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Googleのノーコード「AppSheet」とは? 使い方、RPA機能のメリット、料金を解説

Googleの「AppSheet」はプログラミングの知識がない人でもアプリケーションを開発できるノーコードツールとして注目を集めている。使い方や活用例、Microsoft PowerAppsとの違い、最近追加されたRPA機能の実力、料金などをまとめた。

» 2021年06月07日 07時00分 公開
[吉村哲樹オフィスティーワイ]

 高度なプログラミングスキルがなくても簡単かつ迅速にアプリケーションを開発できるツールとして「ノーコード」「ローコード」ツールが注目を集めている。現在は各ベンダーからノーコード/ローコードをうたう開発ツールが提供されているが、Googleが提供するノーコード開発プラットフォーム「AppSheet」は、「Google Workspace」(旧G Suite)や「Google Cloud Platform」(以下、GCP)のユーザーを中心に認知度を上げているようだ。

 本稿では、AppSheetの導入メリットや使い方、料金などを整理し、「実際にどのようなアプリケーションを開発できるのか」「コーディングの知識がないエンドユーザーでも扱えるのか」「類似ツールである『Microsoft Power Apps』」などとは何が違うのか」といった疑問に答える。さらに、2021年4月に新たに追加されたGoogle版RPA(Robotic Process Automation)ともいえる「AppSheet Automation」の機能説明も盛り込んだ。

Googleのノーコード開発ツール「AppSheet」とは

 AppSheetはもともとAppSheet社によって開発、提供されていたサービスだ。Googleが2020年1月に買収してGCPのポートフォリオに加えた。Googleはそれ以前から独自開発のローコード開発ツール「App Maker」を提供していたが、AppSheetの買収に伴い2021年1月をもって提供を終了。同社のノーコード/ローコードサービスはAppSheetに一本化されることになった。このことからも、GoogleがAppSheetにかける意気込みの高さがうかがえる。

 2021年4月には、RPAライクなプロセス自動化の機能を加えた「AppSheet Automation」も正式リリースされ、AppSheetの製品群に加わった。これによって、RPAを使った業務自動化に関心のあるユーザーからも注目を集めている。

 日本国内におけるAppSheetの代理店を務める吉積情報の江口隆司氏(アプリケーション開発部)は、近年のローコード/ノーコードに対する関心の高まりについて次のように見解を述べる。

 「システムを開発したり、パッケージ製品やSaaS(Software as a Service)を導入するほどではないスキマ業務を手軽に自動化、効率化する手段として、ローコード/ノーコードに着目する企業が増えています。適用対象の業務としては、申請および承認業務や、在庫管理、勤怠管理、プロジェクト管理、点検作業などのニーズが高いです」(江口氏)

図1  AppSheetの適用業務例(出典:吉積情報の提供資料より)

 前述したように、AppSheetによる開発はコーディングを必要としないため、プログラミングの知識がないエンドユーザーが、手作業でしてきた業務を自らアプリケーション化できる。実際に、AppSheetの導入企業を対象にした調査では、AppSheetで開発をするユーザーの39.4%がコーディングのスキルを持っていないと答えた(図2)。

図2 AppSheet ーザーの特徴(出典:吉積情報の提供資料より)

 一方で、シャドーITを抑制し、社内のガバナンスを効かせるきっかけにもなる。その背景には、エンドユーザーが「Microsoft Excel」や「Microsoft Access」を使って独自に開発したアプリケーションが社内に乱立したり、IT部門を通さずに現場が独自の判断でクラウドアプリケーションを導入したりするシャドーITの問題がある。

 この問題に対し、現場でちょっとしたアプリケーションのニーズがあった際、エンドユーザーが独自に動く前に、IT部門の管理の下でAppSheetを使って迅速にアプリケーションを開発できる体制を整えれば、EUC(エンドユーザーコンピューティング)やシャドーITのリスクを事前に抑制できる。

Microsoft Power Appsとの違いは?

 現在はさまざまなベンダーからノーコード/ローコード製品が提供されており、Googleと並ぶメガクラウドベンダーの1社であるMicrosoftも「Microsoft 365」で利用できるローコード開発ツール「Microsoft Power Apps」を提供する。これらの製品と比べた場合のAppSheetの特徴について、吉積情報の伊藤勇斗氏(アプリケーション開発部 部長)は次のように説明する。

 「日本国内のノーコード/ローコード製品市場ではサイボウズの『kintone』が高いシェアを占めているが、Google Workspaceを使っていて、かつkintoneの導入を検討していた企業が、『Googleが買収したノーコードツールとは一体どのようなものなのだろうか』と興味を持つケースが多い」(伊藤氏)

 企業によっては、「Google App Script」(GAS)でアプリケーションを開発していたものの、それらのメンテナンスに課題を抱えているためにAppSheetを使って作り直すことを検討しているという。加えて、2021年4月からGoogle Workspaceのライセンス体系が変わり、最上位プランの「Workspace Enterprise Plus」を契約すればAppSheetを利用できるようになった。これもAppSheetに関心を持つユーザーが増えた理由の1つだ。

 なおAppSheetは、開発したアプリケーションを配布するユーザーが10人以下の場合は、基本的に無料で利用できる。配布ユーザーが11人以上になった場合は、全部で4種類あるライセンスプランの中から自社のニーズに合ったものを選んで契約する必要がある。

 個人ユーザーや小規模開発向けのライセンスとしては「Starter」と「Core」が用意されており、GoogleのWebサイトから直接契約の手続きを行う。Starterの場合は1ユーザー当たり月額5ドル、Coreの場合は月額10ドルの使用料をクレジットカードで支払う。なお最も安いプランであるStarterでも基本機能は一通り使えるが、Coreではこれに加えて、完成したアプリケーション内で「バーコード」や「QRコードリーダー」といった機能が利用可能となる。前述のWorkspace Enterprise Plusで用意されているのは、このCoreの機能だ。

 さらに中規模・大規模の企業向けライセンスとしては、ベーシックプランの「Enterprise Standard」と上位プランの「Enterprise Plus」がある。これらのプランは販売代理店を通じて契約し、価格も個別見積もりとなる。

AppSheetでアプリケーションを作成する方法

 Googleがかつて提供していたApp Makerは、ローコードツールのジャンルに属する製品だ。場合によってはGoogle Apps Scriptを使ってプログラムコードを記述する必要があった。それに対してAppSheetは、プログラムコードを一切記述する必要がないノーコードツールに位置付けられる。

 AppSheetを使ったアプリケーション開発は、3通りの方法がある。最も多く用いられるのが、データソースを基にアプリケーションのひな型を自動的に生成する方法だ。AppSheetで開発するアプリケーションは、「Googleスプレッドシート」や各種データベースサービスの他、Microsoft 365や「Box」内のExcelシートなどさまざまなデータソースを扱える(図3)。

図3 AppSheetがアクセスできるデータソース(出典:吉積情報の提供資料より)

 これらのデータソースをAppSheetの開発画面から読み込み、幾つかのデータ表示形式(View)から最適なタイプを選んで指定する。Viewタイプはアプリケーションの基本的なデザインを決めるもので、テーブル形式でデータを表示する「table」や、マップ形式で表示する「map」、チャート形式で表示する「chart」などさまざまだ。後は、AppSheetがデータソースの内容を精査し、格納されているデータのパターンを自動で判断して、各データに最適な入力フォームを自動で生成し、アプリケーションの画面内に配置する。

 例えばスプレッドシートやデータベースの特定の列に「メールアドレスのような文字列」が多く含まれていれば、アプリケーションのUIにメールアドレスを入力するためのフォームが自動的に生成され、同じく「日付のような文字列」が並んでいる列があれば、カレンダーを使った入力フォームが生成されるという具合だ。これが、アプリケーションのひな型になり、あとは細かなカスタマイズを加えればよい。

 「データパターンの判断には、GCPが備えるAI機能を活用している。AppSheetにはこの他にも、GCPならではのAIの強みを生かした機能が多く備わり、この点を高く評価してAppSheetの採用を前向きに検討する企業も少なくない」(伊藤氏)

 2つ目の開発方法は、アプリケーションの「アイデア」を基に、AppSheetが自動的にアプリケーションのひな型を生成するというもの。まずは「What kind of data does your app have?」という質問が表示されるので、イメージしているアプリケーションのキーワードを入力する。タスク管理のアプリケーションを作成したい場合は「manage task」といったテキストを入力するイメージだ。これをもとにAppSheettが、最適なアプリケーションのひな型を自動的に提案する。この提案の部分にも、やはりGoogleが強みとしているAI(人工知能)機能を活用しているという。

 そして3つ目が、テンプレートを基にアプリケーションを開発するという方法だ。AppSheetにはさまざまな用途に適したアプリケーションのテンプレートが約100種類用意されている。その中からニーズに最も合致したものを選び、中身をカスタマイズすることで容易にアプリケーションを開発できる。

Google版RPAツールの「AppSheet Automation」とは

 なお、2021年4月に新たに追加されたばかりのAppSheet Automationの機能を使うと、人間の判断が介在していた作業をアプリケーションに実行させられる。例えば、「ある特定の操作や入力があった場合は自動的にメールを送る」といったように、特定の条件がYesかNoかによって処理を分岐させ、フローを自動化できる。

図4 AppSheet Automationの開発画面(出典:吉積情報の提供資料より)

 この機能を活用すれば、「経費申請の入力があったら自動的に上長に通知メールを送る」「申請データに『緊急』とマークされていたら、メールの件名に自動的に【至急】を付加する」というように、自動処理を実装した「経費申請・承認ワークフローアプリケーション」などを開発できる。

 ただし自動化の機能が充実している分、カスタマイズの幅は決して広くない。多くのローコードツールのように、JavaScriptなどのプログラミング言語を使った細かなカスタマイズや、外部のプログラムやWebサービスを呼び出すような機能は備えていないため、リッチなUIやきめ細かなロジックの実装には向いていない。この点について江口氏は、「カスタマイズの幅を抑えることでアプリケーション開発の手順を標準化でき、属人化やブラックボックス化の問題を回避できるようになる」と説明する。

 また開発画面のUIが英語であることも、日本人ユーザーにとってはハードルが上がる点かもしれない。現時点では日本語化の具体的な計画はないが、「各項目や操作に関する説明文が付いているので、翻訳ツールを使って日本語に訳せば、英語が苦手であっても不自由はしないはず」と伊藤氏は述べる。

 なお江口氏はAppSheetに対して、Google WorkspaceやGCPとの連携強化、機能拡充が期待できるとしている。

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