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TBSが2週間で全社ワクチン予約受付システムを構築 AppSheet活用の舞台裏

全グループでGoogle Workspaceを導入するTBSグループ。近年は、AppSheetやスクリプトベースの業務自動化ツールGoogle Apps Scriptを積極的に活用し、業務プロセスの変革を進めている。TBS独自の活用方法を担当者が語った。

» 2022年08月18日 10時00分 公開
[平 行男合同会社スクライブ]

 Googleのクラウド型グループウェア「Google Workspace」を全グループに導入したTBSグループ。近年は、ノーコードアプリ開発ツール「AppSheet」やスクリプトベースの業務自動化ツール「Google Apps Script」を積極的に活用し、業務プロセス変革を進めている。

 TBSホールディングスの峯松健太氏と温品貴大氏がGoogle Workspaceの便利な機能や、AppSheet、Google Apps Scriptを使った業務フローの自動化例について紹介した。AppSheetのユースケースでは、コロナワクチン受付アプリを使った予約管理フローをたった2週間で構築し、約1万人の従業員の職域接種に役立てたという。TBS独自の活用術に迫る。

グループ全社にGoogle Workspaceを展開 オンプレミスメールサーバとの連携も

TBSホールディングス 峯松健太氏

 TBSグループは2015年、大容量ファイルの共有を目的に一部の部署で「Googleドライブ」の利用を開始した。2018年にはグループウェア「G suite」(現Google Workspace)を導入し、TBSホールディングス、TBSテレビ、TBSラジオを皮切りに、ほぼ全グループ会社に展開した。現在、グループ内のGoogleアカウント数は約8800、アプリ使用容量は約2.5PBだ。

 「TBSグループでは、各グループ会社が独自にメールやファイルサーバなどを導入していたが、これをGoogle Workspaceに統一した。『Gmail』や『Googleドライブ』『Googleカレンダー』『Googleドキュメント』『Google スプレッドシート』などを利用した情報共有が進んでいる」と峯松氏は説明する。

 なお、グループ会社によってはTBSグループの統一ドメインだけではなく、独自のサブドメインも使いたいというニーズがあった。Google Workspaceは同一のメールシステムで、メインドメインとサブドメインを使用でき、マルチドメインのニーズにも応えやすかったという。

 さらにオンプレミスのメールサーバも使いたいというグループ会社には、Gmailの分割配信機能を使って対応した。この機能によって受信したメールを、Gmailのメールボックスまたはオンプレミスのシステムの受信トレイに選んで配信する設定を簡単に実装できたと峯松氏は話す。

Google Workspaceのみで1万人規模の職域接種を完遂

 2021年からはGoogle Workspaceの機能の中でも、ノーコードアプリ開発ツールの「Google AppSheet」や、スクリプトベースの業務自動化ツール「Google Apps Script」の利用を積極的に進めている。

TBSホールディングス 温品貴大氏

 前者のAppSheetは、コロナワクチンの職域接種受付アプリの開発に活用し、たった2週間でGoogle Workspaceの機能によてワクチン接種の予約、管理フローを構築できた。

 「2021年5月、TBSグループ全体で約1万人規模となる新型コロナウイルスワクチンの職域接種の実施が決定しました。接種開始までの3週間で予約受付管理システムを構築する必要性に迫られました。幾つかの選択肢を検討した中で、コストや導入のしやすさからAppSheetを選択しました。開発の途中でさまざまな要望が出てきたが、それらを盛り込みながら実装検証を繰り返し、スピーディーかつフレキシブルにアジャイル開発できました」(温品氏)

 構築したフローは次のようなものだ。まず、Googleスプレッドシートで部署別予約シートを作成し、各部署に配布する。各部署では予約担当者がこのシートに「誰がいつ何回目の接種を受けるか」の情報を入力する。予約シートに入力された情報はGoogle Apps Script の指示によってマスターシートに収集、整形される。そのマスターシートを、AppSheetで作成した受付アプリと連携させる。接種会場では受付担当者が、実際に接種した人の情報を受付アプリで入力する。入力された情報はリアルタイムでマスターシートに反映される。

Google Apps Scriptなどで構築したワクチン接種予約、管理フロー(出典:イベント投影資料)

 開発はGoogle Workspaceの基本ライセンスのみで実施し、追加のコストは発生していない。シンプルなUIの受付アプリを作成したので、接種会場の受付担当者への説明に手間取ることもなかったという。

Google Apps Scriptで各種利用申請のフローの一部を自動化

 TBSグループでは、Google Apps Scriptを申請書提出フローの構築にも利用している。Google Apps Scriptは、Googleが提供するプログラミング言語で簡易なプログラムを記述、実行することで、複雑な処理を自動化するツールだ。

 同グループでは各種利用申請書を、紙あるいはPDFで上長や提出先部門に提出していたが、ユーザーが「Google フォーム」で申請内容を入力すれば、その内容が自動的にPDF変換され、上長に送信される仕組みをGoogle Apps Scriptで構築した。

 TBSグループでは他にもさまざまなフローをGoogle Apps Scriptで自動化している。  

 「営業情報やコンテンツの評価情報を集計/整形して、ダッシュボード機能のGoogleデータポータルで可視化する仕組みや、従業員の出勤、休暇、テレワークなどのシフトをスプレッドシートで管理し、Googleカレンダーに自動反映させて、部署の誰がどこで業務をしているか共有できる仕組みなども構築しました」(温品氏)

 温品氏は、Google Apps Scriptを使う際は基本的なプログラミングの知識が必要だとする一方で、一度パターン化・テンプレート化できれば初心者でも簡単にカスタマイズでき、社内での普及につながると話す。利用を広げるには各部署にGoogle Apps Scriptの推進ユーザーを育てることが重要だという。

SAML を使用したシングルサインオン

 講演では、Google WorkspaceのSAML(Security Assertion Markup Language)を使ったシングルサインオンの事例も紹介された。

 TBSグループでは、社内開発のアプリやSaaSが増加しており、それぞれ個別の認証が必要なことがエンドユーザーの生産性を下げていた。管理者は煩雑なID管理、開発者は認証環境の構築にかかるコスト、時間に課題を感じていたという。

 こうした問題に対し、TBSグループではGoogle WorkspaceのSAML機能を活用してシングルサインオンを実装した。ドメインをまたいでワンクリックで各種アプリやサービスにログインできるようになり、エンドユーザーの利便性も向上した。IDの一元管理による運用負荷の軽減や、認証環境のスピーディーな構築といったメリットによって、SaaS導入のハードルが下がったという。

本記事は2022年7月21日開催された「Google Workspace Summit」の講演「Google Workspaceを導入したTBSが目指す次の展開とは」を基に編集部で再構成した。

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