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コロナ禍で病欠が減った“怖い”理由

コロナ禍で従業員の病欠が減っている。その理由と思わぬリスクを専門家が語った。

» 2022年03月15日 10時00分 公開
[Katie ClareyHR Dive]
HR Dive

 労働者が取る病欠の日数が少なくなっているが、それは雇用主にとって喜ばしいことなのか。

 HRテクノロジープラットフォームを提供するBeameryとAtomik Researchが2021年12月に発表したレポート(注1)によれば、米国の労働者の約3分の2が「テレワークの選択肢のせいで病気のときでも働かなければならないというプレッシャーを感じるようになった」という。約5000人の回答者の39%が「疾病時にも仕事をする可能性が高い」と回答し、4分の1以上が「病欠が完全になくなったと考えている」と回答した。

 この傾向を明らかにしたのはBeameryだけではない。イギリス国家統計局(Office for National Statistics)は2021年3月に、2020年に疾病による欠勤率が1.8%に低下したと報告した。この数字は、政府が1995年にデータの記録を開始して以来の最低レベルだった(注2)。

 雇用主は、病欠がなくなれば予測できない欠勤が減り、生産性を高められると考えるだろう。しかし「その恩恵を得るには犠牲が伴う」と情報筋はHR Diveに語った。

 退職率が高く労働者が疲弊している中で、雇用主は本当に病欠を労働基準法から排除したいのかどうかを検討する必要がある。

パンデミック前から存在していた病欠中の労働

 Beameryのレポートは、病欠が急速になくなりつつあるという労働者の懸念を浮き彫りにした。これは、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックによって導入されたハイパーハイブリッドワーク環境に起因する現象だ。しかし、Arc Human Capitalの創設者兼主任コンサルタントであるアダム・カリ氏によれば、従業員は病欠を長い間活用してこなかった。

 「COVIDが流行る前は、米国の労働者が有給休暇をあまり利用していないことが知られていた」と同氏は言う。

 カリ氏の洞察はデータによって裏付けられている。2019年のAccountempsの調査では、労働者の90%が、風邪やインフルエンザの症状があっても出勤すると述べている(注3)。世論調査を受けた2800人の労働者の3分の1は、体調が悪くても毎日仕事に行くと答えた。調査では労働者の動機も明らかになっている。54%が、やるべき仕事が多すぎるため病気でも出勤すると答え、40%が傷病休暇を使いたくないと答えた。

 パンデミックの最中、労働者は体調が悪くても出勤していた。2021年3月のJust CapitalとThe Harris Pollの調査では、労働者の5人に1人が、パンデミックが始まって以来「病気でも働いてきた」と述べている(注4)。

 注目すべきは、「病気でも働いてきた」とした回答の理由が2019年と異なっている点だ。2021年の調査では、回答者の約3分の1が「病気でも働かなければ職を失うのではないかと懸念した」と述べた。別の3分の1は「欠勤をカバーする有給休暇がないため」と述べた。「病欠によって上司や雇用主を怒らせるのではないかと懸念した」とする回答者は28%に及んだ。

 Just Capitalの調査結果が出たのは2021年春、連邦政府のパンデミック休暇の規定が失効してわずか数カ月後のことだ(注5)。連邦政府が傷病休暇をより手厚くするよう要請しているにもかかわらず、一時的なコロナウイルス対策プログラムに代わる措置はとられていない。

 病欠に関する米国労働者のストライキが続いていることを新たなデータが示しており、カリ氏は不安を感じているという。病欠のセーフティネットがなければ、労働者はCOVID-19に感染した際に十分な有給休暇を取れるように「腹痛や風邪くらいでは休まない」と同氏は言う。

 「労働者はもっと壊滅的な何かに見舞われることを恐れ、有給休暇を後にとっておこうとする」(カリ氏)

 カリ氏によれば、労働者が病欠をためらうもう一つの理由は、過酷な仕事量に起因する。「多くの労働者が仕事の期限を守るのに苦労している。これによって退職率が高くなる」とカリ氏は述べる。

 「ひどい風邪をひいている人は快適なソファで風邪薬を飲んで、汗をかきながら受信トレイのメールを処理しすることを選択するかもしれない」(カリ氏)

これは雇用主にとって本当に良いことか?

 雇用主は、風邪やインフルエンザの季節に、より多くの仕事がこなせるようになったと満足しているだろう。2020年の春にテレワークがはじまり、多くの人が懸念していたように柔軟な仕事環境が生産性を損なわなかったことを知って喜んでいるかもしれない。

  「在宅勤務者の人が仕事を減らしているという考えは誤りだ。柔軟な職場環境が仕事に関する従来の制約を取り払ったことで人々はより多く働くようになった」とBeameryのCEOであるアバカル・サイドフ氏は述べている。

 カリ氏とサイドフ氏は、この現実の中に同じ問題があることを見抜いている。生産性の向上は雇用主にとって魅力的かもしれないが、長期的には無益だということだ。

 従業員は、雇用主が自分たちの福祉と健康をどのように考えているかをよく見ている。「パンデミックは従業員の心身の健康に対する意識に大きな変化をもたらした」とサイドフ氏は述べる。

 カリ氏とサイドフ氏は2人とも、大量離職時代(the Great Resignation)により、現在の労働市場で従業員の力が大きくなっていると言う。労働者が会社に利用されていると感じたとき、彼らは自分の立ち位置をより尊重し、何よりも報酬などの好条件を提示する会社をすぐに探し始める。

 病欠の取得方針(またはその欠如)は、雇用主が従業員の健康を大切に考えているかどうかを判断する基準になる。また、休暇取得の柔軟性を維持することは、たとえ病欠が容易であっても、病欠が重要であることを示す別の機会になるとサイドフ氏は述べる。

方針を決めて実行する

 サイドフ氏は、柔軟な労働環境における病欠の取得方針に関してさまざまな考え方があることを認識している。同氏によれば、労働者が必要なだけ休みを取れるような無制限の休暇規定を設ける雇用主や、さまざまな休暇のニーズに対応するために特定のバケット休暇を導入している雇用主がいるという。

 カリ氏は、傷病のために従業員を休ませる現在の闘争がPTO(有給休暇)の終焉を意味するのではないかと疑問を呈した。過去20年間に雇用主がPTOモデルに移行したとき、あらゆる休暇が1つのカテゴリーにまとめられた。

 「この問題のために方向転換する企業が出てくるのではないか」と同氏は話す。「労働者は病気のためにPTOを使うことを嫌う。彼らはむしろビーチタイム(夏季休暇)に使いたいと思っているのだ。しかし、私が雇用主で時間がたっぷりあるならば、従業員が休暇をどのように使うかを監視するほうが簡単だ」(カリ氏)

 「雇用主がどのような方針を選択しても、それを採用してモデル化することが不可欠だ」とカリ氏とサイドフ氏は述べる。

 「雇用主は行動規範と企業基準を設定し、リーダーはそれを模範とする必要がある。あるマネジャーが食中毒にかかり、休養のために1日休むことにした場合、そのマネジャーはチームにメールを送り、できれば詳細を伏せて、自分が体調を崩して休養する予定であることを伝えなければならない。そうすれば、次に体調を崩す人が出たときにも同じように対応できるはずだ。このような小さな行動の積み重ねが効力を発揮する」とカリ氏は言う。

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