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企業全体のDX視点で取り組みを デジタルマーケティング関連サービス市場動向

多くの企業が取り組むデジタルマーケティング関連のサービス市場について、2025年での予測を示しながら、現在のトレンドを見ていきたい。

» 2022年01月26日 07時00分 公開
[木村聡宏IDC Japan]

アナリストプロフィール

木村聡宏(Akihiro Kimura):IDC Japan ITサービス リサーチマネージャー

ITコンサルティング/SIなどの国内ITサービス市場、ビジネスコンサルティング/BPOなどの国内ビジネスサービス市場を担当し、市場全体の動向や主要ベンダーのサービスセグメント別/産業分野別の競争環境の調査/分析/コンサルティングを行う。また、デジタルトランスフォーメーション(DX)関連の調査も担当している。

デジタルマーケティング関連サービスとは

 「デジタルマーケティング関連サービス」は、主に企業のデジタルマーケティングを支援する外部サービスを指す。システムの構築、導入や運用を提供するITサービスと、デジタルマーケティング業務そのものを支援するビジネスサービスに区分される。今回の調査では広告媒体費用はデジタルマーケティング関連サービスの市場規模に含めないが、インターネット広告サービスはデジタルマーケティングの構成要素として捉える。

 デジタルマーケティング関連サービス市場の対象領域は多岐にわたる。IDCでは、「戦略」「キャンペーン」「メディア」「コンテンツ」「アナリティクス」という5つのセグメントに分け、ビジネスサービスとITサービスそれぞれの動向を見ている。各セグメントの対象業務は次の通りだ。

 ビジネスサービスにおいては、CXデザインや組織・業務改革、ブランドチャネル戦略策定などのビジネスコンサルティングが「戦略」に該当し、電子メールやWebマーケティングなどキャンペーン、プロモーション企画や実施のサービスが「キャンペーン」、メディアプランニングやバイイングなどの広告サービスが「メディア」、広告などのコンテンツ制作やSEO対策が「コンテンツ」、そして行動解析や広告効果測定などのデータ分析が「アナリティクス」にカテゴライズされる。

 ITサービスは、デジタルマーケティング戦略の策定とツールやクラウドサービスを選定するITコンサルティングを「戦略」と位置付け、MAツールなどキャンペーン管理システムの導入や運用を「キャンペーン」、メディアおよび広告管理ツール関連を「メディア」、コンテンツ管理システムを「コンテンツ」、そしてDWH(データウェアハウス)やアクセス解析ツールなどデータ管理システムの導入や運用に関連する「アナリティクス」となる。

デジタルマーケティング関連サービス市場のセグメント(出典:IDC Japan)

国内デジタルマーケティング関連サービス市場の予測

 IDCが発表した2020年の国内デジタルマーケティング関連サービス市場は、前年比2.6%の増加の4305億円となった。2020年〜2025年の年間平均成長率(CAGR)は7.2%で、2025年には6102億円の市場規模になると予測される。

 支出規模としては、2025年予測ではITサービスが2000億円を超え、ビジネスサービスは3500億円を超える。ITサービス市場よりもビジネスサービス市場の方が大きく、この傾向は2021年段階でも同様だ。成長率もビジネスサービス市場が高く、2020年〜2025年におけるCAGRはITサービス市場の3.2%に対して、ビジネスサービス市場は10.2%と見ている。

 特にDX(デジタルトランスフォーメーション)推進も含めたデジタルシフトが続く昨今の市場では、ビジネスサービスが大きな成長を毎年続けると予測される。コンサルティングについてはデジタルマーケティングの取り組みの方向性や内容を左右するという意味で、重要性が高いサービスだ。

国内デジタルマーケティング関連サービス市場の予測(出典:IDC Japan)

 ビジネスコンサルティングの需要増加は国内に限った話ではない。DXの拡大需要により、戦略立案を担うビジネスコンサルティングは世界的に成長する領域だ。特に北米や日本以外のアジア圏でも高い伸びを示している。

 セグメント別では、CAGRが15%を超える戦略セグメントや10%弱のアナリティクスセグメントの成長率が高いと見ているが、案件単価が相対的に低いコンサルティングサービス中心の戦略セグメントは市場規模が小さく、コンテンツやキャンペーンのセグメントと比べて4分の1ほどの規模だ。

 ただし、デジタルマーケティングの上流工程である戦略セグメントの成長率の高さが、市場の成長をけん引するドライバーとなることは間違いない。特に日本企業でデジタルマーケティングを推進する広告部門やマーケティング部門は、企業のIT人材の不足で外部インテグレーターに依存しがちな情報システム部門と同様の傾向が見られ、コンサルティングを手掛ける外部パートナーに依存する部分はある程度多い。

産業別のデジタルマーケティング関連市場のトレンド

 産業別では、金融の市場規模が最も大きく、次いで製造と流通が続き、それぞれ1000億円を超える市場規模と予測される。特に金融は、銀行や保険、証券、クレジットカードなどの個人顧客を抱える組織が多く、個人顧客向けの取り組みとしてWebやモバイルアプリなどのデジタルチャネルを強化する動きがある。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)による消費者の行動変容もその動きを加速させている一因だ。

 小売と卸売が含まれる流通も、個人顧客によるECサイト利用の拡大やデジタル化が大きなキーワードとなる。Webや電子メールといったデジタルチャネルから始まったデジタルマーケティングだが、今では実在店舗のデジタル活用まで拡大しており、市場規模はより大きなものとなっている。実在店舗とECサイトの連携強化やキャッシュレス決済、ポイント管理といった動きも成長の大きな要因だ。

 製造業については、広告代理店がナショナルクライアントと位置付ける食品や飲料、消費財メーカー、自動車会社、電機メーカーなど大手企業が膨大なマーケティング予算を持っている。従来テレビCMなどにかけていた予算をインターネット広告にシフトする動きが顕著だ。また、企業向けに提供するものであっても、最終顧客の消費者の動きをデジタルで捉える「B2B2C」の取り組みも進み、販売チャネル側もMAツールなどを駆使する動きがある。製造業が大きなシェアを持つ日本だけに、市場規模が大きいという事情もある。

 IDCでは、産業分野を「金融」「製造」「流通」「通信・メディア」「政府・公共」「その他」という6つに分けているが、「建設」や「医療」「教育」「運輸」「宿泊業」「サービス業」などが含まれるその他領域についても、成長率が高い産業分野と見ている。政府公共は2021年にデジタル庁が発足したことで、ポイントを付与してマイナンバー普及を推し進めるデジタルマーケティングの取り組みが注目される。

 通信・メディアについては、通信キャリアや新聞、雑誌はもちろん、「Netflix」などの新媒体も入ってくる産業分野で、5Gなどをキーワードにデジタルチャネルを強化する通信キャリアが成長を支えている一方、全体の支出額はさほど大きくない状況だ。ただし、5Gが広がることで、IoT含めたセンサーデータから顧客行動を分析するようなAI(人工知能)トラッキングなどデータ流通におけるセンサーデータ活用が進むと考えられ、マーケティング領域でも注目される分野の一つとなっている。

 ちなみに、デジタルマーケティング領域では、プラットフォームにAIを組み込む形で環境構築が進められている。中でも、AdobeとSalesforce.comがマーケティングクラウドの2大プラットフォーム(「Adobe Experience Cloud」と「Salesforce Marketing Cloud」)プロバイダーと位置付けられており、両社がAIをプラットフォームに組み込んだソリューションを展開している状況だ。AppleやGoogle、Microsoft、日系ソフトウェアベンダーを含め、AIがデジタルマーケティングの進化を後押しする存在となっている。

デジタルマーケティングにおける最新動向

 デジタルマーケティングを手掛けるベンダーでは、ビジネスサービスおよびITサービス双方の事業者がそれぞれの弱かった部分の強化を進める。エージェンシー領域が主力の広告代理店を中心とするビジネスサービス事業者は、デジタル関連のケイパビリティを強化するべく、オペレーション業務の強化やDX関連のサービスを手掛ける企業のM&Aや資本業務提携などが目立つ。一方でITサービス側はエージェンシー領域を強化する動きがある。アドテク領域も含め中小規模のベンチャーが乱立しているが、集約化する流れも見られはじめた。市場の成熟化に伴い、徐々にベンダーの集約化も進んでいくことだろう。

 デジタルマーケティングを取り巻く環境は、ある意味で異種格闘技戦のようにビジネスサービスとITサービス領域が融合していくと言われてきたが、エコシステム全体でみるとおおむね棲み分けられている。例えばITサービスベンダーやコンサルティングファームが広告代理店が強みとするプロモーションや広告(とくにメディアバイイング)を直接手掛けるケースは限られている。様々な事業者が参入し、競合状況は複雑化しているものの、うまく補完し合いながらデジタルマーケティングビジネスを進めている。

 また、デジタルマーケティングにおいては、特にマーケティングクラウドを提供する大規模クラウドベンダーの優位性が増す。サービスベンダー経由だけでなく直販も強化しつつあり、ユーザー企業がサービスベンダーを通さずに直接大規模クラウドベンダーのサービスを利用する例も増えている。そのため、大規模クラウドベンダーの動きがサービス事業者に大きな影響を与えている。一例を挙げると、サードパーティーCookieの規制強化に代表される個人情報保護の動きの高まりは、インターネット広告の在り方やサービス事業者のビジネスに大きな影響を及ぼすことになる。

 サードパーティーCookieについては、リターゲティング広告においてユーザーの行動追跡に利用されているため、Cookieを前提としたマーケティング施策から脱却し、自社保有のファーストパーティデータの活用強化を進める動きも出てきている。

デジタルマーケティング関連サービス市場の変化

 これまでサービス事業者は、Webや電子メール広告、SNSなどを活用したデジタルチャネルを前提としたマーケティング活動を支援してきたが、現在はさらに広い範囲での支援が求められる。マーケティングのデジタル化が進む中、営業などのセールスやコンタクトセンターといったサービス周辺領域までデジタル化が進む。デジタルマーケティングは顧客接点のデジタル化だけでなく、企業全体で顧客との接点を変革させるための起爆剤として捉えることが重要となる。

 ユーザー企業も、COVID-19の影響で営業活動のデジタル化が進み、マーケティング活動の一環で獲得したリードをインサイドセールスに受け渡すといったプロセス間のデジタル化が加速する。コンタクトセンターに集まった情報を顧客の理解にうまくつなげられる環境も求められている。マーケティング領域だけでなく、営業活動や製造、サプライチェーンも含めた企業全体の視点に立って、デジタルマーケティングを考えていく必要があるだろう。

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