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NECが実践して分かった「ERPの脱オンプレ」の成否を決める7つのステップとは?

企業の間で“脱オンプレ”の動きが進む。NECはサイロ化した基幹システムの刷新において、クラウドの道を選択した。当初は、SAP ERPからオンプレミスのSAP S/4HANAへの移行を検討していたが、それを振り切って完全クラウドシフトを決意した。

» 2021年06月24日 07時00分 公開
[唐澤正和ヒューマン・データ・ラボラトリ]

 NECは、2025年までに社会にデジタル技術を浸透させる"Digital Inclusion"を目指し、自社においてもデジタルトランスフォーメーション(DX)を推進しているところだ。自社グループの基幹システムを「SAP ERP」(SAP ECC 6.0)から「SAP S/4HANA」へ刷新するとともに、システム基盤に「Amazon Web Services」(AWS)を採用し、基幹システムの“脱オンプレ”を図った。

 NECの古殿隆之氏(NEC サービス&プラットフォームSI事業部 マネージャー)は、AWS移行の検討プロセスと意向のノウハウ、最適なクラウド移行を果たすための7つのステップを紹介した。移行プロセスを振り返り、順に解説していく。

オンプレでのSAP S/4HANA化をやめて完全クラウドシフトに

 NECが基幹システムのクラウド移行を実施した狙いについて、古殿氏は「SAP S/4HANA化するメリットを享受するとともに、ITインフラだけでなく運用や保守も含めたTCO(総保有コスト)の削減およびデータ量の増加、システム負荷の増加、変動への対応力の強化」を挙げ、次のように続けた。

 「ビジネスの成長に合わせてシステムを構築してきたため、基幹システムだけでも200を超えるシステムがあり、サイロ化されたシステムの運用に時間とコストを要していました。また、運用、保守スタッフの高齢化が進み、このままでは従来型のICT構造は維持できないと考えました。さらに、経営からの要請にタイムリーに対応できる柔軟なプラットフォームへの変革も求められました。そこで、SAP S/4HANAを中心に、段階的にシステム刷新を進め、クラウド移行によってシステム数の30%削減と、経営を支える戦略的ICTへの構造変革を目指しました」

(出典:AESサミットでの投影資料)

 クラウド移行に当たっては、機密性や連携性、可用性、費用の4点を判断要件に設定し、「情報セキュリティと処理性能、レスポンスをオンプレミスと同等のレベルで実現できるどうか。また、DR(災害復旧)、システムの維持、拡張コストの低減および最適化が可能であるかどうか」についてPoC(概念実証)を実施したという。

 古殿氏は「実は、当初はオンプレミスでのSAP S/4HANA化を検討していました」と切り出し、「クラウド移行に際して、実現可否を判断するため、2020年4〜6月までの約3カ月でPoCを実施しました。アマゾン ウェブ サービス ジャパンの社内関係部門のAWS認定技術者やソリューションアーキテクトと共同で、簡易的なグランドデザインの作成や要件の評価、『SAP on AWS』の机上検証などを進めた結果、ノックアウト要件がないことを確認し、上層部もクラウド移行の合意に至りました」と振り返る。

(出典:AESサミットでの投影資料)

 では、数あるクラウドサービスの中から、基幹システムの移行先としてAWSを選択した理由はどこにあるのだろうか。古殿氏は、そのポイントについてこう語る。

 「AWSは多数のSAP稼働実績を持ち、安定稼働についても品質観点でのベンチマークがありました。また、イントラネットとクラウドの間に閉域網接続を実現でき、クラウドの柔軟性とイントラネット同等のセキュリティを確保できます。さらに、NEC社内はAWS認定技術者が多く、トラブル発生時にも社内コミュニティーの知見や有識者の支援により問題を早期に解決できます。これに加えて、オンプレミスで継続した場合と、クラウドへ移行した場合の両ケースでTCOを比較分析できる『クラウドエコノミクス』プログラムを利用できた点も決め手になりました」

クラウド移行の成否を決める“旅支度”

 古殿氏は、基幹システムのSAP S/4HANA化およびクラウド移行プロジェクトを進める上で工夫した点について、「アビームコンサルティングの移行支援サービスを活用し、実現性のある計画立案」「テスト支援ツール『PANAYA』の適用による影響分析、テスト効率化」「プロセスマイニングツール『Celonis』とRPA(Robotic Process Automation)ツール『Blue Prism』を組み合わせた自動テスト方式『Digital Test』によるテスト効率化」「緊急事態宣言発令時も完全リモートで本番移行を完遂」の4つを挙げた。

(出典:AESサミットでの投影資料)

 「実行計画を短期間で策定し、機能の棚卸しをすることでコンバージョン対象を40%削減しました。移行支援サービスやツールの活用でテスト工数を大幅削減するとともに、事前に進めていた完全テレワーク化によって、コロナ禍でも当初の計画通り、2020年5月にNEC本体の基幹システムのSAP S/4HANA化、クラウド移行を達成できました」(古殿氏)

 ここで古殿氏は、NECのクラウド移行プロジェクトの実績を踏まえて、「AWSのクラウドジャーニーにおいて、快適にクラウド移行を進められるかどうかは、計画フェーズでの“旅支度”で決まると考えています」と語る。そして、クラウドジャーニーの旅に出る前の計画立案のコツを、以下の7つのステップで紹介した。

計画フェーズにおける7つのステップ

Step1.目的を決める

Step2.行き先を決める

Step3.方式を決める

Step4.優先順位を決める

Step5.時間を調べる

Step6.どのくらいの出費になるかを確認する

Step7.最終的なスケジュール表を作る

Step1.目的を決める

 それぞれの事業環境や課題に応じて、クラウド移行の目的を明確化し、優先度の高い目的を3つ定めること。例えば、グローバル化やコスト最適化、ビジネスのスピードアップ、生産性向上、ワークスタイル変革などだ。この目的を明確にしておかなければ、問題発生時に対策検討の軸がぶれてしまうことになる。

Step2.行き先を決める

 数あるクラウドサービスの中から、どれを利用すべきかを考える。提供サービス数やリージョン数、アベイラビリティゾーン数、データセンターレベル冗長化率、セキュリティおよび認証取得数、第三者評価結果などの指標を参考に、目的を達成するために最適なクラウドサービスを選択する。

Step3.方式を決める

 AWSの7つの移行方式である「7R」(ReLocate、Rehost、Replatform、Reperchase、Refactor(Re-Archtecture)、Retire、Retain)から、システムごとに適した移行方式を考える。各システムの現状と目指すべき姿をイメージし、どのシステムにどの方式が適しているのかを一覧化するとよい。

Step4.優先順位を決める

 各システムの移行方式を踏まえて、どのシステムからクラウドへ移行するのかを定める。例えば、ハードウェアの保守切れが近いシステムや、周りへの影響度が低いシステム、コスト効果の大きいシステムなど、社内で優先度のルールを決めておくのがポイントだ。

Step5.時間を調べる

 対象システムをどのようにクラウド化(クラウド最適化)していくのかを、短期、中長期の観点から考える。クラウド移行の計画が固まった段階で、誰もが迷わずクラウドを使えるように、利用部門と運用部門それぞれにガイドラインを作成することも、このステップでの重要な取り組みだ。

Step6.どのくらいの出費になるかを確認する

 クラウド移行した際の費用とオンプレミス環境を更新した際の費用を比較、確認する。「ここでは、AWSの『クラウドエコノミクス』プログラムを活用することで、クラウドサービスの利用料と運用費用(インフラ運用の人件費)およびオンプレミス更新時のハードウェア費用、データセンター費用(電力を含む)、運用費用(インフラ運用の人権費)を試算できます。ただし、ソフトウェアのライセンス費用やシステム構築、移行にかかる費用、ネットワーク費用などは含まれないため、別途確認し、費用計画の中で予算化しておく必要があります」(古殿氏)とのこと。

Step7.最終的なスケジュール表を作る

 ここまでのステップの検討結果を基に、クラウドジャーニーに向けて「クラウド移行の全体計画」「事前の評価計画」「システムごとの実行計画」の3つのスケジュール表を作成する。


 最後に古殿氏は、「NECでは、クラウド移行の計画策定を支援するサービスとして、『クラウド移行計画策定コンサルティング』を提供しています。このサービスでは、7つのステップで考えるべき内容を網羅しており、クラウド移行時のあるべき姿を描き、クラウド利用ガイドやクラウド移行計画書などを作成し、快適なクラウドジャーニーへの“旅支度”をサポートします」とアピールした。

本稿は「AWS Summit Online 2021」の、NECの古殿隆之氏による「11万人企業のDXへの挑戦 〜AWSを活用した社内のDXプロジェクトから得たNECの知見〜」の講演を基に、編集部で再構成した。

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