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在宅勤務のネット費用負担は会社? 個人? 調査で見えた意外な実態

社会環境の変化によって在宅勤務できる環境が増えるなか、テレワークのネットワーク環境はどのような状況にあるのか。1人拠点ともいえる自宅環境とBranch of Oneの実態について調査した。

» 2022年04月27日 07時00分 公開
[IDC Japan]

アナリストプロフィール

山下 頼行(やました よりゆき)(Yamashita Yoriyuki):IDC Japan コミュニケーションズリサーチマネージャー

国内通信サービス市場、国内ネットワーク機器市場の調査を担当。IT市場、技術に関して、国内大手通信キャリアやIoTスタートアップでの技術、サービス企画、マーケティング分野での経験に基づき幅広い知識を有する。ベンダー調査、ユーザー調査に携わり、それらの調査結果をベースに、5Gなどの先進分野を含む国内通信サービス市場や国内ネットワーク機器市場の動向を検証、分析および予測を提供している。


目次

  • 在宅環境のネットワーク費用、全額負担する企業は意外と多い

  在宅環境を1人拠点として位置付ける「Branch of One」とは

  • すでに5G利用も、在宅勤務のネットワーク接続環境
  • 在宅勤務のセキュリティ投資、ゼロトラストの認知度が進む

  「EDR」「CASB」「クラウド型Webプロキシサービス」の認知度や導入率

  • 在宅勤務環境におけるIT環境整備のポイント

  在宅勤務環境のネットワークの主流になる可能性を秘めている5Gのエリア拡張

  新たなネットワーク設計ではトラフィック変動要素を十分に考慮する

在宅環境のネットワーク費用、全額負担する企業は意外と多い

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響で、多くの企業がテレワーク環境を整備した。現在もオフィスと自宅でのテレワークを併用するハイブリッドワークを取り入れている企業は少なくない。自宅から業務にあたる際、セキュリティやネットワーク環境を整備する必要がある。そこでIDC Japan(以下、IDC)では、国内900社を対象に「2022年 企業ネットワークサービス利用動向調査」を実施し、在宅勤務における利用回線種別ごとの満足度や、セキュリティ技術の導入状況、在宅勤務用のブロードバンド回線の会社負担の実態などについて調査した。

在宅環境を1人拠点として位置付ける「Branch of One」とは

 今回対象とした「Branch of One」とは、オフィスのIT環境を自宅へ拡張し、在宅環境を1人拠点として位置付けたものだ。在宅勤務の状況については、8割ほどの企業が週1回以上の在宅勤務を実施していると回答しており、全国で緊急事態宣言が発令されていた2020年5月と同様の結果となった。また、80%以上の従業員が在宅勤務をしているのが11%、50〜80%未満の従業員が在宅勤務をしているのが12.3%となっている。2020年7月の調査では6割強に落ち込んだ在宅勤務率だが、現在は緊急事態宣言発令中と同様となっていることから、在宅勤務の制度自体が企業に根付いてきていることが分かる。従業員規模別でみれば、国内正社員数1000人以上の企業において9割を超え、10〜99人の企業でも6割を超えており、企業規模が大きくなるほど在宅勤務を行っている従業員の比率が高くなっていることが明らかになった。

 業種で見れば、「情報サービス/通信/メディア」の産業分野が在宅勤務の比率が高く、「運輸/公共/公益」「医療」で低い傾向にある。ただし、比率の高い「情報サービス/通信/メディア」であっても、80%以上の従業員が在宅勤務していると回答した割合は28.1%ほどで、全従業員が常時テレワークを実施しているわけではなく、オフィスとテレワークを組み合わせたハイブリッドワークがその中心にある。

 ネットワーク環境の企業負担については、PCなど業務端末については「企業が購入して貸与する形で企業が費用を負担している」と回答した企業が大部分だが、ブロードバンド回線については「一部でも会社が負担している」との回答が6割強となっており、「全額負担している」と回答する企業は4割弱に達している。企業契約のモバイル回線などを提供するケースや在宅勤務手当として光熱費や通信費を負担しているという例は多く挙がった。その一方で、FTTHなど固定ブロードバンド回線の費用を全て企業側で用意するようなケースは少ない。

すでに5G利用も、在宅勤務のネットワーク接続環境

 実際に在宅勤務用のブロードバンド回線については、固定の回線とともに、3G・4G回線、5G回線の状況について調査している。また、自宅内のネットワークについても、有線LANと無線LAN、LANを経由しないの3パターンを想定して利用状況や満足度について調査している。

在宅勤務用に利用しているネットワーク環境(提供:IDC Japan「2022年 企業ネットワークサービス利用動向調査」)

 在宅勤務用に利用しているネットワーク環境については、メインで利用しているものが「無線LAN×固定ブロードバンド回線」の組み合わせで28.6%、次いで多かったのが「有線LAN×固定ブロードバンド回線」の27.1%となっており、在宅勤務においては全体の半数以上が固定ブロードバンド回線を利用していることが明らかになった。なお、無線ブロードバンド回線に「5Gをメインに利用している」とする回答が6%となり、割合は低いものの、5Gを在宅勤務におけるメインのブロードバンド回線として採用するケースが広がっているようだ。

 在宅勤務では、コミュニケーション基盤としてWeb会議を利用する頻度が増えたが、利用しているネットワーク環境ごとにWeb会議体験の満足度についても聞いた。ここでは、固定ブロードバンド回線よりも有線/無線LANと組み合わせた5G回線の満足度が最も高く、高速大容量である5Gのメリットが生かされている。

 ただし、4G回線に不満を感じて意図的に5G回線へ乗り換えるというよりも、新たに契約したモバイル回線が最初から5Gに対応しており、自宅が5Gエリアになっていることで5G回線が結果としてメインを担っているケースが多い。3G・4G回線の利用においてもWeb会議体験の満足度は5割を超えているが、固定ブロードバンド回線の満足度よりは低く、在宅勤務の環境としては固定ブロードバンド回線や5G回線がより適しているようだ。

在宅勤務のセキュリティ投資、ゼロトラストの認知度が進む

 今回の調査では、在宅勤務におけるセキュリティ対策の状況も聞いている。最近ではネットワークやセキュリティにおいて「何も信頼しない」ことを前提とした「ゼロトラスト」の考え方が話題となっているが、2020年7月の調査段階では、5割を超える回答者が「よく知らない、聞いたことがない」と回答していた。本調査では39.4%となっており、1年ほどで広く認知されるようになった。すでに、ゼロトラストを意識したセキュリティ対策を推進している企業も3割弱に及んでおり、従来の社内に閉じた境界防御の対策だけでは在宅勤務におけるセキュリティ対策として十分でないことから、ゼロトラストに沿った考え方によるセキュリティ対策強化が今後も進められていくだろう。

「EDR」「CASB」「クラウド型Webプロキシサービス」の認知度や導入率

 なお、在宅勤務におけるセキュリティ対策として「EDR」「CASB」「クラウド型Webプロキシサービス」の3点を挙げ、その認知度や導入状況について聞いたところ、「導入済み、または具体的な導入予定がある」と回答した割合はEDRが最も高く3割ほどが「導入済み」または「導入予定がある」と回答している。CASBやクラウド型Webプロキシサービスも2割を超える企業で導入済み、または導入予定があると回答している状況だ。

 認知度についてはクラウド型Webプロキシサービスが最も高い結果となったが、そもそもプロキシについては企業規模によって導入率に差があり、大企業を中心に導入が進んでいることが以前の調査結果から明らかになっている。すでにオンプレミス型のプロキシサーバーが導入されている大企業などの場合、ネットワークトラフィックを最適に制御するSD-WANによってローカルブレイクアウトを実施する際は、プロキシサービスとの連携が欠かせないものとなる。その場合、従来利用していたオンプレミス型のプロキシの改変よりも、クラウド型のWebプロキシサービスの導入がSD-WANとの技術的な整合性の点で有力な選択肢となる。オンプレミス型のプロキシを導入していない中小企業などの場合は、プロキシそのものへのニーズの低さから、すぐにクラウド型のWebプロキシサービスを導入するという流れにはなりにくい。

 一方で、従来のエンドポイント対策の感覚で導入可能なEDRであれば、導入検討する企業も少なくないはずだ。情報システム部門の人員の少ない中小企業などでも導入しやすく、在宅勤務環境におけるエンドポイント対策として有力なソリューションの1つとなってくることは考えられる。

在宅勤務環境におけるIT環境整備のポイント

在宅勤務環境のネットワークの主流になる可能性を秘めている5Gのエリア拡張

 在宅勤務におけるIT環境について、ネットワークやセキュリティの観点から調査してきたが、特にネットワークに関してはモバイル回線が重要なポイントになってくるだろう。従業員ごとに住宅事情が異なるため、固定ブロードバンド回線を企業側で用意することは難しい部分もある。また、ネットワーク障害が発生した場合も、地域や宅内の環境まで含めて切り分けしていくのは現実的ではないはずだ。

 モバイルの4Gや5G回線を企業側で契約し、Wi-Fiルーターなどを貸与して利用してもらえば、利用状況がシンプルに把握でき、サービス側で閉域網に接続可能な環境をインテグレーションすることも可能だろう。ただし、モバイルの場合は通信品質を確保することが固定回線に比べて課題が出てくる。そこで期待されているのが5G回線だ。5Gのエリアがさらに拡大すれば、モバイル環境であっても通信が安定する可能性は高い。

 その意味では、KDDIやソフトバンクグループ、そして組織の再編成を発表しているNTTドコモグループの法人向けサービスが、在宅勤務におけるネットワーク環境においては注目される。企業向けのWANサービスとモバイル環境を一体で提供できるだけでなく、法人に求められるセキュリティ環境を確保することも可能になるため、これらキャリアの動きは注視したい。鍵になってくるのは5G提供エリアがどこまでスピード感をもって拡大していけるかどうかだ。5G回線を企業が契約して従業員に提供したとしても、高速回線が利用できるエリアが限られてしまうと、従業員ごとに格差が生まれてしまう。格差が解消できるまで5Gエリアが広がれば、在宅勤務環境におけるネットワークおよびセキュリティの中核として期待できる。

新たなネットワーク設計ではトラフィック変動要素を十分に考慮する

 在宅勤務を含めた働き方が大きく様変わりした今、WANを含めた今後の企業ネットワークは自社の在宅勤務率を十分考慮したうえで環境を検討する必要がある。ハイブリッドワークを前提に考えると、オフィスに出社した場合でも社外の顧客との間でWeb会議を行うことは十分考えられるため、オフィスのトラフィックが日によって大きく変動することになることは間違いない。

 通信事業者側でも、ソフトウェアによって柔軟にトラフィックを制御し、日によってトラフィック増減の幅を調整してくれるような仕組みを検討する製品・サービスも出てきている。アクセス回線ごと、区間ごとに月額費用が算定される環境から、いずれは複数回線や複数区間、あるいはネットワーク全体のトラフィック量の契約という時代もやってくることは十分考えられる。トラフィックの動きが大きく変化することを念頭に、自社に最適なネットワーク環境を選択していきたい。

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