メディア

三菱自動車、日本ゼオンのオフィスDX事例 億単位のコスト削減も

働き方の変化に伴い、ハイブリッドワークに注目が集まっている。ハイブリッドワークの実現にはオフィスのDXも必要不可欠だ。三菱自動車と日本ゼオンが取り組む、ICT基盤を導入した「新時代のオフィス構築」とは。

» 2022年05月11日 07時00分 公開
[野依史乃キーマンズネット]

 コロナ禍以後、企業や自治体の多くが働き方の変化に取り組んできた。最初の緊急事態宣言から2年が経過した今、経済活動の正常化に向けてオフィス勤務を再開しテレワークと併用する"ハイブリッドワーク"に注目が集まっている。

 ハイブリッドワークとは、複数の働き方を組み合わせるワークスタイルを指す。オフィスか自宅かだけでなくシェアオフィスやコワーキングスペースといった、働く場所の選択肢もある。また、コロナ禍ではテレワーク推進に伴い、ペーパーレスや業務自動化などデジタル化の波も一気に押し寄せた。

 働く環境が変化する中、オフィスだけ「何も変わらずそのまま」ではいかず、オフィスの再構築やリノベーションのニーズが高まっている。コロナ禍以前、多くの企業は執務室に執務室に各従業員の専用デスクを置き、必要とあらばキャビネットに保管された過去資料を参照したり、バックオフィス部門に経理や人事業務などの提出書類を持参したりしていた。会議室では参加者全員が一つの部屋で顔を突き合わせて議論を交わしていたことも記憶に新しい。

 ハイブリッドワークでは、出社した時々の利用シーンに合わせて執務室やWeb会議に適した会議室、フリースペースなどの空き状況や予約可否を手軽に把握できた方が良い。また、出社している従業員同士が効率的にコミュニケーションできるよう同僚の出社状況や作業場所を把握したいというニーズや、出社か社外かに関わらずコミュニケーションのギャップを解消したいというニーズもある。これらを実現するには、オフィスのDX(デジタルトランスフォーメーション)も必要不可欠だ。

三菱自動車、「オフィスの無駄」を削減するシステムを構築

 2020年に設立50周年を迎える自動車メーカー三菱自動車工業(以下、三菱自動車)は2019年、働き方改革を促進させるため、ICTで人と場所をつなぐシステムを本社オフィス及び岡崎工場へ先行導入した。三菱自動車の主な国内拠点はは東京と岡崎、京都、水島の4カ所で、岡崎は開発やデザイン、生産機能を集約したR&Dの中心拠点だ。

 岡崎地区はR&Dの中心拠点として約1万人が働き、2018年末に建設された新オフィスビルには開発メンバーの3500人のうち、2000人が在席する。

三菱自動車の開発本部に設置されたサイネージパネル。オフィス内を可視化する。スマホでも操作可能だ(出典:内田洋行のプレスリリース)

 オフィスビルの建設当時、三菱自動車では人員増加や建物の老朽化、コミュニケーションにおける課題などを抱えていた。三菱自動車の担当者は新ビル建設について、「働き方改革を促進し働きがいのある会社を目標に、単に建物を建設・リノベするだけでなく、個人がパフォーマンスを最大化するためにワクワクするようなICTで業務効率化を図ることを目指し、余裕時間をより創造性の高い仕事に振り向けることが狙い」としている。

フロア全体を俯瞰したユーザーインタフェース。会議室内の写真も掲載され、社員をサポートする(出典:内田洋行のプレスリリース)

 同社によると、当時、工場は最先端のIoTなどを取り入れ大きく変化し続けていた一方、ホワイトカラーが働くオフィスの日常業務には多くの無駄が存在していたという。年間で積み上がる無駄は億単位のコストで、その無駄が解消されればシステム投資の費用対効果は大きい。そこで、付加価値を生まない「人、物、場所、情報を探すための時間の無駄を排除する」システムを構築することとした。

 また、もう一つの課題として、実現したいこととITベンダーの提供製品に乖離(かいり)があり、市販製品ではカスタマイズの自由度が低く、痒いところに手が届かなかった。仕様変更にもコストがかかり、要望を十分に反映できないことから、一からの開発を目指すこととした。

 そして三菱自動車はハイブリッドワークを支援するICT基盤「SmartOfficeNavigator」を内田洋行と協業して開発した。岡崎地区を起点に開発がなされた同システムは、2019年から同時進行で東京本社にも導入された。

ハイブリッドワーク支援「SmartOfficeNavigator」とは

 SmartOfficeNavigatorは既製品ではなく、三菱自動車の働き方改革のために新たに開発されたシステムだ。アプリやPC画面は、複雑な操作が必要なく、情報を視覚化してスタイリッシュなデザインにもこだわる。SmartOfficeNavigatorの主な機能は以下の通り。

 在社率の低いオフィス運用で、従業員同士が効率よく対面でコミュニケーションを取れるよう、位置情報と従業員情報をひもづけ一覧表示したり、フロアマップへ表示したりし、探している従業員の居場所のプレゼンス情報が表示できる。「Microsoft 365」などと連携して相手の状況を可視化しながら、コンタクトの方法やタイミングの効率化も可能だ。

 また、従業員がその日の利用シーンに合わせてオフィス内の最適なスペースを選べるよう、マップ形式でオフィスの混雑状況をスマホやPC、サイネージで確認できる。ミーティングの出席人数や使う設備、機能など、条件で絞り込むことで、場所の予約までに掛かる時間を大幅に短縮する。

SmartOfficeNavigatorのワークプレース選択画面(出典:内田洋行のプレスリリース)

 さらに、会議室や執務エリアの利用状況のデータを取得し、その分析結果をもとに会議室環境の大幅なリニューアルや運用改善につなげることができる。今後、センサーなど他のシステムのデータを統合し、利用頻度の高い会議室やオープンスペースの稼働率や利用人数の推移などをダッシュボードで可視化する機能を強化するとしている。

会議室や執務エリアの利用状況を分析したダッシュボード画面(出典:内田洋行のプレスリリース)

 また、オフィスの温度や湿度、CO2濃度など、センサーから取得した執務環境のデータを可視化する。スマホから利用状況を見て、照明や空調、換気などの館内設備の操作も可能だ。従業員それぞれが快適に感じるオフィス環境をコントロールし、利便性向上を実現する。

スマホから館内設備の操作が可能(出典:内田洋行のプレスリリース)

 三菱自動車では、これらの機能をマルチデバイスで使用でき、プル型サイネージなどのツール、各種OS上での対応が可能なシステムとした。2020年には設計本館(システム活用対象者約500人)も追加された。ただし2021年時点で、システム対象施設は岡崎地区全体の約400のうち190にとどまっているため今後は順次拡大も予定する。また、音声入力による雑務の補助など、システムの機能向上も見据える。

日本ゼオンのオフィス改革プロジェクトでも採用

 SmartOfficeNavigatorは、日本ゼオンの本社リニューアルでも採用された。ICTネットワークインフラを取り入れたオフィスの構築支援により2022年4月から新オフィスがオープンされている。

 日本ゼオンでは2030年のビジョンを「社会の期待と社員の意欲に応える会社」と掲げ、カーボンニュートラルやサーキュラーエコノミーを実現するものづくりへの転換や既存事業の磨き上げ、高い技術力を生かした新規事業の探索、社員が個々の強みを発揮できる舞台づくりを進めている。

 一方で、テレワークの普及によりコミュニケーションやコラボレーションの機会をどのように創出するかといった課題を抱え、新たな企業価値創出のためにも、多様な価値観を生かす風土づくりや、新しい働き方に対応する場が求められていた。

 このような背景から、日本ゼオンは新たな本社オフィスの愛称を『Z-SQUARE(ジースクエア)』と名付け、全組織や部署を横断した全面的なフリーアドレスを採用した。同時に、柔軟に働くための最先端なICT基盤を導入することで、個々の強みを発揮できる舞台となる本社オフィスへと生まれ変わった。

 今回のリニューアルにあたって、人と人をつなぐ中心拠点としてのオフィスを実現するため、幅広い部門から選出されたメンバーによる新しい“ハブ”を構築するオフィス改革プロジェクト(名称:Z-HUB(ジーハブ))が発足された。

ワークショップでの新しい働き方の検討、企業理念を体現するグラフィック検討など(出典:内田洋行のプレスリリース)

 同社によると、プロジェクトメンバーが企業理念や全社方針の理解、ありたい姿や新しい働き方を約1年にわたり議論を重ね、ワークシーンにまで落とし込み、施設内の運用計画を検討したという。

 オフィスリニューアルではSmartOfficeNavigatorの導入とともに、ハイブリッドワークを推進する支援空間の構築として充実したモニター設備や集音マイクなどが整備された会議環境や社内外の情報に目を向けられる情報共有の場を設けている。また、今後の予測できない働き方の変化にあわせて、働く場も変化に対応できるよう可動性を重視したオフィスを構築している。

利用シーンに応じて社員が自由に動かして使用し、創造性を高めることを加速させる(出典:内田洋行のプレスリリース)

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

会員登録(無料)

製品カタログや技術資料、導入事例など、IT導入の課題解決に役立つ資料を簡単に入手できます。