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「強制出社」イーロン・マスクの闇――TeslaとAirbnbの比較からテレワーク論争を考える

イーロン・マスク氏の「強制出社」命令は波紋を呼んだが、テレワークが困難を生じる場合があることも事実だ。企業がこの先テレワークに対してどのような方針を示すべきか。

» 2022年07月12日 12時25分 公開
[Ryan GoldenHR Dive]
HR Dive

 Teslaのイーロン・マスクCEOが「テレワークを希望する者は最低週40時間オフィスで働くか、さもなければ会社を去らなければならない」としたことで波紋を呼んだ。一方、Airbnbのブライアン・チェスキーCEOは、テレワークの問題点を挙げながらも、より柔軟な体制を取った。両CEOの発言を比較しながら、企業がこの先テレワークに対してどのような方針を示すべきかを考える。

最低週40時間オフィスで働くか、会社を去れ

 約2年間の試行錯誤と進化の結果、テレワークはもはやかつてのように珍しくはなくなった。テレワークは、希少な人材を獲得するための有用な特典であると同時に、文化を破壊するものだとも言われている。また、怠惰な社員が怠けるための言い訳であると同時に、未来の仕事のために生産性を高める必需品であるとも見なされている。

 数週間前、人事部門の管理職たちは、「この二律背反」が有名テクノロジー企業のCEOからの「似ているようで違う2通のメール」という形で展開されるのを目の当たりにした。

 5月31日、Teslaのイーロン・マスクCEOは、この2つのメッセージのうち、より議論を呼ぶと思われるものを送信した。Twitterで公開されたメールの画面キャプチャーによると、マスク氏は「テレワークはもはや認められない」という件名でTeslaの幹部に対してテレワークを全面的に禁止し、「テレワークを希望する者は最低週40時間オフィスで働くか、さもなければ会社を去らなければならない」と伝えたという。

テレワークを希望する者は最低週40時間オフィスで働くか、さもなければ会社を去らなければならない。これは工場労働者に求めるよりも少ない。これが不可能な特段例外的な貢献者がいる場合は、私が直接その例外を検討して承認する。さらに、ここで言う「オフィス」というのはテスラのメインオフィスでなければならず、例えばフリーモント工場の人事責任者でありながら別の州のオフィスで働くというように、自己業務と関連のない支社で働くことはあってはならない。(イーロン・マスク氏のメール内容)

 「これは工場労働者に求めるよりも少ない。これが不可能な特段例外的な貢献者がいる場合は、私が直接その例外を検討して承認する」とマスク氏は述べた。

 Twitterユーザーから、オフィスに来ることを拒む従業員にどう対応するか尋ねられたマスク氏は、自身のツイートでその強硬姿勢を強めた。

 ここ数カ月の間に、有名テクノロジー企業でテレワークについてなされた包括的な声明はこれだけではない。マスク氏のメールは、Airbnbのブライアン・チェスキーCEOが従業員に送ったテレワーク方針のメールからわずか1カ月余りで送られたという点でも注目された。

 チェスキー氏はテレワークに対してより好意的なアプローチをとっている。テレワークが不安を煽り、チームに「従業員が仕事を終えているかどうか分からない」という疑問を抱かせる可能性があることを認めている。同氏はまた「人々が集まって初めて生まれる有意義な人間的つながり」や「仕事と生活の間の緊張感」についても言及した。一方、チェスキー氏は、テレワーク中に行った仕事について、従業員を称賛することも忘れなかった。

 「私にとってはシンプルなことだ。皆さんを信頼している。柔軟性はチームメンバーを信頼したときにのみ機能する。あなた方はリモートでどれだけのことを成し遂げられるかを示してきた。この2年間でパンデミックを乗り切り、会社を一から立て直し、上場させ、サービス全体をアップグレードし、記録的な利益を生み出した。その全てをリモートで仕事をしながら達成した」とチェスキー氏は話す。

マスク氏の「オフィス強要」の決定的な問題点

 HR Diveの取材に応じた人事担当幹部は、2つのメッセージの評価として「信頼」をテーマに挙げている。情報技術サービス会社Ensonoの最高人事責任者を務めるメレディス・グラハム氏は、マスク氏のメールは採用の観点から近視眼的であるだけでなく、TeslaのCEOである同氏が「明らかにスタッフを信頼していない」ことの表れだと感じたと言う。

 人材分析会社Visierの最高人事責任者、ポール・ルーベンスタイン氏は「マスク氏のメールを読んで『あれは彼の選択だった』と思った」と語る。「あのメールは、従業員をいかに信じているか、そして従業員に関する外発的動機付けと内発的動機付けのどちらを信じているかの表明だった」(ルーベンスタイン氏)

 TeslaはHR Diveのコメントの要求に応じなかった。

 調査結果によれば、テレワークが全ての従業員にとってうまく機能しているわけではない。ワシントン州立大学カーソンビジネスカレッジが2022年に発表したレポートによると、太平洋岸北西部の従業員の38%が、継続的なテレワークはコラボレーションやチームワークに悪影響を及ぼすと回答している。また、Z世代の回答者は、他の年齢層に比べて、オフィスでの経験がないために自分のキャリアアップが阻害されたと感じることが多いことも分かった。

 しかし、特に従業員と雇用者の関係のバランスが変化した現代では、自らオフィスに戻りたいと思うことと、それを強要されることには違いがあると、ルーベンスタイン氏は述べている。ルーベンスタイン氏は、従業員の内発的動機につながるミッション主導の文化は、外発的要因に依存する文化よりも持続的なつながりを形成できると付け加えた。「気に入らない上司の下で働く苦痛には、それなりの対価が必要だ」とルーベンスタイン氏は話す。

 グラハム氏は、チェスキー氏のメールはマスク氏のそれとは「正反対」であり、AirbnbのCEOは、オフィス勤務とテレワークの両方の選択肢を進めるという企業の決定について、パラメータと詳細な根拠を示していると述べている。

 ルーベンスタイン氏は、マスク氏のツイートに対する反応は、職場の進歩的・後退的な決定をセンセーショナルに伝える一連のストーリーの一つだと話す。良いニュースにはなるが、大多数のケースと比較して異常だと受け取られる可能性があると指摘した。

 「これは従業員にとって反響室になる。職場のコミュニケーションが公共のニュースになり、ブランドの一部になる時代なのだ」と同氏は指摘する。

 Teslaは、過去に従業員に対して同じような直接的トーンの人事文書を発表したと伝えられているが、企業にとっては、マスク氏の冷淡さを見習うべき理由がそれだけ多いということだろう。

オフィス復帰を目指す企業が守るべきこと

 しかし、Teslaの工場で働く従業員や、彼らが現場作業に費やす時間について言及したマスク氏の言葉に対して雇用主はより理解を示すかもしれない。ルーベンスタイン氏は、第一線の労働者と非第一線の労働者の両方を雇用している多くの企業と話をしてきた。これらの企業は、非第一線の労働者のグループに、同僚との連帯を理由にオフィスに戻るように指示しているという。

 また、従業員が物理的な職場に戻ってくることを主張する経営者はマスク氏一人ではない。ルーベンスタイン氏は「私も従業員によく似たことを言った」と話す。

 「オフィスに来ないことを望むなら、Visierに居場所はない」(ルーベンスタイン氏)

 しかし、ルーベンスタイン氏は次のように付け加えた。Visierは「オフィスに出勤する」という行為について「従業員が同僚に対して仕事をしていることを示すことであり、また、従業員が仕事と家庭生活を切り分ける方策」だと定義したという。この種のメッセージは、テレワークやハイブリッドワークで精神的に疲弊している従業員にとって魅力的かもしれない。

 Visierは、従業員が戻って来たいと思えば歓迎するという方針で、オフィスを再開した。この方針を運用し始めて以来、リモートで働く従業員がオフィスで過ごす日数が増加し、平均週2日に近づいているとルーベンスタイン氏は述べている。

 また、テレワークができない従業員がいても、必ずしも雇用主が柔軟性を取り締まる必要はない。グラハム氏は、Ensonoにはデータセンターなどの施設で物理的に業務を遂行しなければならない従業員がいるが、これらの従業員は「自分の業務にはそれが必要だと理解しており、われわれはそれをサポートしている」と述べている。さらに、チームリーダーが担当者と一緒に施設に出向くこともあるという。

 ルーベンスタイン氏は、オフィス復帰を目指す雇用主は、対面勤務が罰や従業員の生産性を測るリトマス試験ではなく、職場文化を高めるものであることを確認する必要があると述べている。

 「多くの人は、オフィスにいなければ仕事をしていないと考える。これは特殊な思考回路だ。信頼と権限委譲とは無縁の思考だ」と同氏は続ける。

リモートでも、オフィスでも、ハイブリッドでも気を付けるべきこと

 リモートでも対面でも、その中間でも、チームが円滑に機能するために人事がやるべきことはたくさんある。グラハム氏は、従業員が創造性と革新性を発揮できるようなコラボレーションに参加する機会を確保することは、リーダー次第だと述べている。リモートチームでも1カ月や四半期に一度、定期的に対面の時間を持つことができる。

 「リモートというのは、決してオフィスにいないということではない。リモートが主で、たまにオフィスにいる、という意味だ」とグラハム氏は言う。

 そして、もしリーダーが従業員の生産性が落ちていることに気付き始めたら、プロジェクトの完了や製品の発売、時間の記録など、従業員に調整を促すための指標を用意する必要があると同氏は続ける。

 また、雇用主は従業員に対して、対面勤務を義務付けるなど、ある行動が正しいと信じる理由を明確にする必要があると、ルーベンスタイン氏は述べている。たとえ一部の従業員が反対していても、罰則的な方法ではなく、対面勤務の持つ協調性や集団的な性質を利用するのも一つの方法だと同氏は付け加えている。

 ルーベンスタイン氏は「当社の柔軟な方針の下でさえ騒音が発生した」と述べ、「しかし、自分の原則を見つけ、それを貫くことだ」と助言した。

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