企業で雇用される従業員は、コロナ禍収束後の変化に懐疑的な見方を示している。企業には生産性向上を目指してジョブ型雇用へのシフトを思考する動きがあるが、従業員の思考と乖離(かいり)している可能性がある。
コロナ禍によって働き方が大きく変わった。それらの変化は「もう戻らない」というのが一般的な認識だが、渦中の従業員は変化への適応を前向きに進めているとは限らない。
2021年7月16日、日本生産性本部が「第6回『働く人の意識調査』」の結果を発表した。コロナ禍の長期化に伴って生活や仕事の在り方が変わり、それに合わせて組織の形態も変わりつつある。そこで日本生産性本部は組織で働く雇用者を対象に、勤め先への信頼度や雇用、働き方に対する考え方などについて定期調査を実施している。6回目となる今回の調査は2021年7月5日〜6日、20歳以上の日本の企業や団体で働く従業員1100人を対象にインターネットを通して実施した。
ジョブ型雇用は専門技術を持つ人材の流動性を高め、企業の生産性を上げることを目的に提唱され、大企業を中心に導入が進んでいる。人材ありきのメンバーシップ型雇用とは異なり仕事に対して人材をつけるため、企業にとっては異動や転勤といった人事権は失う一方でレイオフなどの雇用に関する自由度は上がる。従業員にとっては仕事内容が限定されて責任範囲が明確になる一方で仕事が無くなれば失職するリスクもある。
調査によれば、勤め先が「信頼できる」や「満足できる教育機会を与えてくれる」と回答した従業員は「同じ勤め先で長く働き、異動や転勤の命令は受け入れる」とするメンバーシップ型のキャリア観が比較的強化されていた。
しかし「仕事内容や勤務条件を優先し、同じ勤め先にはこだわらない」とするジョブ型雇用を思考する割合は男性で61.3%、女性で72.4%あり、いずれも2021年4月に実施した前回調査よりも増加した。従業員のキャリア観は働く中で徐々に形成され強化されていくものであるとして、この結果から日本生産性本部は「ジョブ型のキャリア観を持つ雇用者は、今後も多数となるだろう」と見ている。
一方で、ジョブ型雇用の特長である「仕事内容の限定」については、メンバーシップ型思考の従業員のほうが「重視する」と回答する割合が高かった。企業がジョブ型を導入するのは業務内容の限定によって専門性を高め、生産性を上げることを狙いとするが、ジョブ型思考の従業員はメンバーシップ型思考の従業員よりも仕事内容の限定を「重視していない」という傾向が出ている。
さらに自己研鑽についても、メンバーシップ型思考の従業員の方がより前向きに検討している傾向があった。自己啓発をしている割合は、メンバーシップ型思考の従業員で22.0%、ジョブ型思考の従業員で13.4%だった。「今後伸ばしていきたいスキルや能力があるか」を聞いたところ、メンバーシップ型思考の従業員の方が、ジョブ型思考の従業員よりも「伸ばしていきたいスキルや能力がある」と回答した。
これらの結果から日本生産性本部は、企業がジョブ型雇用に期待する「仕事内容を限定することで専門性を高め、生産性向上につなげる」という効果と従業員の思考にギャップがあることを指摘する。ジョブ型雇用について「時代の流行語となっているが、欧米を参考にしたジョブ型の制度を単純に採り入れることには慎重であるべきであろう」と警鐘を鳴らした。
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