顧客管理は社内に散在。しかし事業が多忙で顧客管理のデジタル化どころではない。そんな三田証券が「Power Platform」を使って、最短距離でSFA/CRMの構築を目指した。同社が3カ月で実践したこととは。
従業員数約70人の三田証券は、証券や不動産、ローンなどの金融商品やサービスを提供する証券会社だ。営業ニーズに迅速に対応できないことが、かねて社内の業務課題となっていた。顧客管理や営業案件管理は従業員個別のPCでデータを管理しており、システム化が進んでいなかったが、業務で多忙な同社はそれどころではなかった。
そこで“最短距離”で自社に適したSFA(営業支援システム)、CRM(顧客関係管理)を開発できないかと考え選んだのが、ローコード開発プラットフォーム「Microsoft Power Platform」(以下、Power Platform)だった。着手から3カ月で本番リリースまでこぎ着けたという。本稿では、現場が抱えていた課題の顕在化から開発、リリースまでの道筋を説明する。
業務現場は「顧客情報を一元的に照会できない」「商品情報も一元管理されておらず、都度担当者への確認が必要」「部門間で情報が共有されていない(各従業員がメモ書きしている)」「部下の活動状況が把握できていない」という4つの問題を抱えていた。
口座や資産、取引状況といった顧客情報を一元的に照会できる仕組みが求められた。同時に、効果的な営業活動につなげるため、上司と部下、部門同士で顧客情報や営業案件情報を共有できる仕組みや、適切なマネジメントに向けた活動履歴の管理も必要だった。
この4つの課題をできるだけ簡単に解決したいとの思いから、三田証券はMicrosoft Power Platformを使った顧客管理のシステム化に踏み切った。日常的に利用する「Microsoft Excel」(以下、Excel)といったオフィスツールとの連携が容易な点や、短期間での開発が可能で、事業に最適なシステムを必要最小限の機能で開発できる点を評価した。
しかしローコード開発とはいえ、事業が多忙で開発に時間を割く余裕はなかった。
そこでPower Platformに含まれる「Microsoft Power Apps」(以下、Power Apps)用テンプレートをベースにすることを考えた。利用したテンプレートは、営業支援と顧客管理、顧客サービス領域向けにROITが提供する「ROIT Power Appsテンプレート」だ。
ROITはもともとクラウドビジネスアプリケーション「Microsoft Dynamics 365」の導入実績が豊富なソリューションベンダーで、「Microsoft 365」や「Microsoft Azure」、Power Appsとの連携を手掛ける。そうした顧客へのシステムインテグレーション経験を基に、各種業務特化テンプレートを作り、提供している。
このテンプレートの特徴は、Power Apps標準機能を用いて作成されたマネジメントダッシュボードによって営業活動の情報が俯瞰(ふかん)できることだ。グラフ表示や注目箇所のデータドリルダウンなど、売上管理、担当者別売上管理、件数管理などが視覚的に把握できる。オプションで「Microsoft Power BI」と連携すれば、さらに凝った視覚表現も可能になる。
営業案件管理画面の案件一覧表示(図2)はExcelなどMicrosoft 365のオフィスツールにエクスポート可能で、担当者は自分の手元で自由にデータ加工が可能になる。Excelデータのインポートも可能で、「Microsoft Excel Online」からならデータベースの更新も可能だ。フィルター機能により「確度Aの案件だけを抽出して表示する」といった絞り込みがクリック一つで可能になる。営業案件種別やリードの種別など、管理項目も自由に追加できる。
見積もりや請求書はアイテムマスターから商品名、単価、数量、単位を自動抽出し、小計や合計金額を自動計算する。見積もりから受注などと案件フェーズが変わっても入力ミスや二重入力が発生しにくい。また、Wordテンプレートへの見積もりデータの入れ込みも標準で可能で、出力レイアウトやロゴなどは自由に編集できる(図3)。請求書は会計ソフトと「Microsoft Power Automate」との連携により、自動的に作成できる。
タイムライン機能で、案件ごとに打ち合わせ内容や対応内容などを入力して参照可能にすることで営業活動状況も管理できる。「Microsoft Outlook」と予定を連動させられる他、メールを営業案件とひも付けて整理することもできる。
さらには、「Microsoft Teams」(以下、Teams)のチャンネルに営業案件をひも付けると、Teamsで案件のメンテナンスが可能になる。担当者と上司とのチャット履歴も参照可能になる他、共有ファイルの格納先を同一共有フォルダにできる点も利点だ。
このSFAテンプレートを使用することで、三田証券はSFA、CRMシステムを3カ月でリリースできた。Power Platformとテンプレート、ローコード開発のスピード感を実感できたという。
社内システムに手を加えた部分は、基幹システムからCSV形式でデータをエクスポートする機能だけだ。その後のETL工程からデータベース化のフローはPower Platformが担い、SFAテンプレートの適用により、外部業者の手を借りることもなく自前で迅速に開発できたという。Microsoft製品との連携が容易な点も評価した。
特に三田証券が評価したのが、プロトタイプの作成が非常に簡単だったことだ。イメージをプロトタイプにするのが簡単で、仕上がりがイメージと違っていたらその場で修正、確認して改善できる。そうして磨き上げることで、使い勝手も向上していったという。
同社は継続的にハンズオンのトレーニングなどのフォローアップを受け、システムの定着を図るという。
本稿は、Microsoft主催のウェビナー「データをパワーに!Microsoft Teams、Power Platformで営業業務のデジタル変革」の講演内容を編集部で再構成したもの。
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