どんなケースであっても、iPhoneのロック解除には応じない。そんなAppleの固い意志を無視して、iPhoneのロック解除を強行し、成功した強者がいた。ロック解除までの道筋を話そう。
たとえどんなケースであっても、ユーザーの「iPhone」のロック解除には協力しない。Appleは顧客のiPhoneのロック解除に対して強い拒絶を示す。
しかし、まるで岩のように硬いiPhoneのロック解除を強行し、見事成功した強者がいるという。しかも、その後には意外な“オチ”が付く。今回は、iPhoneロックの強行解除に挑んだ精鋭達の物語について話そう。
2015年12月、米国カリフォルニア州サンバーナーディーノにある福祉施設インランドリージョナルセンターにおいて、銃乱射事件が発生した。重武装した2人の犯罪者によって14人が死亡、17人が重軽傷を負うという大事件で、いわゆる「サンバーナーディーノ銃乱射事件」として報じられた。
事件発生後、容疑者2人は現場から数マイル離れたところで警察によって射殺されたのだが、これで事件の幕引きとはならなかった。容疑者がこの事件を実行した背景を知るため、FBIは捜査を続行した。
その捜査過程で大きな壁となったのが、実行犯で容疑者の1人、サイード・リズワン・ファルーク容疑者のiPhoneだった。FBIは容疑者のiPhoneの中に、動機につながる情報があるのではと考えた。しかし、iPhoneは当然ロックがかかっていた。iPhoneには、ロック解除のパスワードを規定回数以上間違えると内容が全て消去されるという保護機能があり、気軽にパスワードを入力するわけにはいかなかったのだ。
FBIはiPhoneの提供元であるAppleに対して、容疑者のiPhoneのロックを解除するよう要請したが、Appleはそれを拒否した。メーカーが勝手にユーザーのiPhoneのロックを解除すれば、それはプライバシー侵害にほかならない、という考えだったからだ。
AppleのCEOティム・クック氏は、「一度FBIの要請に応じれば、それはメーカー自らがiPhoneにいつでもアクセス可能な裏口を開けるようなものだ」と主張した。このFBIとAppleのやりとりは大きく報道されたので、既にご存じの方もいるだろう。
当時はこのFBIとAppleの応酬にビル・ゲイツ氏やエドワード・スノーデン氏が参戦するなど話題になったが、今ではこの件の話題を聞かなくなった。そう思った矢先に、事件から5年余りが過ぎた2021年4月14日、ワシントン・ポスト紙が容疑者のiPhoneに関して、その後どのようなことが起こったのかを報道したのだった。
記事によると、容疑者のiPhoneのロック解除をAppleが拒否した後、FBIはオーストラリアにあるAzimuth Securityというセキュリティ対策企業にiPhoneのロック解除を依頼していたという。
同社は、MozillaがiPhoneアプリ向けに開発したソフトウェアモジュールの脆弱(ぜいじゃく)性を利用した方法で容疑者のiPhoneを攻撃した。そして、AppleのLightningポート経由でiPhoneに侵入することに成功した。これによって、iPhoneの「パスワード間違いでデータ消去」の機能制限を解除し、“無限回”のパスワード入力を実行、そして無事パスワードの解除に成功したのだった。なんという力技か。なおこれは2016年のことだったという。
しかし、容疑者のiPhoneからは事件につながるような有益な情報は得られなかったという。よって、当局が事件を理由にして容疑者や事件関係者のスマホのロック解除を命令する正当性が認められていないという。事件から5年もたって大きく報道された本件には、こうしたオチがあったのだった。
上司X: Appleが拒否した容疑者のiPhoneのロック解除に成功した、という話だよ。
ブラックピット: あれだけ大騒ぎした割には微妙なオチですね。
上司X: 結局「特に何も見つかりませんでした」というのは、なんというか切ない幕切れだ。
ブラックピット: 関係者が東奔西走して発見したロック解除法だというのに。
上司X: それもこれも「Appleがロック解除を拒否したからだ」と思ってそうだけど。
ブラックピット: 僕はAppleの考えは正しいと思いますけどね。どういう事件であれ、第三者が勝手に誰かのスマホの中身をのぞくことは許されないと思いますね。
上司X: 調査によれば、実際のところ捜査当局や法執行機関が事件性のあるスマホからデータを入手したケースはすでに何百回とあるらしいし、Appleがロック解除について技術的に協力しているという話もあるようだ。ただ、あくまで技術的な協力の範囲で、Apple自体がロックを外してるということじゃないらしい。
ブラックピット: そうなんですね。これだけスマホが生活に根付いたデバイスになっちゃったわけですし、何か事件があれば解析の対象とされるのは自然な流れなんでしょうね。
上司X: 大事件を起こそうとするような人が事件実行時までスマホのデータをそのままにしておくことはないんじゃないか、という気もするけどね。スマホに保存されたデータは、たとえロックしてももはや秘匿性はないってことだ。悪さをするつもりがなくても、それなりの覚悟はしていたほうがいいかもよ。
年齢:36歳(独身)
所属:某企業SE(入社6年目)
昔レーサーに憧れ、夢見ていたが断念した経歴を持つ(中学生の時にゲームセンターのレーシングゲームで全国1位を取り、なんとなく自分ならイケる気がしてしまった)。愛車は黒のスカイライン。憧れはGTR。車とF1観戦が趣味。笑いはもっぱらシュールなネタが好き。
年齢:46歳
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中学生のときに秋葉原のBit-INN(ビットイン)で見たTK-80に魅せられITの世界に入る。以来ITひと筋。もともと車が趣味だったが、ブラックピットの影響で、つい最近F1にはまる。愛車はGTR(でも中古らしい)。人懐っこく、面倒見が良い性格。
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