに対する不信感のほか、自分たちでつくった業務手順が変わることへの拒絶感もありました。

ですからまず、今回の取り組みがコストカットではなく、創出したリソースを「直接お客さまに向かう活動」に充てるためのものだと説明し、作業日程に余裕のある請求からAI-OCRに移行させた上で、手作業のときと同様のチェックを、あえて続けてもらいました。

山崎氏: しばらくすると、数字に関するAI-OCRの正確さや「もしミスがあっても、最後に仕入発生時の情報と自動照合するタイミングで必ず検知できること」を、全員が徐々に確信できるようになりました。

新しいソリューションを導入する上では、理屈で考えれば不要だとしても、実際に携わるメンバーが「自ら手や目を動かさなくなること」への不安感を解消できる段階を踏むことが大切だと感じています。

また、請求情報の登録が全社から集中する月末には、システム側が受けきれず、自動登録を完了できない作業が積み残しになる場合もあります。自動化からこぼれ落ちる部分を人手で補わなくてはならないことについてはIT部門から事前に説明がありましたが、こうした点を現場がきちんと了解しておくことも重要だと思います。

−AI-OCRの比較材料にもなっている認識精度についてはどうでしょうか。

宮澤氏: あくまでも感覚値ですが、現在の文字認識の精度は「95%」といったところです。請求処理が少ない月初・月中に、後続処理にデータを渡さない学習用のモードで認識を繰り返した結果、精度は徐々に向上しています。

山崎氏: 私たちが利用しているRICOH Cloud OCRは、請求書の多様なフォーマットからAIが自動的に項目を認識します。定期的な取引関係に至らない単発の請求なども含めると、当社に寄せられる請求書の様式は3万パターンに達しますが、これらの項目配置をすべて事前に登録する必要はなく、頻度や量が多い様式をいくつか登録しただけで本番稼働に移ることができたのは助かりました。

宮澤氏: AI-OCRの課金体系はさまざまで、総費用を抑えるために料金体系が異なる複数のサービスを併用する例もあるようですが、1枚あたり5項目までを単位にしたRICOH Cloud OCRの課金体系は、ユーザー視点からみてリーズナブルという印象を持っています。

−今回の取り組みの現時点での小括と、今後の展望についてもお聞かせください。

宮澤氏: さきほど「イレギュラーなものについては手入力している」という話がありましたが、実はこの点が問題視され、過去にAI-OCRの導入を一度見送った経緯があります。

今回「全てを自動化できなくても、できるところから進めていこう」と発想を転換して取り組んだ結果、ペーパーレス化・クラウド化による在宅勤務を着実に前進させることができました。依然手入力している請求についても順次、手順を見直しながらAI-OCRに移行させていき、月間のAI-OCRでの処理数を、さらに250件程度上積みしたいと考えています。

AI-OCRとRPAで創出された時間を活用し、この事例を自社の他部署や、お客さま向けにご紹介する取り組みも始まっているほか、取引先との協業により、請求データをCSVで直接やりとりする試みもスタートしています。AI-OCRの活用にとどまらず、紙文書そのものをなるべく使わないで済むための研究にも、今後さらに力を入れていく予定です。

−ワークフローのさらなる進化と、新たなワークスタイルの実現に向けた方向性が大変よく分かりました。今回は貴重なお話をありがとうございました。

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