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» 2022年07月14日 07時00分 公開

コロナ禍で拡大しすぎた情シス業務を整理してみた

DXの推進やテレワークシフト、断続的な個人情報の漏えいなど、情シスを取り巻く環境は絶えず変化しています。研究職やインフラエンジニア、情報システム部長などさまざまなポジションを渡り歩いた体験を基に、情シスの業務範囲の変遷についてをお届けします。

[久松 剛エンジニアリングマネージメント]

 エンジニアリングマネージメントの社長兼「流しのEM」の久松です。業務委託先でエンジニアリングマネージャーを担当しつつ、ITかいわいについて歴史やエピソードを基に整理し「IT百物語蒐集家」として人の流れに主眼を置いたnoteを更新しています。

 特に好評なコンテンツの一つが、情シスの業務やキャリアを整理する記事です。情シスのスキルセットは企業の状況によって大きく異なりますが、どこでも"なし崩し"的に業務範囲が拡がる傾向にあります。業務の整理は「キャリアアップ」や「待遇交渉」「求人作成」など、さまざまな場面で役立ちます。本稿では、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のまん延で起きた変化についてお話しながら、拡大する情シスの業務範囲を整理します。

著者プロフィール:久松 剛(エンジニアリングマネージメント 社長)

 エンジニアリングマネージメントの社長兼「流しのEM」。博士(政策・メディア)。慶應義塾大学で大学教員を目指した後、ワーキングプアを経てマッチングアプリ「Omiai」を提供するネットマーケティングで、SREやリクルーター、情シス部長を担当し上場を経験。その後レバレジーズで開発部長やレバテックの技術顧問を担当後、LIGでフィリピン・ベトナム開発拠点EMやPjM、エンジニア採用・組織改善コンサルなどを行う。

 2022年にエンジニアリングマネージメントを設立し、スタートアップやベンチャー、老舗製造業でITエンジニア採用や研修、評価給与制度作成、ブランディングといった組織改善コンサルの他、セミナー開催などを担当している。

Twitter : @makaibito


コロナ禍を経て情シスの業務範囲はどうなる

 20年前、「組織で最もPCに強い人が任命される」ことで多くの情シスが誕生しました。当時の主な業務は「デスクトップPCのキッティング」「社内ファイルサーバの設定」「アカウント管理」などでした。

 しかし現在、情シスの守備範囲は下図のように拡大を続けています。各要素について見ていきましょう。

情シスの業務範囲(出典:久松氏の提供資料)

社内インフラ

 ノートPCの普及でPCが社内外のあらゆる場所に持ち運ばれるようになり、無線LANの整備が必要になりました。2007年以降はスマートフォンやタブレットによって業務の自由度が増し、BYODやゼロトラストといった新しい概念が登場しました。そして今では、自宅が正式な職場と見なされるようになりました。

 当時のセキュリティ対策は比較的緩かったですが、2001年7月に「CodeRed」、2001年9月には「Nimda」といったランサムウェアが流行したことで、ファイアウォールの導入が進みました。近年はゼロデイ攻撃のようなセキュリティ対策前を狙った攻撃が現れ、ランサムウェアによる被害も相次いでいます。

 コロナを背景としたテレワークシフトによる勤務地の自由化に伴い、自社データを守ることが大きな課題となりました。一方、セキュリティ対策に寄り過ぎて利便性が失われると、“別の手だてを講じる従業員”が現れてしまいます。業務効率化の観点からも、情シスには「セキュリティと利便性のバランスが良い環境」を構築することが求められるようになりました。

 ライセンス管理も年々重要度が増しています。2000年代に管理すべきライセンスはOSやMicrosoftのOffice製品、Adobe製品、ウイルス対策ソフト、「秀丸」程度でした。幾つかはライセンスの正当性も怪しく、上場過程で慌てて整備する状況が散見されました。

 現在、ライセンス管理はソフトウェアの仕様レベルで厳格となった他、無数に存在するSaaS(Software as a Service)を前に社内の管理が追い付いていない状況を目のあたりにしています。ある大手企業では、各部署にライセンス管理を任していた状況で棚卸しをしたところ、情シスが認知していない1000種類を越えるライセンスが出てきたとのことです。収支の見直しの観点からも、ライセンス管理の一元化は業務の大きな比重を占めるようになっています。

 デジタルデータの重要性が増すにつれ、かつて従業員の机の下に転がっていたサーバはラックに安置されるようになり、重要なサーバはデータセンターに設置されました。そして、2010年代の数多の自然災害の影響で、パブリッククラウドによる物理的な分散、マルチリージョン、マルチクラウドといったクラウドシフトが加速しています。

外部管理

 情シスのタスクが増えるにつれ、工数の増加やケイパビリティの不足といった問題が起きました。そこで情シスの不足したリソースを補うため、外部委託を活用することになり、外部管理が発生することになりました。業務委託の人員管理のようなものもありますが、難易度が高いのは各種パッケージに関連する外注ベンダーの管理でしょう。

 特にERPは自社のビジネスモデルを理解した上で仕様を決定し、選定や導入、カスタマイズをするため、管理の難易度が高くなります。関係各所との合意形成や導入支援も必要なため高い折衝スキルが求められます。ITエンジニア抜きで導入を進めたケースを目にしたことがありますが、「営業にパッケージを買わされた」感が否めず、不満ばかりを耳にする結果となっていました。

管理

 2011年3月の東日本大震災の影響による物理的なサーバやコンピュータの破壊は企業に大きな衝撃を与え、BCP(事業継続計画)の整備が叫ばれました。2014年7月に起きた大規模な個人情報流出事件では、USBによる情報持ち出しが問題となりました。以降、企業の情報持ち出し管理が厳しくなり、「資産管理システム」の導入や、「業務委託先へのセキュリティレポートの提出」を求める商習慣が拡がりました。

 重大なセキュリティインシデントが発生する度に、より効力の強い対策が求められるため、情シスの負担は大きくなる一方です。

開発・業務効率化

 近年情シスの業務として数えられ始めたものの中に業務効率化があり、プログラミングが必要な場合もあります。代表的なものとしては、サービス間の連携機能の開発が挙げられます。特に自社サービスとERPの連携は、サービス開発部門とのやりとりが求められるため、社外に開発を依頼するにはハードルが高い傾向にあります。

 また、労務管理の観点から、従業員が自己申告した勤怠表と資産管理システムから取得したログを付け合わせることも増えました。過労死問題などが起きるたびに残業の実態把握が強く求められ、情シスは実態に即した管理方法について法務や労務と連携しながらプログラムに落とし込むことが求められます。

ヘルプデスク

 ヘルプデスクには高いホスピタリティが必要です。何かしらのトラブルが起きて問い合わせがくるため、情シスは余裕がなくて怒っている従業員と対峙することになります。経験上ですが、ファーストキャリアがITエンジニアの人よりも何かしらの接客経験を持っている人の方がうまくヘルプデスクで立ち回る傾向にあります。

 理想を言うなら企業にヘルプデスクが存在しない状態がゴールです。問題発生時に「自動でリカバリーする仕組み」や「FAQで従業員が自己解決する仕組み」「従業員のITリテラシが一定以上の状態」を達成できていることがゴールイメージになります。

 しかし現実は理想から程遠いです。私は職業柄、総務部の方とお会いすることが多いのですが、打ち合わせで「Zoom」をつなぐ際に、総務部以外の若い方が一瞬画面に映る場面に頻繁に遭遇します。DX(デジタルトランスフォーメーション)推進で最終的に立ちはだかるものは、新規に導入したシステムを使うユーザー教育だと感じさせられます。

 ヘルプデスクは、社内の情報が高度化するほど負担が高まりますが、ある程度企業のITリテラシーが低い状態でないと必要とされません。そのストレスと伸び切らない待遇を前に担当者はジレンマを抱えています。

情シスの業務範囲を含めたキャリアパス設計

 さまざまな外的要因によって情シスの守備範囲は拡大しました。企業ごとの環境によって各技術や施策を経験する、しないという差も生まれています。

 特に情シスの新規メンバーを採用する際は、何をどのレベルで任せたいかを明示して募集を掛けなければマッチングは困難な状況です。本稿で紹介した内容を生かしながら、是非情シスの状況を整理していただけたらと思います。

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